当代の大魔女・カオスは悩む
偉大なる大魔女・カオスには、二人の姉妹弟子がいる。
姉弟子のサリアは優秀な魔女になれるだけの知識や才能、技術を持ち合わせているためか自信家で、
能力が劣る者を見下してしまう癖があり、他者の意見は聞き入れようとはしない。
間違えば邪悪なる魔女として名を馳せてしまう恐れもある程、彼女の性格は問題といえる。
そして妹弟子・ユリハは、慈愛を心を持っているが、姉弟子に少なからず敷いたげられてきたせいか、
常に己に対して自信が無く、周囲の魔女の言動にびくびくした毎日を過ごしているため、
気持ちに余裕がない。慈愛の心は失っておらず、姉弟子サリアに負けず劣らずの知識や才能、
技術をもっているにも関わらず、自信の無さや余裕のない焦りから失敗ばかりを繰り返しているため、
魔女界では落ちこぼれとして広まりつつある。
偉大なる大魔女・カオス。それは魔女界の頂点に立つ者が襲名する称号であり、名前である。
そしてカオスの名は指名制である。代々のカオスが床に臥し、この世を去る時に
自身の、歴代のカオスとして立派に勤めた魔女達の後継者として遜色ない
慈愛の心と豊富な知識、色褪せぬ巧みな技術をもつ者を抜擢していくのだが、
カオスの弟子は悪い意味で選べぬ二人のみだ。
カオスの名を継いでから既に半世紀はとうに過ぎ、歴代の魔女達と同様にカオスも床に臥し、
そろそろ自身の時間は止まるであろうと誰もが心を悼めている最中、
新たなる大魔女カオスを指名せねばと、焦っているというのに、カオスの弟子は
どちらも後継者と呼ぶには相応しくない。
カオスは考える。
何代も続いた魔女界を率いる大魔女の名を、軽々と相応しく無いものに継がせて良いものか、
しかし自分の代で終わらせるわけにはいかない、魔女界の平和のために、と。
サリアに慈愛の心があれば。ユリハに自信があれば。
二人の愛弟子の問題点について、毎日のように教えていたのにどちらも問題点については
改善する気配すらなく、悪化の一途をたどっている。
もし、サリアが大魔女カオスを継いだら、魔女界を囲む人間界や天魔界との均衡は破られ、
すぐに戦争が起き、魔女界は破滅する未来が予想できる。
もし、ユリハが大魔女カオスを継いだら、魔女界を囲む人間界や天魔界に何も言えず良い様に利用され、
魔女界は人間界や天魔界の傀儡となってしまう未来が予想できる。
どちらも魔女界の繫栄と平和のためにはあってはならない未来。
小細工や口先だけのやりとりに長けた人間のリーダーの小細工や嘘を見破り、言い返すことができ、
全て力でねじ伏せようとする天魔界のリーダーに一目置かれるような力や知識を持つ。
そしてどちらからも漬け込まれず、憎まれないための自信と謙虚さ。
そして、同胞への自愛の心を持つ者こそ大魔女カオスの名に相応しいと、カオスは考える。
サリアとユリハ、二人が一人の魔女であったなら、二人が互いに助け合うだけの
信頼関係で結ばれていたのなら。何度そう思ったであろう。
カオスに開かれる死への扉は少しづつ開き始めているのに、次代の後継者を選ぶことが
破滅への道しか見えず、カオスまだ後継者を選ぶことができない。