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7)秘められた婚約

ブクマや評価をありがとうございます。

励みになりますm(_ _)m

 ここ最近、学園で、ジュンヤが私にまといつかなくなっている。

 ジュンヤとレミ嬢は、シオン殿下や宰相の次男アヤトなど、王族や高位貴族の子息に近づこうとしていた。

 私は、ジュンヤに「シオン殿下にレミ嬢を紹介したいから、仲介しろ」と言われ、断った。

 父からも言われたが、「シオン殿下とは、それほど個人的に親しくないので無理です」と言っておいた。

 シオン殿下とは授業のグループワークでよく話させていただいているが、殿下はジュンヤを避けている様子だった。

 ジュンヤは、女たらしで有名で、男子学生の間では評判が良くない。


 しかし、ジュンヤには、別のツテがある。

 ジュンヤの奴は、顔が良いので、ファンクラブがあるのだ。

 ファンクラブの力で、シオン殿下に近づいているらしい。

 姉のサヤがそう言っていた。

 サヤも、父やジュンヤから、アヤトやシオン殿下にレミ嬢を紹介しろと言われたらしいが、

「婚約者以外の殿方とは親しくありませんので、出来ませんわ」

 と断っていた。

 その後、どういう経緯かは判らないが、ときおり、シオン殿下たちのそばにレミ嬢とジュンヤの姿が見られるようになった。


 殿下たちには悪いが、おかげで、爽やかで快適な学園生活を送っている。


 カイトとも付き合いやすくなった。

 カイトはジュンヤを嫌っているので、ジュンヤが付いているときは、カイトに避けられていた。


 今日も、ジュンヤがそばに居なかったので、学園で、カイトに話しかけることが出来た。

「カイト、頼みがあるんだ。ハノウ家の邸に、カリンの持つスキルの秘密を聞きに行きたいんだが・・」

「なんだって?」

 カイトが眉をひそめた。


「カリンが、先日、教えてくれようとしたんだが、ジュンヤの奴に邪魔されて、聞けなかったんだ」

 私が言い訳をすると、カイトはため息をついた。

「あのさ、ソラ。おまえ、俺の妹が好きなんだろ」


 ド直球の問いに、私は、図らずも顔が熱くなった。

「いや、あの、その・・」

 私が言いよどむと、

「なに顔赤くしてるんだよ。

 もう、判ったよ」

 とカイト。

「な、なにが判ったんだよ」


「あのさ、好きなら好きと、言ってやって貰えないか。

 カリンが辛そうにしてる」

「え・・」

「あのジュンヤとかいう嫌な奴に、なにか言われたんじゃないかな」

「あ・・」

 先日のあのことか・・。

 私は気まずくなって黙った。

「カリンを護ってやれないんだったら、協力はしない」

 とカイト。

「護るっ」

 私は反射的に答えた。

「そうか?」

 カイトに不審な目で見られた。

「護るよ、必ず」

「ふうん・・。

 この間の学園祭のときは、父にも、おまえのこと聞かれてさ」

「な、な、な、なんて?」

「うろたえるなよ。

 ただ、カリンと、親しくしてるみたいだけど、どういう関係?

