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24)聖女たち、その後

本日2話目の投稿です。

1話目は、午後6時に投稿いたしました。


 キースレアから戻ってきた後。

 私は、叔父に会う機会があった。

 私が緊張して失敗ばかりしていたころからコンクールに来てくれた、優しい叔父だ。

 引退する前は、王宮で総務に勤められていた。

 品良く白髪をなでつけた、高雅な紳士だった。


 叔父は、私の母の兄にあたる方だ。

 ジュンヤの亡き母と親しかった。

 彼女と、同じころにアノス王立学園に通っていたそうだ。


 ジュンヤの母は、私の父の姉だった。

 だが、ジュンヤの母は、私の父とは仲違いしていた。

 我が父親の人柄を考えれば、たとえ姉弟といえども、付き合いきれなかったのだろう。


 叔父と居ると、私は、さまざまなことを思い出さずにいられなかった。


 何年も前、当時10歳ころの私が、ユキノ家の危険な灌木の実を摘まみ取り、持ち歩いていたとき、叔父は私に注意してくれた。



 私と叔父は、秋深まる静かな中庭で、ガゼボに設えた椅子に座っていた。


 叔父は、私に、最近の、聖女たちの様子を教えてくれた。

 ふたりが罰せられて、すでに、半年以上が過ぎていた。


 ジュンヤと聖女、ふたりに対する私の想いは複雑で重い。

 自分でも、この奇妙な感情を、どう捉えていいのか判らない。

 ふたりは、普通の人間ではなかった、と私は思っている。

 聖女は、ジュンヤがカリンを襲撃する計画を立てたとき、傭兵のふたりを魅了で操った。

 そのとき、聖女は、傭兵のふたりに、「ジュンヤの命令を聞くように」と命じた。

 聖女は、ジュンヤが、カリンをどんな目に遭わせようとしていたのか、興味がなかったという。

 聖女は、自分の計画以外のことは、どうでも良かったのだ。

 あとは、ただ、毎日、楽しく暮らせれば、それで良かった。

 この無責任ぶりには呆れを通り越して、空しさを感じる。

 これが、我が国の聖女として選ばれた人間だったのだ。

 彼女は、自分のどこが悪かったか、いまだによく判って居ないようだし、これからも判らないかもしれない。

 私もふたりのことを理解しきれないでいる。


 聖女レミは、今現在、彼女の母親と、一緒に暮らしている。

 彼女の母は、再婚相手だった男爵と離婚して、娘と暮らすことを選んだのだ。

 蟄居ではあるが、彼女は聖女ゆえに、それなりに、気遣われている。

 彼女と母親、ふたりの世話をする侍女たちに囲まれ、なに不自由なく、暮らしているらしい。

 レミ嬢は、侍女たちと、変わったサイコロゲームに興じたり、イノシシや鹿、花や月などの絵が描かれた小さいカードを作って、毎日、遊んでいるという。

 天気の良い日には、母親とともに、敷地に畑を作り、野菜を育てたり、花壇を作る作業に勤しみ、屋敷では笑い声が絶えないそうだ。

 王宮の影が偵察したところ、レミ嬢は、最近では、なにやら、物語を作るのに凝っているとか。

 それも、シオン殿下や、キリアン皇子、アヤト、コウキ、カイト、それに、ソラ・・私まで・・を登場人物にした物語らしい。

 絵を描くのが上手い侍女が、聖女を手伝い、絵入りの物語を手作りし、屋敷の皆で読みふけっているという。

 どんな内容だろう・・すごい気になる。

 聖女と侍女らは、寝所でこっそりと読んでいるらしく、残念ながら、影でさえも、内容を把握していない。

 『BLモノ』という合い言葉のようなものを、影は聞いている。

「BLモノ、ですか。

 なんでしょうね、それは・・」

 と、私は首をかしげた。

 始めて聞く言葉だ。皆目判らない。

「さぁ、なんだろうね。

 BLモノという言葉の正体は、今のところ分かっていないのだが、女の子たちが喜んでいるところをみると、それほど危険な物語ではなさそうだよ。

 ソラまで登場人物に入っているのだから、冒険物語じゃないのかね」

 叔父が、自信なげに眉をひそめる。

 あの聖女が冒険物語に読みふけるだろうか。

 少々、嫌な予感がする・・。


 叔父は、ジュンヤの様子も教えてくれた。

 ジュンヤは、彼・・いや、彼女の祖父とともに、田舎の修道院で蟄居していた。

 修道院に入れられた当時。

 ジュンヤは、ひどく大人しく、無口で、まるで廃人のようだったという。

 彼女は、祖父をまるで無視し、顔を合わせることもなかった。

 ひとりで、部屋に閉じこもり、大量の書物を読んで、過ごしていた。


 それが、半月ほど前までの話しだ。

 ジュンヤと祖父が蟄居となり、5ヶ月と数週間が過ぎたころ。


「ジュンヤの祖父が亡くなった?」

「ああ。

 身体は元気そうだったのだがね。

 もちろん、精神的には、さすがに参っている様子だったが。

