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5)入賞祝賀パーティ

今日の投稿もひとつだけになってしまいました・・。

m(_ _)m


 ジュンヤが、コンクール金賞受賞祝賀パーティでカリンと連弾をする、と知って以来、「なんであの女と? 私と弾けばいいだろう!」と、うるさい。


 ジュンヤとは、去年の誕生日で連弾した。それでこりた。

 以来、一緒に弾こうとは思わない。

 連弾は、一緒に弾く相手が居るのだから、自分だけ上手く弾けばいいってもんじゃない。

 でも、ジュンヤは、僕と合わせて弾こう、という気遣いが、まるでなかった。

 僕だけが、ジュンヤを気遣い、合わせなければならない。

 おまけに練習では、僕が少しでも合わせるのに戸惑うと、「足を引っ張るなよっ」と貶された。

 最悪だった。


 でも、彼にはそう言えなかった。言ってもムダだし。


 僕は、本当の理由を言う代わりに、

「最近、ジュンヤは、ピアノから離れていただろ」

 と答えた。

 ジュンヤは、キースレアの国際音楽コンクールの本選で、入賞出来なかった。

 予選止まりだった。

 ジュンヤにとっては、初めての挫折だった。

 それ以来、ピアノに対する興味が消えてしまっている。

 幼いころから褒めそやされて育ったジュンヤは、案外、打たれ弱い奴だった。

 ジュンヤは、僕の答えでは納得していないようだったが、かまうもんか。


 幸い、ジュンヤは、最近、留守が多い。

 以前は、暇さえあれば、我が家に入り浸っていた。

 我が家の父は、ジュンヤが居ると、「ジュンヤに比べて、おまえは努力が足りん。楽器で遊んでばかりいるからだ」などと言う。

 ジュンヤは、そんな僕と父の会話を、ニヤニヤ眺めるのが常だった。


 ところが、この10日ばかり、ほとんど姿を見ない。

 姉のサヤが、

「ジュンヤったら、誰か、新しい友達が出来たみたいよ。

 それも、女の子の」

 と教えてくれた。

「へぇ。

 このまま、うちに来ないでくれたらいいのにな」

 と僕は本音を述べた。

「フフ。

 そんなことを言ったら、お父様が怒るわよ。

 お父様、ジュンヤがお気に入りなんだから。

 その、ジュンヤの友人の女の子、かなり可愛らしい子らしいわ」

「物好きだね」

「まぁね。

 それがね、ソウタ・トラウ音楽コンクールの会場で知り合ったみたいなのよ」

「ソウタ・トラウ音楽コンクールで?」


 なんだか、少々、嫌な予感がする。

 ・・まぁ、いいか。

 ジュンヤが来ないでくれるのなら、それで良いし。


◇◇◇


 祝賀パーティ当日。


 パーティに来てくれたカリンは、若草色の清楚なドレス姿だった。とても可愛い。


 彼女が、カイトの友人らしい男と、親しく喋ったり、ダンスをしたりしていたので、「ピアノを弾こう」と姉に喚んできてもらった。

 我ながら、心が狭かった。


 ピアノの前で隣に座ったカリンに、

「すごいタンゴをみんなに聴かせてあげよう」

 と囁くと、

「ええ」

 彼女は頬笑んでうなずいてくれた。


 僕たちは、息の合った演奏を披露した。

 彼女は、ジュンヤと違って、いつも僕のピアノに合わせようとしてくれる。

 彼女のおかげで、連弾が楽しい。

 僕らの演奏は、喝采を浴びた。


 ジュンヤがカリンを睨み付けていたのが気になった。

 あいつは、性格が悪い。

 注視していたら、案の定、カリンに近づくジュンヤの姿があった。

 まといつく令嬢たちをまくのに時間がかかってしまった。

 著名なコンクールで続けざまに優勝してから、年頃の令嬢たちの居る家から婚約の打診をされるようになっていた。

 我が家は、父が投資に失敗しまくっていることが、耳ざとい貴族の間に知られていた。

 そんな公爵家三男の僕は、今までは、さほど注目されていなかった。ようやくコンクールで芽が出たとたん近づいてくる令嬢たちなど興味ない。


 カリンの側に行くと、ジュンヤの声が聞こえた。


「君は、ずいぶん、男性に取り入るのが上手いみたいだけど、ピアノの腕は凡人の域を出ないな。

 あの連弾は、私がソラと弾く予定だったんだ。

 君のおかげで、台無しだ」


 なんてことを言うんだ、あのヤロウ。

 頭に血が上る。

