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6/25

6)学園祭

一日に二本投稿がなかなか出来ません・・、もし、二本投稿できたときは、お知らせいたします。

m(_ _)m


◇◇◇ 2年後


 最近、姉のサヤから、しばしば、レミ嬢の話しを聞く。


 姉は、ジュンヤと父から頼まれて、学園でレミ嬢と一緒に居ることが多くなったからだ。


 アノス国立学園は男女共学だが、男子学生と女子学生が、別れている場も多い。

 サロンを使った茶会などは、とくに、女子は女子だけで開いている。

 ジュンヤは、レミ嬢としじゅう連んでいるが、男女別の茶会にふたりで乱入するわけにはいかない。

 ジュンヤには、男子学生との付き合いもある。

 そんなとき、レミ嬢がひとりにならないよう、サヤがレミ嬢の面倒を押しつけられた。


「困ってるのよ、ホントに」

 とサヤはうんざりしたように言う。


 同情に堪えない。

 グチをくらいは聞いてあげよう。


「またレミ嬢が大声で、下着の話しをしたのかい?」


「胸のお肉を寄せて上げる下着の話しはなかったわ。

 不幸中の幸いね。

 でも、今回は、もっとたちが悪かったのよ。

 レミ嬢の知ってる世界では、『王妃が出産をみんなに公開する』らしいわよ。

 おまけに、レミ嬢は、『ここでもそうすればいいのに』と思ってるそうよ」

「・・ウソだろ・・」

「ウソじゃないわよ。

 私の茶会で、大声で発表してくれたもの。

 レミ嬢が不敬罪で捕まるのはかまわないけれど、私まで巻き添えにしないで欲しいわ」

「・・父上のせいなんだから、父上に責任を取って貰えばいい」

「良い考えね」

「変なことを大声で言うなって、注意してやったら?」

「それがね、不思議なことに、言えないのよ、レミ嬢には。

 嫌みのひとつでも言ってやらなきゃって、後から思いつくの」

「どうして?」

「判らないわ。

 それに、どうでもいいわ。

 彼女と、必要以上にお話もしたくないの。

 ああ、そういえば、私の、少し太めの友人に向かって、

 『お腹の脂肪を吸引する手術は、この世界にはないのかしらね』って、レミ嬢が言った話し、したかしら?」

「まだ聞いてなかったようだ・・」

「ひどいと思わない?」

「・・そうだね・・」

「それから・・あ、そういえば、ソラ。

 ジュンヤが言ってたんだけど。

 あなた、もしかして、レミ嬢と婚約するかもしれないの?」

「まさか。

 するわけない」

「そうよね・・。

 あのね、レミ嬢が、聖女かもしれない、という話しもあるのよ。

 これも、ジュンヤ情報だけど」

「ジュンヤは、レミ嬢と付き合うようになって、ますますおかしくなったな」

「レミ嬢とふたりで、アノス国教の本部に行ってきたって言ってたわ。

 あながち、デタラメでもないみたいよ」

「え・・? なにかの間違いだろ」

「どうなのかしら・・。

 レミ嬢は、聖女としての条件は合ってたらしいの」


 聖女とは、ときおり世に現れる、聖なる力を持った乙女。

 聖女は、浄化と癒やしの力を持っている。

 光魔法の適正が高く、神の加護も得ている・・とアノス国教はいう。


 レミ嬢が聖女・・そんなバカな。

 そこらの露店の女将さんの方が、よほど聖なる感じがする。

 大丈夫か、アノス国教・・。


◇◇◇


 姉のサヤいわく。

 父が、「ソラの婚約者を決めんとな」と、盛んに言いだしたらしい。


 私が、今年、15になったからだろう。来年には成人だ。

 今のところ、候補を絞り込めて居ないのが救いだ。

 父のことだから、私をより有効な駒とするべく、良い家を探しているのだろう。

 私の意思など、まるで無視だ。

 それに、父には先見の明がない。

 父は、投資でもなんでも、不思議なほど、マヌケな選択をする。

 母や有能な家礼が監視していなければ、我が家はとっくに破産していた。

