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これからだ、私 ~青春を描く受験物語~  作者: かがやき509号
第1部 高校3年生1学期~夏休み
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第1章 第1話 受験勉強よ~いドン!(前半)

新たな塾で決意表明をした主人公・田上恭介。間もなく英語専門塾Tsuyoshiの第1回目の授業が始まる。

僕が通う宮北(みやきた)高校は東宮(ひがしのみや)市の高台にあるごく普通の県立高校である。標高200メートルの山の中にある関係で学校周辺は急坂が多く、自転車通学が禁止されている。そのため生徒は最寄駅でもある楽陽園(らくようえん)駅から30分ほどかけて急坂を登っていくか市内のターミナル駅からバスに乗る。その様子は「登校」というより「登山」と言ったほうがふさわしいかもしれない。

偏差値は()()()()真ん中ぐらいだし、交通の便だって悪い。そのためここ数年、定員割れが続いている。レベルが1つ上の高校は人気校だということもあって宮北高校とは大きく水をあけられている。やれやれだ。

そんな宮北高校の魅力と言えばそりゃあ、眺めがいいことであるのだがそれ以上に言っておきたいことがある。それは「アニメの舞台校」だということである。卒業生がライトノベルを書いたら大ヒットしてアニメになったらしい。そのアニメでは我が宮北高校の校舎がそっくりそのまま出てくることもあり、せめて学校周辺だけ見ようとも全国から多くのファンが訪れる。過去には学校の中を見たいがゆえに敷地内に侵入してしまった人もいたらしい。

とはいえ、そのアニメはかれこれ10年ほど前に放送されたアニメだ。学校が教育機関である以上、教育と接点がないアニメは基本、宣伝しない。あれだけ有名な宮北高校のアニメも実際、タイトル名は知られていたとしても、あらすじまで知っている人は校内で100人もいないと思う。だからこんなに魅力のある高校でも偏差値と交通の不便さがボトルネックとなり、定員割れになってしまうのであろう。


僕はというと1年生の時は本当に勉強を頑張っていた。得意科目の現代社会なんか学年で6位をとったことだってある。しかし2年生の時、悲劇が起こる。

なぜかわからないが、どれだけ頑張っても成績が伸びないのである。上がっていくというよりもむしろ下がるばかりだ。あれだけ頑張ったとしても成績が下がっていくだけなのだからモチベーションだってどんどん下がっていく。勉強自体は続けていたが、成績は本当にとてつもなかった。幸い高校2年間は無事欠点を取らず、進級自体はできたのだが正直ギリギリで成績会議でなんとか認めてもらった科目もあると思う。成績会議の日、欠点が決まった人には担任から電話がかかってくるのだがその日は本当にドキドキしたものだ。

で、もうすぐ3年生になるのである。今までの2年間の貯金はほぼない。今まで高校生活2年間を過ごしてきたにもかかわらず「イチ」から・・・いえ、「ゼロ」から始めなければならないのである。でも、そんなことを悔やんだところで仕方はない。気持ちを新たにして頑張ろう。


春休み初日の3月23日、早速英語専門塾Tsuyoshiの記念すべき第1回目の授業に行く。英語専門塾Tsuyoshiは我が家の最寄駅、宮口駅からマルーン色の各駅停車に乗って2駅行った先にある塚山駅の前の雑居ビルの一角にある小さな個別専門の英語塾である。長年、大手予備校で教鞭(きょうべん)をとっておられた先生が10年前に、ここ塚山に開設した塾だ。その先生の名前は岡井ツヨシ先生。「英語に強くなる!」という意味で塾の名前を「英語専門塾Tsuyoshi」にしたそうだ。まあ、先生のファーストネームをそのまま塾の名前に持ってきたにすぎないのだが。

僕はえっちらおっちら、雑居ビルの小さな階段を3階まで昇り、縦開きのドアを開けるとあたりを見渡した。個人経営の小さな塾とはいえ、インターネットのホームページはちゃんと作られているのだが、そのホームページには教室内の写真がなく、どのような雰囲気の塾なのかイマイチわからなかったのである。

ツヨシ先生は教室の出入口で教室内を見渡す僕を不審そうに見ておられた。

「あ、そこに座ってくれる?」

ツヨシ先生は座席を指さし、僕はその席に座った。

「あー違う違う。一番右の席じゃなくて真ん中か一番左の席に座ってくれる?横に座って指導しづらいから。」

僕は真ん中の席に座る。

英語専門塾Tshyoshiは完全個別指導の塾であることは間違いないのだが、塾の中は少人数制の予備校の教室といった感じだった。正面にはホワイトボードがあり、3人掛けの長机とパイプ椅子が並ぶ。個別指導塾としては異様な光景だがこの塾はもともと少人数の集団授業もやっていたらしく、その名残で少人数制の予備校の教室といった雰囲気になっているのである。