 みたいな感じに聞かれた」

「そ、それで?」

「だから、カリンは、楽しそうにトキワ家に行って、うつむいて、ため息つきながら帰ってくるって答えておいた」

「・・ハノウ侯爵は・・それで・・なんて仰ってたんでしょうか・・?」

「なに敬語使ってんだよ。

 別になにも。

 あ、そう。とか答えてたかな」

 とカイト。

 泣きたい。

 ジュンヤのせいだ。

 殴りたい。


「・・それで・・ハノウ家に、カリンのスキルをお伺いに行く件は・・?」

「カリンがおまえに話すと決めたのなら、まぁ、協力してやるよ。

 でも、俺も同席な」

「判りました・・よろしくお願いいたします」

 ・・私は、もしかしたら、一生、義兄に頭が上がらない男になってしまうかもしれない。



 明くる日、私は、ハノウ家を訪問した。

 我が家では、変な聖女と悪質なイトコが居るおかげで、落ち着いて話しも出来ない。

 ハノウ家なら、安心だ。


 小さな居間に通された。心地よく設えた部屋だった。

 カリンと、それに、カイトも一緒で、侍女も下がらせて、3人きりだった。


「前に話しかけていたカリンのスキルを教えてくれないか」

 尋ねると、彼女は答えてくれた。

「私は、鑑定のスキルを持っているんです」と。


「鑑定のスキルを? それで、天気まで、鑑定できるのかい?

