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最終話です。
お付き合いいただきありがとうございました。
お茶会は陽が暮れる今もまだ続いている。外に出ると人のいない商店街はオレンジ色に染まっていて、まるで別世界のようだった。吹き抜ける風は冷たく、パーカーの温かさが優しい。束の間だがレムリアのおっぱいに触れていたから二割、いや三割増しで温かい。
狭い階段に腰掛けて待っていると、長く影を伸ばした真堂が戻ってきた。
「お疲れさま」
「おう、お疲れ」
初めて会った時と同じように缶コーヒーをくれた。厳密には初めてではないのだが。
プルタブを開けて一口含む。喫茶店のコーヒーと缶コーヒーは別物だ。優劣を付けるものではない。
「初めに渡した時は飲まなかったよね」
「嫌なやつだと思ってたからな」
街は静か過ぎるほど静かだった。俺達だけを除いて、今夜は本当に街が眠る。
「結局さ、お前って何者なんだ?」
「話せば長くなるよ」
「構わん。教えてくれ」
真堂が口を開きかけて、ほんの少しだけ間があった。
「この世界は本来、連なる世界の一つだったんだ。神の実在を証明できる世界の一つだった」
相槌代わりにコーヒーを口に含む。
「だけどうまくいかなくてね。幾つもの不幸が重なって、沢山の人が死んだ。僕の大切だった人達もみんな、死んでしまった。僕も多くの選択を間違えたし、大切だった人達も多くの間違いを犯してしまった」
真堂は薄笑いを浮かべていた。隠しておきたい感情があるのだろう。
「だから、作り直したんだ。生き残った大切な人達と一緒に、この世界をやり直した。何もかも元通りとはいかなかった。神の痕跡を消した分だけ影響が及んだ。それは連なっていた世界にも波及した。かつての世界にサーシャなんて勇者はいなかった」
うまく言えない思いが巡る。おとぎ話を聞いているようだが、真堂が嘘をつく理由はない。いつからか俺は長く伸びる影を見ていた。影は世界の果てまで続いているような、そんな気がした。
「だけど魂とは不思議なものでね、きみとよく似た人とは高校で出会った。朝霧さんとよく似た人はきみの幼馴染だった。魂を掴む手はきみの発現した力だった。亡くなった朝霧さんとよく似た人を生き返らせるために発現した力だった」
「……マジかよ」
理解はできない。想像もできない。だが不思議と合点がいく。ずっと解けなかったパズルがすっと解けてしまったように。
「もうやり直す事はできない。だから僕は絶対にこの世界を守る。もう誰にも邪魔はさせない」
真堂の言葉には覚悟があった。俺にはないものがそこにあった。
「やっぱりお前は嫌なやつだな」
「ずっとそう思われていたよ」
「……紗綾とよく似た人を、俺は救えたのか」
「うん。だから今もきみの傍にいるんじゃないかな」
そうか。
俺は救えたのか。
理由の分からない涙が溢れてきた。堰を切ったように止めどなく、目を閉じれば嬉しそうに笑う紗綾の顔が浮かんだ。
「真堂。読心術の事、彼女にも伝えとけよ」
「そうだね。いつか、必ず」
真堂は静かに笑った。
「リック。きみはどうするんだい?」
「どうするもこうするも、どうしようもねえだろ。お前は本当に嫌なやつだな」
「僕は応援するよ?」
応援するなよ。ハードルが高過ぎる。超える覚悟なんてない。
かつては幼馴染だったんだよな。何でそこ引き継いでくれなかったんだ。
「今すぐ抱きしめてキスしてやれるのにな。紗綾、……何で双子の妹なんだよ」