間もなくツヨシ先生が僕の右横に座り、第1回目の授業が始まった。あらかじめ用意しておいたA4サイズの大きなノートを開く。するとツヨシ先生がそのノートの最初のページにボールペンに書き込み、説明を始める。

「まず、V(動詞)は1(ぶん)に1つだけね。ただし、接続詞・関係詞・疑問詞と言った予告があるとS(主語)とV(動詞)が増えるよ。そのSVはS´,V´になるから気を付けてね・・・」

こうしてツヨシ先生が僕のノートに次々と書き込みをしていき、僕はツヨシ先生の説明を聞きながらノートを見る。大手予備校にいたときは先生の説明を聞きながら自分で板書をしなければならなかったのだが、英語専門塾Tshyoshiはツヨシ先生自身がノートに必要事項を書いてくれる。

一通りの説明が終わるとツヨシ先生は僕があらかじめ持ってきた参考書を手に取り、コピーをし始めた。

そして、コピーした英文を1段落ごとに分けるために、はさみでジョギジョギ切って、ノートの次のページにのりで張り付ける。そして、

「これ、まず構造を取ってから和訳してね。」

と言うと先生は自分の席に戻り、デスクトップパソコンのキーボードを叩き、残っている仕事を始めた。ほかの生徒がいたら、その生徒を指導するのだろうけれども、今日は僕一人しかいないため、先生は黙々とパソコン作業を続けていた。

僕は授業最初の説明にあった通りに構造を取り、和訳をした。ちなみに僕が持ってきた参考書は英文速読研究会が出版している「スピード英語長文レベル2(中堅私大レベル)」であり、レベル的にはそれほど難しくはない参考書である。

「できました!」

と先生を呼ぶと、先生が黄色とピンクの蛍光マーカー2本とボールペンを持ってきて僕の横で添削を始めた。

構造や和訳があっているところは黄色のマーカーが引き、間違っている部分は赤のマーカーが引く。その後、右側のページにボールペンで覚えるべき単語や構文を書いていく。

「ここ、間違っているからやり直して。」

と言い、やり直しを求めた。僕は訂正するために間違っている部分を消そうとするとツヨシ先生が

「あー、消したらダメ。」

と注意した。「間違っているところは消さない」というのはこの塾のルールらしい。

僕はその教えを守り、ノート下の空いているスペースに間違っている部分を訂正した。そして先生を呼ぶ。すると先生が僕の横に来て添削を始め、間違っている部分はノート下の空いているスペースで訂正をする。そして先生を呼ぶ。そしてOKが出たら次の段落に進み、間違っている部分があったら和訳をし直す・・・いう繰り返しで授業の展開がされていった。


授業が終わると先生は今日やった分のページをスキャンする。記録を取るためだ。先生が使っている塾のパソコンには生徒一人一人を管理するソフトが入っているらしく、スキャンされた記録はそのソフトの僕のページに入っていく。

スキャンが終わると先生からノートを返してもらい、帰る準備をする。

「ありがとうございました!」

「ほんじゃね~!」

先生との挨拶を終えると僕は雑居ビルの小さな階段を降り、帰途についた。


その日の夜、ツヨシ先生のパソコンから僕と母親のスマートフォンにメールが届いた。毎授業後に届く「授業報告メール」というものだ。


3月23日 個別指導(1回目)

まずは恭介くんの全部のプロセスをチェックしていきますね~m(__)m

1.構造を取れること。

2.構造通りに訳すこと。

主旨がだいたい合っていても、上記の2つに誤りがあれば注意していきますね~m(__)m


宿題:2段落だけ構造通りに訳してきてくださいm(__)m


頑張って応援して行きますね(^^ゞ


英語専門塾Tsuyoshi

岡井ツヨシ


そのメールはえらいユルい文章だった。でも、あれだけ面倒見のいい英語の先生はツヨシ先生以外にないと思う。1年後、どのような結果になるかはわからないが、英語はこの塾で頑張ろうと僕は決心した。


最後までお読みくださりありがとうございます。

次話投稿に関しては活動報告のほうでお知らせいたします。

今後ともよろしくお願い致します。

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