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朝霧紗綾は勇者じゃない。  作者: アキラシンヤ
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 紗綾が勇者ではないという前提であの城へ向かうならこれ以上の理由はない。これは真堂も分かっているはずだ。もっとも、マジで怒っているらしい真堂からはあとで「ちょっと頭冷やそうか?」的な仕打ちを受けるだろうが。

「だから傀儡を見抜けたんだね! もー、そうならそうと言ってくれればよかったのに!」

 嬉々とした紗綾は真堂の手を両手で握り、ぶんぶん腕を振った。紗綾にとってもこれ以上の朗報はない。自分にしかどうする事もできないと思われていたあの城、リヒトウとやらを倒してくれるかもしれない存在が現れたのだから。

「魂に触れるなんてすごーく高度な術式なのですよ! さすが勇者様なのです!」

 天使のような笑顔を浮かべ、みりるちゃんはぱちぱちと拍手した。羨ましいし妬ましいが、これは真堂も妙な力を持っていたが故だ。だからこそ勇者に仕立て上げたのだから仕方ない。本当に何の力もない俺では勇者を騙れない。

 まずは二人とも信じてくれてよかった。何せみりるちゃんは未知数だからな、勇者じゃないと見抜かれる可能性もあった。

 次は自然に紗綾を連れていく流れか。

「さて真堂、いや勇者様と呼ぶべきか。勇者様、さっそくあの忌々しい城をさくっと攻略してきて頂けますか」

「すみません。ご期待を裏切るようで心苦しいんですが、実は新米勇者なんです。相手の戦力も分かりませんし、できればみりるさんのお力をお借りしたいのですが」

「分かりましたぁ! リヒトウくんにも会いたいですしお供しますよぉー」

「何だって! じゃあ俺も行く、みりるちゃんは俺が守る!」

「えっ、じゃあ私も行く! 陸の魔の手からみりるを守らなきゃ!」

 はい終了。紗綾ってほんとちょろい。

 と思いきや、真堂が何やら余計な事を言い出した。

「あの、ピクニックに行くんじゃないんですよ? 敵の本丸に向かうんです。危険ですから一般人の方は避難されていた方がいいと思うのですが」

「バカな事を言うな! お前にとってもみりるちゃんは重要なんだろう? 俺は命に代えてでもみりるちゃんを守る。この決意はもう変えられない」

 真堂め、何を考えているんだ。まさかみりるちゃんを独り占めする気なのか。

「朝霧さんは誰が守るんだい? 僕は勇者になったばかりと言っても過言ではないぐらいの新米勇者だからね、自分を守るだけで手一杯なんだけど」

「紗綾も俺が守るに決まってるだろ!」

 何なんだ、意図がまったく読めない。真堂は何を考えてるんだ。

「一般人のきみにどれだけの事ができるか分からないけど、まあいいか。じゃあさっそく準備をしよう。準備ができたらまたここに集合。できるだけ急いでね」


 案の定、真堂は俺の部屋に付いてきた。ドアを閉めるなりいきなりの豹変モードで、壁ドンならぬ頭ドンだった。つまりアイアンクローでもって壁に頭を打ち付けられた。

「人形を朝霧さんに見せてもよかったんだ。そうしなかったのはお前が覚悟を決めるまで猶予を与えてやったからだ。いいか、僕は優しい人間じゃない。そんな僕のささやかな親切をお前はとんでもない仇で返してくれたな」

「そう怒るなって。確かに打ち合わせとは違ったが、紗綾を連れていくのに一番自然な理由付けができただろう? むしろ何をそんなに怒っているのか理解できないな」

「僕は目立ちたくないんだ!」

 掴まれた頭からミシリと音が聞こえそうなほど握力が加えられていく中、真堂という人間を少し理解できた気がした。こいつがどこにでもいそうな顔をしているのは、異常なほど記憶に残らないのは、そう思われるよう意図的に作り上げてきたからなのだろう。ちょっとした自己紹介ぐらいのステージでも目立ちたいと思う中高生一般とは対極だ。なぜそんな生き方を選んだのか気になるが、尋ねても答えてはくれないだろう。

「いいか、僕はお前らとは別に行動する。必ず近くにいるが仮に見当たらなくても探そうとするな。理由は人見知り、それ以上何も付け加えるな。分かったな」

「分かった。できるだけお前の話もしないでおこう。話はそれだけか? そうなら早く準備をしたい。紗綾とみりるちゃんは特に準備なんてないからな」

「だったら手を動かしながら聞け。そのみりるの事だ。あれはリヒトウと同じ世界の人間だったな」

 ようやくアイアンクローから解放された。まったくとんでもない馬鹿力だ。真堂はベッドに腰掛け、太ももを揉み始めた。まだ痛むのだろうか。太ももといえば幼稚園の頃にトラックに轢かれたところだ。……まあ、俺が気にしても仕方がない。

「あれって言うな。そう聞いているがどうした? 先に言っておくがみりるちゃんは俺のものだぞ」

「だったら尚更気を付けた方がいい。みりるの思考力は異常だ。朝霧さんが勇者だと知っているのに何も言わなかった。無力なお前が守ると言った時もだ。そもそも完全に一般人を演じていた僕の力にどうして気付いたんだ?」

 ……言われてみれば確かにそうだ。だから真堂は余計なような事を尋ねたのか。

 みりるちゃんは魔法のようなものが使える。『痛いの痛いの』をこの目で見たから間違いない。だからもしかしたら、何らかの魔法で真堂の正体を見抜いたのかもしれない。

 紗綾が勇者だと知っていながら黙っていたのも、紗綾が言い含めていたからかもしれない。可能性は色々と考えられる。

 だが、俺が思い付くような事は真堂だって思い付くはずだ。

 その上で気を付けろと言っているからには、それなりの理由があるのだろうが。

「みりるちゃんは紗綾とリヒトウとやらを仲直りさせようって言ってるんだ。ちょっと違うが目的はほぼ同じだ、心配する事なんて何もない。むしろロリっ子で天才なんて最高じゃないか」

「お前の懐に入り込むための演技だったら? 朝霧さんの正確な居場所を伝えるために魔法を使ったとしたら? 何を考えているか分からないやつが一番怖い。リックはもう分かってるはずだけど?」

 薄笑いを貼り付けた真堂にゾッと冷たいものを感じた。みりるちゃんはとても小さくてかわいらしいが、紗綾が言うには俺の金髪幼女フォルダの中身より一〇歳ぐらい年上らしい。

 つまり一四から一六歳ぐらい、もしかしたら同い年まであり得る。少なくとも高い高いで無邪気にはしゃいでくれるような歳じゃない。俺に合わせてくれただけだ。

 それでも真堂の忠告を無視する事にしたのに根拠はなく、ただ紗綾の友達を疑うような真似はしたくなかった。

「別に演技でも構わん。天才ロリっ子サイコー。それでいい。尋ねる機会があったら聞いてみるさ。俺はお前と違って人見知りじゃないからな」

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