 先月、父は、「詐欺まがいの商人」と有名だった男に騙され、枯れた鉱山に巨費を投じようとした。

 父が書類にサインするまで母たちが気付かなかったのは、「まさか、あんなものに騙されるはずがない」と油断していたからだという。

 幸い、父が動かせる金は限られていたため、手遅れになる前に母の実家が阻止に動いている。

 あの父親が選んだら、変なところに婿入りさせられる怖れがある。



 私は、ときおり、カリンを邸に呼んで、ピアノを弾いて過ごしている。

 私の癒やしのひとときだ。

 努力家で生真面目で、優しく控えめな彼女が好きだ。

 ユヅキ芸術学園の話しを聞くのも楽しかった。

 望んでもいけなかった学園の話しを聞くと、自分も、少しばかり、学園に入れた気分になれる。


 今日は、カリンが声楽を学んでいると聞いたので、歌を聞かせてもらうことにした。

 彼女は自信がない、と渋ったが、

「それなら、なおさら、練習しなきゃ。

 聞いてあげるから。

 ほら」

 と催促した。


 カリンは、恥ずかしげにピアノの横に立った。

「今、習っている歌を歌いますわ。

 今度の学園祭で発表する予定なんです。

 学園祭は、2年に一度しか開催されないんですのよ。

 ですから、学園総出で、準備しているところなの。

 私が選んだのは、『春の宵』という恋歌なんです」


 カリンが呼吸を整える。


 楽しみだ。


 すると、優しい歌声が聞こえてきた。


『真っ白な花びらの舞う道。

 散りゆく花びらのように、私の恋は終わってしまった・・』


 ・・綺麗だ。


 「春の宵」は有名な歌だ。

 数多の歌姫たちが歌ってきた。

 でも、こんなに切なく歌われるのを聞いたのは始めてだ。


 手の届かない恋人へ愛しさを訴える、もの哀しい旋律。

 多くのプロの歌姫たちは、情感たっぷりに、ビブラートをきかせたりしながら歌う。

 でもカリンは、彼女の生真面目な性格ゆえか、素直に、まっすぐに声を響かせる。

 それなのに、なぜか、狂おしく切なく聞こえる。


 彼女のソプラノは、曲の難しさを感じさせないほど豊かな高音で、鈴の音の響きのようだ。

 心を揺さぶる歌声だった。


 ――これは、誰にも聞かせたくない・・。


 それなのに、彼女は、学園祭で、この歌を歌うのだ。

 ・・彼女には、才能がある。

 これからも、ひとを惑わせる歌を歌い続けるだろう。


 マズい・・。


「ど・・どうでしたか?」

 歌を終えて、カリンに聞かれた。

「素晴らしかったよ、カリン」

 私は手放しで褒めた。


「良かった」

「その歌を、学園祭で披露するんだね」

「ええ。その予定ですの」

「・・そう・・」

「今から、緊張してしまいますわ。

 学園祭の出し物は、ひとり一曲と決まってるんですけれど、私は、ピアノにするか、ずいぶん迷って、歌にしましたの。

 声楽の先生が、私のソプラノを褒めてくださって、薦めてくれたものですから」

「・・これで、カリンが、他のやつに目をつけられたら、私は、ユヅキ芸術学園に入学させてくれなかった父を、一生恨むだろうな」

「ん?」

「いや、なんでもない・・」

「お時間がありましたら、ぜひ、学園祭にいらしてください。

 招待状をお送りしますわ」

「ぜひ行かせてもらうよ」

 彼女の手を握って答えた。


 ライバルが現れることのないよう、見張りに行こう。


◇◇◇


 ジュンヤの野郎には頭に来る。


 カリンを玄関まで送る途中、また邸に入り込んでいたジュンヤが、カリンを罵倒した。

「また来てたのか。

 ソラは、良い家に婿入りする予定なんだ。君には見込みないんだぜ」


 そんなことを言う権利は彼には無い。

 私の将来を決めるのは、私だ。

 ジュンヤではない。


 カリンは、うつむいて、「存じております」と答えた。


 私は、海外に音楽活動をするための拠点を築けたら、結婚を申し込むつもりなのに。


 私が何度、「辞めろ」と止めに入ってもジュンヤの罵詈雑言は止まらなかった。

