第1章 第3話 まさか・・・
5月に入り、大学受験生最初の決戦である『第1回全統マーク模試』が行われた。
主人公・田上恭介も成果を出そうと受験するも、惨敗。
次の模試に向け、改善点を探っていたある日、国語専門塾専門塾正経ゼミナールの山口先生から1通の手紙が渡された。
♪やねよ~りた~か~い~こいの~ぼ~り~
5月に入り、大空には大きな鯉のぼりが気持ちよく泳いでいる。
今年のGWも遊びたかったが、あいにく受験時。テレビのニュース番組に映る帰省ラッシュをみて憂鬱になりながらも僕は受験勉強に勤しんでいた。大学受験まであと半年以上あるのは事実だが、第1回全統マーク模試まであと1週間もないので休んでいる暇はないのである。この模試で良い結果が出なかったら厳しいツヨシ先生に叩かれ、フランチャイズの松田塾からは英語・国語の受講勧誘が待っているのだ。(僕が勝手に決めつけているだけだが。)模試自体は1年間に3回ある。とはいえ、たとえ第1回目の模試で完全に合格する状態を作れなくても1か月の受験勉強の成果を出したいものである。そう意気込んで毎日の勉強を頑張っていた。
が、第1回目の全統マーク模試は散々な結果だった。
英語 72/200
国語 67/200
日本史 56/100
ツヨシ先生は落胆した。
松田塾には予想通り、英語と国語の非を笑われ、僕に英語の単語テストを押し付けてきた。とりあえず英語を松田塾で取れというのか。
そんな先生とは違い、僕は結果を客観的に見ていた。たしかに全体としては結果は相当悪い。でも私立大学受験のカギを握る日本史は56点であり、20~30点台をさまよっていた大手予備校時代と違い、確実に点数が上がってきている。日本史を松田塾に任せたのはある意味正解だった。
国語も現代文は散々だったが、古文は10点ほど成績が上がった。山口先生の個別授業では最初は古文文法集中でやっており、正直現代文は一切やっていなかった。これは仕方ない。次に賭けよう。
しかし、問題は英語である。前に比べても本当に伸び悩んでいるからだ。普通、受験勉強の英語は文法から固めていくのが一般的なのだが、ツヨシ先生の個別指導では読解に力を入れている。そのせいか、文法問題がほとんど解けなかったのである。文法からではなく、読解から攻めていくツヨシ先生法は本当に大丈夫なのか?
早速山口先生に現代文の件を電話相談すると先生はすぐにOKサインを出してくれた。間もなく古典文法の単元を終わらせることができるらしく、終了次第始めてくれるそうだ。次はツヨシ先生に英文法の件を電話相談した。しかし、
「英文法よりも今やっている読解の問題集の和訳を終わらせたい。」
ということで、ことごとく却下されてしまった。
本当は反論したかった。でもここで反論して、自分の意見を押し通し、今まで失敗してきた。何度も何度も失敗してきた。だからここはツヨシ先生の意見を取り入れ、とりあえず読解の問題集が終了するまで我慢することにしよう。優秀なツヨシ先生についていけばきっとだいじょうぶ。信じていくしかない。そう思うしかなかった。
翌朝、寝ぼけまなこで長い長い坂を登っていくと川口あさひさんに出会った。
「おはよう!田上くん。元気?」
「おっ、おはよう!川口さん!毎日かわいいね。」
川口さんの笑顔で眠気がふっとんだ。
「ありがとう!」
川口さんは笑顔で返事し、こう続けた。
「GW最終日の模試、どうだった?」
「うーん。最悪だった。」
「あさひも模試めちゃくちゃ悪くてさ・・・なんか頑張る気なくしちゃってさ・・・」
「まだ5月だし、最初の模試はこんなもんだよ。本格的な受験勉強はまだ始まったばかりなんだから頑張ろう。僕と一緒に。」
「そうかなぁ。本当に成績上がるかなぁ・・・」
「そんなのやってみないとわからないじゃん。よく、『やらなかった後悔よりもやった後悔のほうがいい』って言うでしょ?だからさ、とりあえず、この1年間頑張ろうよ!」
かわいい女の子の前では少し気の利いた言葉を言う僕である。
「うん、わかった!田上くんの言うとおり、この1年だけ頑張ってみるね!元気出してくれてありがとう。今日も1日がんばろう!」
「おう!」
登校中に川口さんに出会えたことによって、毎朝のしんどい登校時間が楽しい時間になった。
学校の営業終了のチャイムが鳴ると帰宅部の僕はせっせと下校し、塾に行く。今日は水曜日。国語専門塾正経ゼミナールの個別指導がある日だ。17時50分の開始時刻に間に合うよう急いで向かう。急いで行っても標高200mの宮北高校からだと案外時間がかかるものだ。
今日の個別指導は古典文法最後の単元、「和歌の修辞法」だった。これが終われば古典文法は完了し、次からは現代文の演習と古文の演習に入ることができ、全力で本番まで駆け抜けることができる。地味な古文文法の個別指導が今日はいつもと違い、楽しかった。ゴールが見えてくると気持ちのいいものである。
今日の分の古文の個別指導が終わり、マラソンのゴールテープを切った爽快感に浸っていると突然、山口先生が1通の封筒を手渡してきた。
「家に帰ってから読んでね。」
そんなことを言われたら余計に気になる。僕はそっと封筒を開け、中身を見た。
「えっ!まさか・・・」
僕は心の中でたいそう驚いた。なぜなら、封筒の中に入っていた案内のタイトルが
『正経ゼミナール 閉校のお知らせ』
だったからだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
私自身、今年4月に大学に入学し、新しい生活に戸惑いながらも必死に駆け抜けております。
拙作の主人公・田上恭介も先の見えない未来に不安を抱えながらも必死になって受験勉強に取り組んでいます。
そんな田上恭介を拙作をお読みになりながら応援していただければ幸いです。