第1章 第5話 最後の宮北祭
1学期の中間テストが終わり、宮北高校は文化祭モードに入った。主人公・田上恭介は高校生活最後の文化祭を楽しみながら、日々受験勉強を頑張っている。
一般論だが学校にはさまざまな行事がある。1学期の中間テストが終わると、この宮北高校にも文化祭の時期が訪れる。通称「宮北祭」は残り2週間で幕を開ける。
4月初めにクラスで舞台劇の内容を決め、結果「ズートピア」ならぬ「キュートピア」に決まった。宮北はアニメの舞台校だからその実写版を提案してみたが、悉く却下されてしまった。やれやれ。
文化祭まで後、2週間と言われてみるともう時間がないが、だからと言って受験勉強をおろそかにするわけにはいかない。文化祭などどこ吹く風で英語専門塾Tsuyoshiや国語専門塾正経ゼミナールの個別授業や松田塾の特訓は普通にあるのだ。
われわれ3年生の教室は文化祭モードと受験モードが入り交ざる。毎日6時間の授業が終わると舞台劇の練習が始まり、終わったらせっせと下山して予備校へ向かい、塾へ行くという日々がしばらく続く。
舞台劇の練習はエンディングの歌のダンスの練習から始まり、その後、出演者は各セリフの練習、裏方は道具の制作にいそしむ。僕はセリフがただひとつしかないズートピア警察の役をもらった。ちょっとセリフを覚えたら後は通すだけという楽な役である。クラスメイトは急ピッチでセリフの練習、道具の制作に励んでいるが、それにしてもたった2週間で大がかりな舞台劇ができるのだろうか?そんなヒヤヒヤもあった。
結論から言うと、間に合った。出演者のセリフも皆、前日までに完璧に覚えていた。裏方が手掛ける背景画は前日に僕を含めた数人も手伝ってギリギリ間に合わせた。
(さあ、明日は高校生活最後の宮北祭!頑張ろう!)
心の中でそう意気込み、夜景を眺めながらハルヒ坂を下って行った。
6月9日、宮北祭1日目。1日目は校内祭と称して全校生徒が体育館に集まり、3年生の劇や吹奏楽部、ダンス部の発表を見る。皆が大いに盛り上がる最高の瞬間だ。
熱気高まる体育館内に吹奏楽の演奏が流れる。3年生が歓声をあげ、吹奏楽部員のファーストネームを大きな声で呼ぶ。僕が中学生の時、合唱コンクールの最後でやった吹奏楽部の演奏となんか重なった。
その後行われた3年生の舞台劇発表。これが後輩のみならず学校全体を魅了させるのである。
「ドドスコスコスコ、ドドスコスコスコ、ドドスコスコスコ、ラブ注入♥」
ミニーマウスと川口さん演じるミッキーマウスの息のあった演技は学校全体のハートを掴んだ。
そのほかにも、「三太郎」や「名探偵コナン」などバラエティー豊かな劇が披露されていく。
「十人十色というよりも「七クラス七色」ってところだ。
僕のクラスはエンディングに全員で「がむしゃら行進曲」を踊った。ズートピアとは何ら関係のない曲ではあるが、エンディングにクラス全員が楽しく踊る様子に後輩たちは憧れを感じたと思う。
7クラスあるから「十人十色」ならぬ「七クラス七色」の舞台劇。勉強のみならず、行事も熱心に頑張るところが宮北高校のいいところだ。
そして、6月10日、宮北祭2日目。チケット制公開で毎年、1300人のお客さんが来る。高校の文化祭ということもあって一般公開はなかなかできないらしい。招待されたお客さん、アニメの聖地に入れてよかったな!楽しんでいけよ!
僕のクラスは6番目。13時スタートである。準備のためクラスに集合する時間は12時20分。それまでは自由時間である。
1年生は展示・造形、2年生は模擬店として飲食物の販売、アミューズメントで盛り上げる。他、学生食堂の営業、茶道部の茶店、天文部のプラネタリウム、文芸部のリアル脱出ゲーム、PTA喫茶・・・とスペースが限られている中でも皆が大いに楽しんでいる。
13時から行われた4組の劇「キュートピア」も席が埋まるほど、お客さんが来てくれた。滑舌が相当悪い僕もかまずにゆっくりハキハキとセリフを話すことができた。皆の息がぴったり合って劇は大成功だった。
こうして、高校生活最後の宮北祭が幕を閉じた。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
文化祭、最近は防犯の関係で招待制の学校も多くなっているようです。
一般開放にしたらもっと盛り上がるのになぁ。