「ついでに言うと、婿入りした家に第二夫人で入ろうと考えているとしたら、止めたほうがいいよ。

 針のむしろだからな」


「出て行けっ。消えろ、ジュンヤ」

「ふん。

 彼女のために言ってやってるんだぞ」


 ジュンヤは、もしかしたら、本当に女なのかもしれない。

 こういう類いの嫌みは、男ではあまり思いつかない。


 カリンの肩に手を置いて、気にしないでくれ、と伝えたが、カリンは涙をこらえるような顔をしている。

「大丈夫ですわ。今日は、お暇しますね」

 と、無理に和やかに言おうとしていた。

 つぶらな瞳が潤んでいる。

「また来て。

 これに懲りないで」

「ええ、うかがいますわ」

 哀しげにカリンが頬笑んだ。


 ・・つらい。胸が痛む。

 ジュンヤめ。


 私に恨みでもあるのか。

 私がなにをしたというのだ。

 どちらかというと、私がいつも被害者だったというのに。


 ジュンヤを振り払って、玄関まで出ると、カリンは、空を見上げ、

「ほどなく、雨が降りますわ」

 と言った。


「雨が?」

「サヤ様たちが、お庭でお茶にしているようですが、教えてさしあげてください」

 とカリン。

「そうだね。

 カリンの天気予報は当たるから、伝えておこう」

「ええ」

 私はカリンの腕に手をかけ、声を潜めて尋ねた。

「カリン、君は、もしかして、聖女かい?」

「え? いえ、まさか。

 違いますわ」

「でも、枯れた草木を癒やすことができるだろう?」


 実は、私は、カリンこそ、聖女ではないかと思い始めていた。

 カリンの天気の予測が、尋常じゃない当たり方で、おまけに、彼女は、邸の枯れかけた鉢植えを復活させてくれた。


「それは、私の持っているスキルと属性魔法のおかげなんです。

 聖女のような万能の能力は、私にはありませんわ」

「そのスキルって?」


 私が尋ねると、カリンは答えるのをためらう素振りを見せた。


「私にも言えないことなんだね?」

 私が言うと、カリンは、

「いえ、ソラになら、お話してもいいですわ」と答えてくれた。

「ありがとう」

 私は、カリンに近づいた。

 カリンも、秘密の話をするために、私の耳元に顔を近づけた。

 彼女の温もりを耳元に感じる・・。

「あの・・私のスキルは・・」


 ・・と、ふいに、カリンが私から離れていった。

 驚いて振り返ると、ジュンヤのやつが、カリンの腕を取り彼女を自分の方へ引き寄せていた。


「いったい、なにをしてるんだ!」

 とジュンヤ。

 なぜか怒ってる。

 こいつ、なんでいつも私とカリンの邪魔をするんだろう。

 イライラする。

「ジュンヤ! 邪魔をするなっ!」


「こんな人目のあるところで、ふしだらですわっ」

 と、またレミ嬢が涌いて出た。

 ・・なにがふしだらだ。

「話をしていただけだ・・」


 キスをしていると思われたらしい。

 だとしても、ジュンヤたちには関係ない。

 なんなんだ、こいつら。


◇◇◇


 我が家にいつも入り込んでいるレミ嬢が聖女かもしれない、と知ったとたん、私の父は、

「もし、本当なら、ソラと婚約させよう」と言い出した。


 我が父親ながら、どうしてこう、愚かなんだろう。


 ジュンヤが、裏で手を引いているようだ。

 ジュンヤめ・・。


 母にそれとなく確認すると、「ソラが嫌なら、婚約なんか、させないわ。安心しなさい」と言ってくれた。


 父とジュンヤ、レミ嬢の3人がかりで、なにやら画策しているのが気になる。

 不安だ。


◇◇◇


 ユヅキ芸術学園。

 学園祭当日。


 ハノウ家のご家族と待ち合わせをし、一緒に学園に向かった。

 2年半前のコンクール以来、カイトとは、気の合う友人付き合いをしている。

 カリンの父上、シン・ハノウ侯爵は、「カリンが世話になってるね」と気さくに話しかけてくれる。優しげな紳士だ。私の義父になる方だ。さすがに緊張する。


