23)聖女の聖歌、キースレア帝国にて
今日も2話投稿いたします。(^^)
半月後。
案外早く、シオン殿下一行と、私たちがキースレア帝国へ行くことが叶うことになった。
あとひと月もしないうちに、キースレアに赴く。
私は、キースレア帝国でのコンクール出場に向けて準備があり、カリンも、キースレア帝国内で行われるコンクール出場を目指している。
キースレア帝国内で行われるコンクールは、基本的に、キースレアで活動している演奏家の推薦がないと、出場できない。
ただし、帝国内でも認められている外国のコンクールで入賞実績があると、出場を認められることがある。
その場合は、審査に時間がかかる。
キースレア帝国は、世界でもっとも大国であり、歴史もある。
その代わり、「自国が一番」という唯我独尊で傲慢なところがある。
ゆえに、外国のコンクール実績が、あまり通用しない国だった。
私は、コンクール出場にさいしてクラウス先生の推薦を貰えるが、カリンは難しいかもしれない。
でも、カリンには、もう一つの切り札がある。
カリンの声楽家としての力を有名にできる、もう一つの切り札が。
まぁ、それは、強力であるがために、危険な切り札でもあった。
キースレアの荒れ地を癒やしてやるのだ。それくらいの利を得ても良いだろう。
私たちのキースレア帝国行きは、シオン殿下がキースレア帝国と、交渉してくれたおかげだ。
『聖女が歌う聖歌に、聖なる魔法の効果がある』、ということは、世界中の誰もが知っている。
ところで、『聖歌自体にも、聖なる魔法の効果が、それなりにある』という事実は、あまり知られていない。
研究家や宗教家なら知っていることだが、一般の民は、ほとんど知らない。
せいぜい、聖なる歌だから、浄められ安らぎを得る効果くらいはあるだろう、と思われている程度だ。
王族や、古い歴史を持つ高位貴族ならどうだろうか。
古記録には記されている情報だと思う。
しかし、そんな記述に注目した者が、どれだけいるだろうか。
シオン殿下は、
「聖歌を、正確に歌える声楽家に歌わせますので、キースレア帝国の問題のある荒れ地に案内を頼みたい」
とキースレア帝国に申し入れた。
「聖歌自体にも、少々の、聖なる効果があるようですので、試したい」
と、シオン殿下は説明を加えた。
その後、キースレアのキリアン皇子から、連絡があった。
「アノス王国のシオン殿下から、荒れ地で聖歌を歌う、という申し入れがあったが、その声楽家とは、カリンだそうだね?」と。
「そうですよ」
と、私は応えた。
「楽しみにしているよ」
キリアン皇子は朗らかに言った。
どれだけ楽しみにしてくれてるのかな。
さて、まずは、カリンと結婚しておかないとな。そうでないと、危なくて、キースレアに行けないから。
婚姻の準備はすでに整っている。
少々、日にちを前倒しにすれば良い。
予定を早める、と言ったら、カリンの父上にごねられそうだが・・。まぁ、説得は母上に頼もう。
◇◇◇
ひと月後。
いよいよ、キースレア帝国で、カリンが聖歌を歌う日が訪れた。
さすがに緊張する。
カリンは、落ち着いて見える。
「皆さんの前で私が聖歌を歌うなんて、良いのかしら」
などと言っている。
良いに決まってる。
荒れ地での歌の披露には、皇族の方も見えられていた。
皇太子夫妻、それにキリアン殿下だった。
「ソラ。
カリンと結婚したんだね」
キリアン殿下が声をかけてくれた。
カリンは、すでに、カリン・トキワ夫人だった。私の妻だ。
「ええ」
私は頬笑んで応えた。
「そう・・。
おめでとう」
「ありがとうございます」
キリアン殿下の表情に、どことなく、影がよぎる。
まぁ、どうでも良いけどね。
彼には、世界中に、数多の婚約者候補が居るんだろうから。
よりどりみどりだろう。
彼は、どんな美女でも、才媛でも、手に入れられる。
でも、私は、カリンしか欲しくなかった。
カリンも、私を愛してくれた。
キースレア帝国は、この荒れ地に、ピアノを運んでくれた。
さすが大国。
まぁ、軽量化の魔導具を使えばさほどの手間でもないだろう。
私は、ピアノの前に座った。
最高の伴奏をしよう。
私とカリンは、うなずき、準備が出来たことを確認し合った。
私は、ピアノを弾き始めた。
『恵み与えるは。
愛し子のため。
癒やし与える。
愛し子の命に。
潤う大地。
草木実り豊かに。
麗しき黒き土。
育み芽生える。
其は命の床なりて』
カリンが歌い始めたとたん、キリアン殿下ほか、キースレアの皇族、貴族たちは、一様に、呆けたような顔になった。
怖ろしいまでに難易度の高い歌であることは、素人にも判る。
こんな歌は、ひとりの人間に歌える代物ではない・・と普通なら思うような歌だ。
まるで、鳥の鳴き声のような声や、龍のうなりのような声まで。
歌うためには広汎な音域の声が要る。
あり得ない声と、そして、精緻な声の制御によって、始めて歌うことが出来る。
自然界の音、波動を歌にし、それに祈りを込める。
完成された歌は、大地の恵みのごとく美しかった。
古の聖女は、女神だったのではないか。
カリンは、なぜ歌えるんだろう。
最後の聖なる詩が大地に染み込むように歌われ・・終った。
声の余韻までもが、輝くように美しい。
すると、荒れ果てた大地に、緑のさざ波が現れた。
可愛らしい新芽が、次々と芽吹いていく。
あっけにとられているうちに、荒れ地は、豊かな畑地になった。
また、午後8時に、本日の2話目を投稿いたします。
よろしくお願いします。m(_ _)m




