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やはりこいつがいると話がしにくい。真堂は預かってくれないだろうし、どうしたものか。
「紗綾。怒鳴って悪かった。悪かったから、スマホを貸してくれ」
「いいけど、どうして?」
あっさり貸してくれたスマホのパスワードを解除し、リュックの横ポケットからイヤホンを取り出して繋げ、俺がインストールした音楽を再生した。
「しばらく音楽でも聴いててくれ」
「私の扱い雑過ぎるよ!」
雑でも対処できれば問題ない。耳をつまんでイヤホンを差し込むとくすぐったそうに笑い、やがて静かになった。
「さすが陸さんです。手馴れてますねー」
大した事ではないのだが。基本的に調子を合わせるみりるちゃんはこんな事しないだろう。
「まだ喚くようなら何か口に入れてやるといい。今なら乾パンだな。まあ、こんな話はいい。要するに悪魔にはサーシャさんの攻撃を防げるだけの力がある、って事でいいのかな」
「すべての悪魔がそうとは限らないのですが、今回絡んでいる悪魔が仮に以前と同じ悪魔だとしたらそういう事になるのです。低級なのですが、契約内容とサーシャさんの相性がよくないのです」
「その契約内容って?」
低級云々に係わらず、悪魔ごとに契約できる内容が違うのか。やはり俺が知ってる悪魔とは違う。そもそもこの世界には実在していないのだから当たり前か。
「『キングフォーアデイ』――一日だけですが契約した世界で最も強くなる、という契約です。リヒトウくんはこの世界にやってきてすぐ契約したと考えて間違いないのです。前回は契約後に別の世界にいるサーシャさんに来てもらったので、簡単に解決できたのですが」
「今回はサーシャさんの生まれ変わりがいる世界で契約したから、サーシャさんより強い、と」
「そういう事になりますねー」
みりるちゃんの見つけ次第駆除するスタンスも納得だ、悪魔は危険過ぎる。
適当な三段論法で城をいきなりドーン! で灰も残さず消し去り、その気になれば世界ごと壊せるらしいサーシャさんより強い。規模が大き過ぎるせいか逆に危機感を覚えないが、紗綾がいれば簡単に片が付く問題ではなかったらしい。
どこかで聞いていたのだろう、真堂から電話がかかってきた。
「真堂さんからですか?」
「そうだよ。まるでストーカーだな」
スピーカーモードにして通話ボタンを押した。みりるちゃんにも聞こえた方が話が早い。
『いやあ、悪魔の存在は完全に想定外だったよ。正直かなりまずい状況だから、ちょっと多いけど具体的な質問を覚えてほしいんだ』
……こいつ、スピーカーモードに気付いてるな。どこから見てるんだ。
『まず、悪魔に魂はあるのか。悪魔自体の戦力。悪魔を見つける方法。契約の解除も含めた対処法。とりあえずこれだけ頼まれてくれるかい?』
「ああ、分かった」
気付いてないフリをしてるのは俺への警告か。
『それともう一つ。商店街に入ってほしいんだ。入り口が小さくて分かりにくいけど、北側に紅茶専門店がある。鍵は開いてるからそこで合流しよう』
「狭い階段を上ったとこだな? そこなら知ってる」
『じゃあ迷う事はないね。みりるさんへの質問、くれぐれもよろしくね』
応える前に通話が切られた。初めて真堂から焦りを感じ、ようやく危機感を覚えた。思っていたより真堂を頼っていたらしい。前向きに対処しようとしてくれているのが救いか。
「だってさ。みりるちゃん、質問は覚えられた?」
「人間と色やかたちは変わりませんが、悪魔にも魂はあります。個体としての戦力はあまり高くありません。声の届く距離であれば一〇秒以内に魂もろとも消し去れます。みりるが見れば悪魔と分かりますが、おそらくリヒトウくんの傍を離れないと思うので見分ける意味はないかもしれません」
真堂に聞こえやすくするためだろう、みりるちゃんは声を張って答えていく。それにしてもやっぱり覚えてるんだな。さすがは天才ロリっ子サイコーってやつか。
「対処法に関しては、悪魔を滅ぼす事、契約の際に定められた方法で契約を解除させる事。この二つしかありません。ちなみに『キングフォーアデイ』はサーシャさんの力を数値化し、数パーセント上乗せしたものと考えてください。何とかできそうですかー?」
また真堂から着信があった。今度は普通に通話する。
「お前もうこっち来て話せよ。俺の連絡係っぷりがハンパないぞ」
『みりるも離れて動いてる理由に気付いてるから気にするな。勝算のない戦いに挑むのはつらいと伝えてくれ』
またも勝手に通話を切られた。とりあえず連絡係の責務を果たそう。
「勝算のない戦いに挑むのはつらいってさ」
「そうですかー。みりるもどうしたらいいか分からないのです。それでも挑む姿勢を変えない真堂さんはすごいのです。頼もしいのです」
変わらない笑顔に余裕をもらってたのにみりるちゃんも勝算はないのか。なるほど、何を考えているか分からないのは怖いもんだ。
だけどそうだよな。蚊帳の外な俺でも勝てるビジョンがまったく見えない。勇者の力を絶対に上回るとかどんなチート魔王だよ。クソゲーなんてレベルじゃねえぞ。
「実は口先だけで本当は逃げる準備を始めてるかもしれないけどな。ところでみりるちゃん、真堂が何で離れて行動してるか知ってるの?」
みりるちゃんは笑顔を絶やさない。こんな時でも、どんな時でも。
「知ってますよー。似たような性質の法術があるのです。教会で法術を研究していた時、その術を使った方もみりるからダッシュで離れていったのです。ちょっと傷付いたのですよー」
みりるちゃんじゃなくて、術を使った側が逃げる?
頭がよ過ぎるのが怖くて、真堂はみりるちゃんから距離を置いている。
基礎的な理論は違えど二つは同じ性質である。
真堂は特殊な魂を持っている、らしい。
思い返してみれば真堂は初めからみりるちゃんをさけていた。あからさまに俺の後ろに隠れていた。だがみりるちゃんに付いてきてほしいと言い出したのも真堂だ。
うん。分からない。そもそも魔法に何の知識もない。
「降参だよ。答えは何かな?」
「残念ですが、これはクイズじゃないのです。深く考えれば分かるかもしれませんが、考えない方がいいかもしれません。真堂さんが明かさないのなら、みりるから明かす訳にもいかないのですよ」
「そっか」
真堂は自分の事を話さない。話したくないのなら俺から勘ぐるような真似はしたくない。
しかし、みりるちゃんはなぜ今になって話したのだろう。せめて紗綾には伝えていたと信じたい。決して疑わない姿勢を貫きたかったが、ほんの一部でも曇りがあるとどうしても全体が曇って見えてしまう。
答えを明かさないならなぜ考える時間を設けたのか。
考えさせてから深く考えれば分かるとなぜ教えたのか。
真堂も聞いていると分かっている状況でなぜ話したのか。
確かに、真堂の持つ不思議な力や情報源について気にはなる。しかし詮索するような真似はしたくない。しかし考えれば分かると言われれば折々に考えてしまうだろう。考えまいとしても脳は勝手に答えを探る。
これは信用の問題だ。
俺は真堂もみりるちゃんも信用していたい。だが真堂がみりるちゃんを信用していないように、どうやらみりるちゃんも真堂を信用していないらしい。