 てっきり、予知のスキルかと思っていた・・」


「鑑定スキルを鍛錬するために、風に含まれる匂いも鑑定したり、していたんです」


 空の雨の気配まで鑑定できるとは・・。


 彼女の鑑定スキルが特別なのは、ごく幼いころから、毎日、何年も、訓練をし続けたからだという。

 それも、遠くにある鑑定し辛いものとか、かすかな匂いとか、わざと難しい鑑定を訓練のために続けた。

 カリンは、生真面目で努力家だから、スキルをレベルアップさせることができたんだろう。


 鉢植えを元気にすることが出来たのは、鑑定スキルで植物の状態を知り、治癒スキルで癒やしを与えたのだ、と言う。

 彼女は、誰でも出来る、と言うが、難しいと思う。


「ジュンヤのことも、鑑定で判ったんだね」

 と、私は尋ねた。


「あ、いいえ。ジュンヤさんのことは、単に観察して判りました。

 ひとのことを鑑定するのはマナー違反だと思うので、鑑定はしないようにしているんです。

 でも、鑑定スキルの能力が上がってから、観察眼といいますか、見極める能力が上がりまして。

 鑑定スキルを発動していなくても、基本的な質や、不自然な部分などは、見て判るようになったんです。

 ですから、男性が女装していても判りますし、騎士の方が服の内側に傷を隠しているようなときにも、判ります」


 なるほど。

 「鑑定」という魔法は、相手に鑑定魔法を仕掛けて、情報を得るものだ。

 ゆえに、相手が防御の魔導具を装備していたり、魔力感知に長けていたりすると、阻止されたり、鑑定したことが判ってしまうことがある。

 けれど、単に、観察した結果を詳細に分析する「観察眼」であれば、そもそも、相手に魔法を使っていないのだから、マナー違反でもない。


「本当に便利で優れた能力だね。

 判ったよ」

「謎が解けたんだね」

 とカイト。

「うん。カリンが、聖女じゃないことがはっきりして、安心した・・というか、残念な部分もあるけど」

 と私が言うと、カリンが首をかしげた。

「実はさ、レミ嬢が、聖女らしいんだ」

 カイトが、苦笑しながら説明した。

「レミさんが?」


 カリンが驚いている。

 そりゃ、驚くよな。

 顔だけ見れば聖女に見えなくもないが。

 言動が変すぎる。


「それで、我が家の者が調べたところ、聖女をめぐって、キースレア帝国との関係で、いろいろと思惑が生じている可能性があるんだ」


 キースレア帝国は、長年に渡って、侵略国家だった。

 我が国との関係も、ずっと、危ない状態が続いていた。


 数年前、キースレア帝国の皇帝が代替わりした。

 それまでは、軍事産業の言いなりの皇帝だったために、キースレア帝国の周りの小国は、悲惨な目にあった。

 侵略と虐殺を繰り返し、周りは、あらかた、蹂躙されてしまった。


 数年前、その皇帝が病気で退き、現皇帝になってからは、だいぶ、平和的になったように見える。

 それでも、軍部が強く、軍事産業が盛んな国柄が変わったとは言い切れない。


 キースレア帝国には、攻撃魔法の実験で、荒れた土地が多くある。

 さらに侵略して得た国々の土地も、戦乱で荒れ果てた大地が広がっている。


 その荒れ地を、聖女の聖魔法で癒やして欲しい、多くの兵士や民の亡くなった土地を、浄化して欲しい。という民の訴えがあるという


 我がアノス王国では、聖女に関しては、意見が割れている。


 帝国の皇族と、聖女の婚姻話しを進めて、より平和条約を堅固にしよう、と考えている者。

 あるいは、聖女の神の加護を失うのは惜しい、ゆえに、聖女を婚姻によって我が国に留め置こうと考えている者。

 真っ二つに割れている。


 キースレア帝国では、なおも侵略を推し進めたい軍部は、平和の象徴のような聖女の存在を邪魔だと考えているようだ。

 また、キースレアは先進的な考えの者が多いので、聖女など古くさい迷信だ、と断じる者も少なからず居る。


 そんな中、我が家の父親は、私と聖女との婚約を進めようとしている。


 私が、そう言うと、カリンはうつむいてしまった。


 私が聖女と婚約することを、嫌だと思ってくれてるんだろうか。

 私は、カリンの手を取り、「あの女と婚約なんか、ぜったいにしないよ」と伝えた。


「あーお二人さん。

 悪いけど、俺もここにいるんだけどさ。

 ソラは、そろそろ、カリンに、例の計画を話した方がいいんじゃないか?」

 とカイト。

 カイトの存在を、すっかり忘れていた。


「計画?」

 カリンが首をかしげた。


「それは、カリンの気持ちが判ってから・・」

「逃げるなよ、ソラ。

 もう、だいたい、カリンの気持ちなんか判ってるだろ?」

「いや、でも、まだ・・」

「聞いちまえよ、ほら・・」


 カリンに想いを告げるときは、私が、家を捨てる、と決めたときだ。

 家を捨てた私に、彼女を幸せに出来るだろうか。

 でも、私は、あの家には居られない。

 いくつかのコンクールでの実績は、私に自信を与えてくれた。


 私は、カイトに促され、覚悟を決めた。


「カリン、私は、君が好きなんだ。

 君は、私のことを、どう思ってる?」


 カリンは、私を見つめ、「ずっとお慕いしておりました」と答えてくれた。


 良かった・・。でも、私は、彼女に、海外に出ることも伝えなければならない。苦労させるであろうことを。


「計画というのは、私は、将来は、キースレアか、ギルモア辺りで、演奏家として活動しようと思っているんだ。

 家を出て、ね」

「ソラなら、きっと、成功するわ」

「カリンなら、そう言ってくれると思ってたよ」

 私は彼女を抱きしめた。


 レミ嬢は、まだ14歳で、聖女としての能力が十二分に発現していない。

 父が婚約話を進めるとしても、問題なく聖女であることが確定してからになる。


 学校を卒業したら音楽留学をし、そのまま、外国に活動拠点を作る。

 なるべくなら卒業したいが、さほど今の学校の卒業証書にこだわりはない。

 父の様子をうかがい、もしも、婚約や婿入りの話を無理に進めようとしたら、国外のコンクールに出場して、そのまま国を出るつもりだ。


「クラウス先生が、支援すると言ってくれてるんだ」


 私は、数年前から、クラウス先生の教えを受けている。キースレア帝国では有名な演奏家だ。

 キースレア帝国に行くのなら、私の邸に泊まりなさい、とクラウス先生は、快く言ってくれた。コンクールに推薦もしてくれる、と。


「心強いですね」

 とカリン。

「ああ。

 私が外国に落ち着いて、音楽家として活動できるようになったら・・そうしたら・・。

 まだ先だけど。

 私のところに来てほしい」


「判りました。必ず行きますわ」

 彼女は、応えてくれた。


 今日、彼女は、私の婚約者になった。

 私たちしか知らないけれど。今は、それで十分だと思おう。



お読みいただきありがとうございました。

また明日午後6時に投稿いたします。

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