 カリンの出番は、2年生の後半と聞いていた。


 ――男の学生、けっこう居るんだな・・。

 私もここに入りたかった・・まぁ、今更だ。


 1年の部は終わり、2年の竪琴の演奏が続いている。

 竪琴の音色は麗しく澄んでいる。

 この神秘的な音ゆえに、我が国では竪琴が好まれている。


 アノス王国は、竪琴大国、と言われている。竪琴演奏者は数多おり、層が厚い。

 学園の竪琴科には留学生が多いという。


 2年の声楽の部が始まった。

 クラッシックな歌が多いようだ。

 貴族令嬢は、淑女らしく、行儀の良い曲を選ぶらしい。

 カリンの選んだ『春の宵』は、恋の歌だ。

 じゃっかん、官能的な雰囲気もある。

 ・・嫌な予感がする・・。


 カリンが舞台に現れた。

 クリーム色の地に小花を散らしたワンピース姿が可憐だ。

 隣の男子学生が、「可愛いな。2年生かぁ」と友人に話している。

 ・・勝手に褒めないでほしいな。

 カリンの歌の準備が整ったらしい。

 隣の男子学生を観察している場合ではない。


 歌が始まった・・。


『真っ白な花びらの舞う道。

 散りゆく花びらのように、私の恋は終わってしまった』


 鈴の音のように透き通った歌声が会場に響き渡った。


『この春の風は、あなたに触れた風でしょうか。

 花を揺らし、なにも知らぬげに、花びらを散らしてゆく。

 風よ。

 どうか、今宵は、私に触れずにおいて』


 心を込めて恋情を訴える切ない歌声に聞き惚れる。

 難しい山場の完璧さよ。


 カリンが歌い終わると、拍手の渦だった。

 彼女を迎えに行こう。

 素晴らしかった、と伝えたい。

 私は速やかに立ち上がり、会場を出た。


 ・・誰だ、あいつは・・。


 カリンに話しかけて手を握っている男が居る。

 背が高く、なかなかの美男子だ。

 どういうことだ・・。

 もう虫が付いているのか。

 近づくと、件の男の声が聞こえてきた。


「『春の宵』は、我が国でよく歌われている曲だが、アノス王国では聞いたことがなかった。

 祖国で聞く歌を、美しく聞かせていただいて、懐かしかった。

 ありがとう」


「こちらこそ、貴国の素敵な歌を歌えて光栄です」

 カリンが答えている。


 「春の宵」はキースレア帝国の歌だ。

 この男、キースレアからの留学生か?


 あの変な聖女モドキの令嬢・・レミ嬢が、また湧いて出てきて、「キリアン皇子」と呼んでいる。

 キリアン皇子? たしかに、キースレア帝国の第二皇子にそういう名の者が居た。

 まさか大国の皇子がカリンに目を付けた、とか?

 ・・ないな。

 アノス王国の公爵の三男坊の私でさえ、自由に婚約者を選べないというのに。

 大国の皇子が自由恋愛など、許されるはずがない。


 レミ嬢が、キリアン皇子に近づこうとして従者から煙たがられている。

 余所の国の皇子になにをやってるんだ。

 我が国に苦情が来るかもしれない・・。

 キースレア帝国から、「おたくの聖女が変ですよ」とか言われかねない。

 レミ嬢は、

「なんで、このタイミングで、隠れキャラが・・?」

 などと言っている。

 相変わらず、言動が意味不明だ。

 ふらふらと皇子に纏い付くレミ嬢を、従者が牽制しているうちに、キリアン皇子らしき男はカリンから離れて立ち去った。


 カリンの手を握っておこう。

 あの男の手の感触を上書きしておかなければ。


お読みいただき、ありがとうございました。

また明日午後6時に投稿いたします。(^^)/

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[気になる点]  父親が商人に騙されそうな所を止めるシーン。  母や有能な家礼が監視していなければ→母や有能な家令が監視していなければ、だと思います。
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