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01:夢の中の異世界

 うん、これは夢だな。夢に違いない。私は今、愛する娘と一緒にベッドで寝ているはずなのだ。


 人の頭にあんな長い角は生えないし、紫色の肌をした人種も存在しない。

 ケンタウルスもミノタウルスも想像上の生き物だし、翼を羽ばたかせて飛び回る幼女がいるわけない。

 そして、エルフは私のようなオッサンの服をクイクイってしない。


「どうしました?」


 うん、たぶんエルフ。

 黒いフードをすっぽりと被っているけど、尖った耳を隠しきれていない。

 髪の毛は緑色で、丸い銀縁のメガネを掛けている、しわっしわのおばあちゃん。


「ふにゅふにゅふにゅふにゅへりゃへりゃほりゃほりゃ」


 うん、何言ってんのか分かんない。

 仕事柄、言語障害を持った高齢者相手でも割と会話が出来る方だと思っているけど、さすがにこれは分かんない。

 しわっしわだけど品のある、可愛らしいおばあちゃん。

 おいしいシチュー作ってくれそうな雰囲気。


「りょりょりゅりゅりぇりぇほほほほぺしゅー」


 大きな、とても重そうな杖で身体を支えながら、通りの向こうを指さす。

 う~ん、連れてってほしいんだろうか。何となくそんな気がする。


「家に帰るんですか?」


 杖をついていない方、おばあちゃんの左手を自分の左手で握り、左脇に私の右手を添えて歩き出す。


「こっちでいいの?」


 左耳の近くで少し大きめの声で話し掛ける。


「ひゃうん!」


 あ、ゴメンね、こそばかったね。ひゃうんだけ正確に聞き取れたよ。

 エルフは耳が敏感らしいからね、次から気を付けるね。


 おばあちゃんの歩行介助をしながら街を見回す。

 異国というより、異世界っぽいなぁ。

 夢は自分の願望や記憶を元に見るらしいけど、こんな街並みの記憶なんてないよ。深層心理の願望だって言われれば否定は出来ないけども。


「ガーダルウフーンバラリバラリョリョリョセッスー!」

「アーネンバラリトフジコピッピースルットー!」

「ダンスダンダンリリルルパヴォードゥルッ、ブー!」 ボォーー!!


 お店のような建物の前で、腕が4本ある生き物が呼び込みみたいな事をしている。

 道の反対側では目が3つある女性らしき生き物が大鍋を混ぜている。

 その隣ではトカゲ頭が火を吹いている。

 私の深層心理は一体どうなっているんだろうか。


 おばあちゃんはニコニコしているけど、こんな街でも平和なんだろうか。

 その割におばあちゃんを気遣うような人物が1人もいないけど。

 あ、比較的人間っぽい人物が近寄って来た。


「マリョルヌロリバッハププヌブンバボアルエリ?」


 どうやら私に何かを問い掛けているような感じけど、何が言いたいのかさっぱり分からん。

 曖昧に笑顔を浮かべて頷くのは日本人の悲しい性だな、ついついやってしまった。

 比較的人間っぽいその女性は私の肩をバンッ! と叩いて離れて行った。


「とるりぬんぽりっぷうぷぅぺれぽぃ」


 大きな屋敷の前で、おばあちゃんが歩みを止めた。

 ここがお家なんだろうか?


「ここがお家でいいんですか?

 お家の人いるかな、さすがに門の前でバイバイするには広過ぎるお屋敷だな」


 仕方がない、一度手を取ったからには玄関までお送り致しましょう。

 玄関に辿り着くまでに転倒でもされたら夢見が悪くなる。うん、これは夢だけど。


 屋敷の門をくぐると、草木で彩られた庭園が見えた。

 庭園の手入れをしていたのだろうか、若いエルフの女性がこちらに気付き、立ち上がって歩いて来た。


「コマイウゴントンチェックス? ハグタハッンキン?」


 私に問い掛けているようだけど、またも曖昧に笑顔を浮かべてしまった。

 女性に構わずおばあちゃんは屋敷の玄関へと歩を進めているので、知り合いなんだろう。

 髪の毛の色も同じく緑だし、子供か孫かだろうか。

 若い女性が先を行き、玄関を開けてくれた。

 私も入っていいんだろうか? 屋敷の中へと入る。靴のまま入ったけど、洋風建築だからいいよね?

 入ってすぐの部屋にソファーがあり、おばあちゃんは私の手を掴んだまま座ってしまった。

 私にも座れと言われているような気がするので、隣に腰掛ける。


「おばあちゃん、ここに住んでるの?」


 ニコニコしたまま私の顔を見つめるおばあちゃん。癖で、曲がった腰を撫でてしまっていたので、手を引っ込める。

 引っ込めた手を両手で握り締め、私の目を見つめるおばあちゃん。

 とても品のある笑顔。ここが異世界ならば、恐らくこのおばあちゃんはお貴族様だ。

 私のような庶民がこの高そうなソファーに座っていていいのだろうか。

 いいんです、だって夢だから。

 大手メーカーをリストラされ、ヘルパー2級を取って介護士として働いてもうすぐ5年。

 ケアマネージャーの資格試験の勉強、仕事をしながらだとなかなか身が入りません。

 そんなオッサンでもお貴族様のお屋敷にいてもいいんです、だって夢だから。


「トシャルアルゲパデンティスエ、アンアンジェルヌイキトレーヌリー」


 若い女性が紅茶っぽい匂いのする飲み物をテーブルへと置いてくれた。

 私とおばあちゃんの前に1つずつ。おばあちゃんがふ~ふ~してからカップに口を付ける。

 これは私も飲んでもいいんだよね? 頂きます。ずずずっ

 不思議な味だけど、やっぱり紅茶っぽい。とてもいい香りだけど、お砂糖が欲しい。


 おばあちゃんが私が持っているカップを取り、テーブルへと戻した。

 あれ? 飲んじゃダメだった?

 おばあちゃんが両手で私の顔をがしりと掴んだ。

 何だろうこの展開は……。

 ブチュ! 突如奪われる唇。侵入する老婆の舌。蹂躙される私の口内。鼻から抜ける紅茶っぽい香り。

 わ、私には妻も娘もいるんですよ!?

 ソファーに押し倒される。何という怪力、多分今の私はレイプ目になっていると思う。抵抗しようにも、おばあちゃんに怪我をさせてはならぬと力が入れられない。

 目がチカチカし、頭がズキズキと痛む。若い女性の叫ぶ声。


 私は意識を失った。



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