 殴ってやろうか・・いや、マズイ。ここは祝賀会の場だ。

 落ち着くために一呼吸置いていると、カリンの側にいたカイトが、

「あんた、何者か知らないが、このめでたい場で、よくも、そんな不愉快なことが言えるな。

 パーティをぶち壊しにしたいのか」

 と呆れたように言った。


 カイト、よくぞ言ってくれた。

 さすが、我が義兄。


「な・・不愉快な思いをしたのは、こちらだ!」

 とジュンヤ。


「もう、行こう、カリン。

 こんなやつ、放っておこう」

 カイトは、カリンを連れて、その場を離れようとした。


 すると、ジュンヤがカリンの腕に手を伸ばすのが見えた。

 慌てて駆け寄り、よろめいた彼女の身体を抱き止めた。

 ・・いろいろ、柔らかい・・。華奢な肩に腕を回すと、彼女の身体はすっぽりと僕の腕の中に収まった。・・抱き心地が良い。

 ジュンヤには頭に来たが、これは役得だった・・、ジュンヤに文句を言ってやらないと。冷静に、場を治めるんだ。


「ソラ、いつも私と連弾しているのに、どうして、今回は違うんだ?」

 と、ジュンヤが見当違いのことを言う。


「いつも、というわけじゃないだろ。

 前の誕生日のときに、一回だけ、一緒に弾いただけだ。

 今回は、彼女と知り合えた記念に、彼女と連弾したかったんだ。

 だから、僕から彼女にお願いしたんだ。

 みなさんにも楽しんでもらった。

 それを、台無しにしないでくれ」


 我ながら、上手く言えたと思う。

 ジュンヤを殴るよりも、良い結果に収められた。


 すると、「待って、ソラ様」と、あの、変な令嬢・・レミ嬢が現れた。

「あのね、ジュンヤ様は、ソラ様のことを愛してらっしゃるの。

 それを、判ってあげて!」


 ・・愛してる・・? ジュンヤが? なに言ってんだ、気色悪い。

 頭がおかしいのか。

 彼女は、ジュンヤが招き入れたらしい。

 ジュンヤのやつ。ろくなことをしない。

 ジュンヤの新しい女友達とは、やはり、彼女のことだったのか。

 レミ嬢が、戯けた事を言うから、さすがのジュンヤも顔を赤くしている。

 変な女を連れてくるからだ。勝手に恥かいてろ。



 今日は疲れた。

 カリンと連弾出来たのは楽しかったけれど。

 ジュンヤは、どっか、外国にでも行ってくれないかな。


◇◇◇


 今日は、ショックなことがあった。

 カリンは、ユヅキ芸術学園に通うらしい。

 てっきり、僕やカイトが居るアノス国立学園に通うのだと思っていた。

 ・・残念だ。

 僕も通いたかった。

 ユヅキ芸術学園には、男も通ってる。女子校だったら良かったのに。

 つくづく残念だ。

 それでなくとも彼女と婚約するには数多の障壁を乗り越えなければならないというのに。



 僕は、カリンに、ユヅキ芸術学園に通いたかった、と話した。

 また彼女に愚痴をこぼしてしまった。


「学校を卒業したら、外国に音楽留学するから、今は、我慢することにしたんだ」

 本当は、彼女に、僕が外国に行ったら、一緒に来て欲しい、と言いたかった。

 でも、それを話すのは、まだ早いだろう。


 僕は、アノス国立学園を早く卒業できるよう、講義を多く受けている。

 卒業に必要な単位さえ取れれば、年数を短縮して卒業できる。

 一年でも早く、ギルモア王国かキースレア帝国に音楽留学をしたい。

 父に、変な婚約者をあてがわれる前に家から逃げてやる。


 カリンは、

「ソラは、どこでどんな風に学んでも、素晴らしい演奏家ですわ。栴檀は双葉より芳しと言いますが」と言う。


「それは、どういう意味だい? カリン」


「栴檀という、香りの良い草木は、小さな双葉のころから香り高い、そうです。

 才能も、そのひとの本質も、どうしたって、現れ出でるもの、というような意味ですわ。

 ソラの才能も、覆い隠されることはありませんわ」


「きれいな言葉だね。

 僕も、その言葉のように生きたいものだ」


 小さな双葉は、いくら香りが良くても、踏み潰されることもあるだろう。

 父やジュンヤに踏み潰されないよう、僕は、出来るだけのことをしよう。


お読みいただきありがとうございました。

明日も午後6時に投稿いたします。

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