 まさか、亡くなるとは、彼の世話をしていた修道士も思わなかったそうだ。

 彼は、ずいぶん、物静かにしていてね。

 庭をときおり散歩する以外は、部屋で書き物をしたり、ぼんやりして過ごしていたらしい」

「死因は?」

「階段からよろめいて落ちたのち、3日ほど寝たきりになり、ある朝、亡くなっていた、と聞いている」

「惨いものですね」

「寿命みたいなものだろう。

 年寄りが階段で転ぶのは、よくある話しだ」

「ええ、まぁ。

 ジュンヤは?」

「祖父の死を聞かされても、全く反応はなかったらしい」

「そうですか」


 私は、しばし迷ったのち、

「あの・・叔父上」

 と、叔父に話しかけた。

「なんだい?」

「ジュンヤが持っていた魔法スキルは、いったい、なんだったんですか?」

 叔父は、私の問いに、視線を泳がせ、躊躇したのち、答えた。

「『俊敏』と、それから・・『幻惑』だよ」


 『俊敏』は、知っている。

 『俊敏』スキルを持つ狩人や騎士は、めっぽう強い。

 彼らには、攻撃が当たらないのだ。

 ジュンヤがピアノが上手かったのは、指の動きが素早かったからかもしれない。

 しかし、『幻惑』は、聞いたことがなかった。


「幻惑・・とは?」

「ひとに幻惑を見せるという魔法だ。

 ただし、ジュンヤが5歳のとき、魔法協会でスキルが判明してすぐに封印された。

 危険なスキルと判断されたのでね。

 だから、ジュンヤは、そのスキルを使ったことはないだろう」

「封印が解ける場合もあるのでは?」

「それは、昔の話しだね。

 今は、改良されているので、心配は要らない。

 それに、スキルによる幻惑の魔法は、かかりにくいと言われている。

 ひとにより、かかる場合と、魔法が効かない場合と、極端らしい」

「初級レベルの魅了魔法みたいなものですね」

「ああ、そうだね。

 幻惑はそれ以上でね。

 たとえば、ひとによっては、火に焼かれる幻惑に簡単にかかる者が居たり、あるいは、火の幻惑にはかからないが、水に溺れる幻惑にはすぐに惑わされる者が居たり。あまりにも個人差があり、使えないスキルだと言われている」

「そうなんですか。

 それにしても、幻惑など。かなりマレなスキルですね」

「まったくだ。

 彼女は、特殊な存在だったのだろうね」


 私は叔父に、ずっと尋ねたかったことを問うことにした。


「ユキノ家の庭にあった、あの喉を傷める灌木は、誰が植えたんですか」


 叔父は、痛ましげな顔になった。

 私が知りたいことが、判ったのだろう。


「ジュンヤだよ」

 と、叔父は静かに答えた。

「ジュンヤが・・?」


「ああ。

 ジュンヤの母親が亡くなったあとに、彼・・いや、彼女が植えさせた」

「そうでしたか・・」


 ジュンヤを男としてユキノ伯爵家で養育し続けた、影の協力者が居るのだろう、と私は考えていた。

 その人物が、あの灌木を植えたのだろう、と。


 だが、そんな人間は、居なかった。


「ジュンヤの両親は、祖父のユキノ伯爵から、逃れようとしていた。

 家族だけで、小さな子爵領に移り住み、穏やかに暮らそうと計画を立ててね。

 年とともに女らしく成長していくジュンヤのために。

 だが、それは、叶わなかった」

「なぜ?」

「ジュンヤが、拒絶した」

「まさか」

「ジュンヤは、両親よりも、祖父を選んだんだよ。

 あのとき、ジュンヤは、まだ9歳だったが。

 田舎の子爵領になど、自分は行かない。

 お祖父様のもとに残る、ときっぱりと答えた」

「それで、ジュンヤの母上は、絶望して亡くなられたんですか?」

「・・いや、それは、判らない。

 彼女は、なぜ亡くなったんだろうね」

「我が家の侍女たちが、一時期、自殺したのだと噂していましたが」

「たしかに、普通の事故としては、不自然だったのでね」

「転落事故だったと、聞いています」

「高いところが苦手だった彼女が、なぜ、あんな足場の悪い塔に上ったのか・・いや、上れたのか。

 私は、ずっと考えている。

 だが、知らない方が良いことも、世の中にはあるのかもしれない。

 彼女は、ずっと、ジュンヤを説得しようとしていた。

 最後まで、諦めていなかった。

 それは、叶わない夢だったのだろう」


お読みいただきありがとうございました。

また明日、午後6時に投稿いたします。


宣伝をさせてください。m(_ _)m

また新しい連載をはじめました。

「世界にひとつだけの家」という、高校受験に失敗した女の子が、遠縁の青年の家造りを手伝いながら、成長?する物語です。ぜひ読んでみてください。

https://ncode.syosetu.com/n8292es/

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