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22)計略、ふたたび

今日、2話目の投稿です。1話目は、午後6時に投稿いたしました。


 私は、久しぶりに、アノス王国に赴いた。

 シオン殿下とお会いするためだ。


 私は、兄に頼んで、シオン殿下との話し合いの場を設けていただいた。

「キースレア帝国の件で」と、伝えた。

 数日後には、王宮の中庭で、シオン殿下とお会い出来た。



「シオン殿下。

 実は、キースレア帝国の件で、お知らせしたいことがあるんです」

 私は、単刀直入に告げた。

 忙しい殿下の時間を無駄に費やすことは出来ない。前置きは要らないだろう。


「ああ、ユウヤ殿から聞いた。

 キースレア帝国に関するどんなことだね?」

「ええ、その・・ある目的のために、カリンとキースレア帝国に向かう予定なのですが・・。

 その前に、その話しを理解していただくために、体験していただきたいことがあります」

「なんだい?」

「聖女の聖歌についてです」

「え・・聖女の聖歌・・を、体験するのか?

 あの、死にかけたオークの悲鳴のようだという?」

 シオン殿下が眉をひそめた。

「シオン殿下、それは、レミ嬢の聖歌ですね」

「そうだ。

 レミ嬢の動向を調べていた私の影が、そう報告してきた」

「さすが正確な報告をするよう訓練された影ですね・・。

 その通りです、レミ嬢の聖歌は、歌と言える代物ではありません。

 ですがレミ嬢の聖歌のことではありません。

 古代の譜面に残された聖歌のことです。

 ええと・・。説明しにくいんですが。

 聖歌の譜面を、殿下は、見たことがありますか?」

「いや、ないな」

「そうですか。

 あの聖歌は、聖女が歌うためのものです。

 古の初代聖女が、インスピレーションにしたがって歌ったものを、譜面に起こしたものです。

 それで、本来は、聖歌は、ソリスト用なのです。

 しかし、声の音域が広すぎて、普通のソプラノ歌手では歌えないので、聖歌隊では、バスからソプラノまで、フルでそろえて歌っています。

 ですが、本当は、聖女がひとりで歌わなければならないんです。

 聖女が、聖歌を、本来の形で歌ったとき・・というか、『歌えた』ときに、聖なる魔法が使えます。

 文言を唱えただけでは、たとえ聖女であっても、たいした聖魔法は使えない。

 ところが、聖女が、たとえ不完全であっても、聖歌を歌ったときに、聖魔法が使える。

 つまり、聖歌そのものにも、聖なる効果がある、ということなんです」

「聖歌そのものにも? それでは、もしも、聖女でなくとも、聖歌を歌えれば・・」

「ええ、聖女ほどではなくとも、なにがしかの聖なる奇跡が起こります。

 まぁ、そのためには、あの聖歌を、完全に歌えたら、という条件つきですがね。

 普通の人間には歌えないくらいの、難しい歌ですので」

「普通の人間には歌えない?

 そんなに難しい歌なのか。

 私は、聖歌隊の歌は、聞いたことがあるが」

「そうですね。

 誰でも、聞いた者は、聖歌隊の歌を聴いてるんです。

 ひとりのソリストの歌では無く、聖歌隊の歌です。

 ですが、聖歌は、ソロで歌わなければならない」

「ソロと、合唱とは、そんなに違うのか?」

「おそらく、聖女の聖歌は、ひとりの人間の声の波動で歌いあげなければならない、ということでしょう」

「・・そうか」

「逆に言えば、ひとりの歌い手が、完璧に歌いあげれば、『聖歌』としての効力が発現されます。

 まぁ、聖女でない場合は、『聖歌としての効力だけ』になりますが」

「『聖歌としての効力だけ』、というと、どの程度の効力があるのだ?」

「季節外れの花を咲かせるくらいでしょうか」

「本当か?」

「この目で見ましたので」

「それは・・いったい」

「カリンは、歌えるんです」


 シオン殿下は、ごくりとつばを飲み込んだ。


 私は、「シオン殿下の目で、確かめてください」と殿下にお願いした。

「ああ、ぜひ、確かめたい」

「カリンを待たせてます。

 連れてきても?」

「頼む」


 私は、カリンを迎えに行った。

 中庭にほど近いところでカリンを待たせていたので、数分で殿下に引き合わせることができた。

 幾分、緊張した様子のシオン殿下。


「では、カリン嬢。頼む」

「承知いたしました、殿下」


 カリンは、殿下に礼をすると、気持ちを静めるためにしばしたたずんだ。

 そして、息を整え、浪々と歌い始めた。


 カリンが歌い始めると、シオン殿下の目が見開かれた。

 聖歌隊が歌うものと、ソリストが歌いものと、その違いは、歴然だった。

 聖歌隊の歌の美しさと、ソリストの美しさとは、違う。

 違うとしか言いようがない。

 様々な声のハーモニーを楽しむ合唱と、ひとりの人間が歌い上げる歌と、その美しさの質が同じはずはない。


 聖女の聖歌は、ソリスト用だったのだ。


 私が聖歌の譜面を見たときには、異様なまでの音域の広さに愕然としたものだが。

 カリンは、その音域を、見事に発声していた。


 聖女の聖歌は、技巧面でも、難易度が高い。

 駈け上るように低音から高音へと上っていく、この音を出すのは、鳴鳥でも至難の業だろう。

 声を揺さぶるように制御しながら、凄まじい高さのソプラノを発声し、しかも、発音の難しい古代の詩を歌う。


 数分の歌の間に、超高難易度の山場がいくつもある。


 聖歌は、完璧に歌い上げるほどに、人知を越えた美しさが現れ出でる。


 いつしか、鳥さえも鳴き止み、真の静寂が中庭を支配し、その静寂の中を人間離れした歌声が流れていく。


 超高音の声の響きが空に吸い込まれていく。


 カリンは、歌い終えた。


 唖然とした様子のシオン殿下と従者たち。


 そのとき、奇跡が起きた。


 中庭の緑に、つぼみが膨らみ、一斉に咲き誇り出したのだ。

 季節外れのバラの園が出現した。


「こ・・これは・・」


 ふくいくたる花の香りに辺りは包まれた。

 茫然自失状態のシオン殿下に、私は、どう話しかけようかと思い悩んだ。


 シオン殿下は、しばらくのち、口を開いた。

「ソラ・・先ほど、キースレアに、カリンを連れていく、と言ったな?」

「そうです」

「おまえは、海外に活動拠点を移していたな・・。

 まさか、亡命する気か?」

「それはありません。

 ですが、キリアン殿下にはお世話になりましたので・・」

「ソラ」

 シオン殿下の声が、じゃっかん、憮然としている。

「恩を返したいのですが、カリンが目を付けられるのは困りますので」

「もちろんだ」

「私たちがキースレア帝国に参るときに、どなたか、外交官の方についてもらいたいと思ってるんです」

「了解した」

 とシオン殿下はしばし考え、

「私が付いていこう」

 と応えられた。


お読みいただきありがとうございました。

また明日午後6時に投稿いたします。

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