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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

復讐に囚われた男

作者: 天秤 リアン

 ──殺してやる、殺してやる!


 あいつは、あいつだけは。

 あの不倶戴天の仇は、自分が殺さなくてはならない。

 あの男こそ害悪だ。何があろうとも赦すことの出来ない復讐対象だ。憤りの余り血管が破裂しそうだ。


 一人寂しく、それでも勇んで歩みを進める。物悲しさはあったが、不思議と怯むことや恐怖は無かった。義憤からなのか、武者震いなのか、そういう感覚が麻痺してしまっている。けれども、今の自分にはそれが丁度良かった。寧ろ安心材料の一つとなり得た。


 あんなに沢山居た自分の家族。賑やかだった家庭。そして周囲の優しい人々。

 決して裕福とは言えなかったが、そこには団欒が溢れていた。

 日々の暮らしは厳しくとも、お互いに助け合って生きていた。

 ……だが、あの暖かい日常は二度と訪れない。


 素直な性格で、自分を慕ってくれていた甥。

 彼は手足を落とされて殺された。


 生意気だったがしかし、本当に嫌がることは口にしなかった姪。

 彼女は首と胴体を切り離されて殺された。


 いつも『余ったから』と言って食事をお裾分けしてくれていた優しいお隣さん。

 彼女は生きたまま全身の皮を剥がれて殺された。


 人一倍体格が大きく、人一倍優しかった従兄弟。

 彼はどうやられたかは分からないが、地面が血溜まりで一杯になるくらいの残虐な手段で殺された。遺骨も残らなかった。


 目に入れても痛く無いくらい可愛かった息子と娘達。

 彼らは原型も残らぬ程に全身を引き裂かれ殺された。


 父が逝き、それでも気丈さを保って私達に尽くしてくれていた母。彼女は一本一本骨を折られ、逃げられないようにされてから頭蓋骨を割られて殺された。


 愛しい愛しい──嗚呼──私の最愛の妻。

 彼女は悲鳴を上げて、許しを請うて、それでも手を緩めぬ奴の悪逆なる陵辱の中で、絶望に塗れながら臓腑を撒き散らして嬲り殺された。


 私は、一人それを目撃した。

 私だけが生き残った。……生き残ってしまった。


 この恨みを晴らさずして、罪への報いを受けさせずして、どうして果てることが出来ようか。死んでも死に切れない。

 だから私は決意した。


 ──この私が、私の全てを投げ打って、皆の分も含めた復讐をしてみせる、命を以て償わせる、と。


 今になって知らず知らずの内に怖じ気づいたのか、自らの両脚が震えているのが分かった。正気の沙汰ではないことは十二分に理解している。しかし、奴はこの手で葬らなければ。たとえ自分の命と引き換えに、差し違えてでも。これ以上の被害者が、もう生まれて欲しくはない。

 これは私の自己満足(エゴ)なのかもしれないが、それでも。


 未来に生きる者達のために。



 …………奴の背中が見えた。






 ****







「ん~? どうしたの?」


 間延びした、鈴の鳴る様な声が響く。


 ──うるなー……


 こちらもまた間延びした、欠伸と区別のつかない鳴き声。


「ありゃ、ミケ丸、お手柄だね。よしよし」


 撫でてくれと言わんばかりに頭を差し出す猫を、お望み通りに女性の手は左右に擦る。“ミケ丸”は眼を細めて喉を揺らした。


「最近よく獲ってくるねー……また駆除でもしてもらおうかな」


 何か思い至ることがあったのか、女性はどこか遠くへと思考を凝らし始める。


 快楽を施すご主人様の手が静止したのを感じた猫の興味は、自分が捕らえて来た物体の方へと移る。

 ぐったりと、動かなくなった灰色の身体、ミミズによく似た尻尾を持つ動物は、余程抵抗したのか毛皮の彼方此方がべっとりと紅く染まっている。

 その目は固く閉じられていた。


 ミケ丸は飼い猫として実に優秀であった。


 彼は獲物を口に咥えて、どこかへと去って行った。

 機嫌良さげに、そして優雅に尻尾をたゆたわせながら。

残酷な描写でしたよね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の部分でうちの子よくお土産持って帰って来てたなーと懐かしくなりました(* ̄ii ̄)
[良い点] 残酷な描写とにゃんこどっちも大好きなのでクリティカルしました。 [一言] 執筆応援してますっ!
[一言] コレ、ちゃんと短編でまとまるのかー? と途中で心配になりましたが、キチンとオチて良かったです。 ホラーチックからほのぼのっぽい話にうまく展開できているなーと思いました。
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