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21)キースレア帝国の皇太子妃

今日も2話、投稿いたします。(^^)/


 キースレアのメイベル皇太子妃が、カリンに会いたい、と希望されているという。王宮経由で、カリンの父上に申し入れがあった。


 私は、カリンから話しを聞き、同行を申し出た。


 半月ほど後。


 カリンと一緒に、キースレア帝国に渡った。

 キリアン殿下からの情報で、メイベル皇太子妃は、カリンが前世の記憶を持っていることを知り、会いたいと思ったらしい。


 メイベル皇太子妃との非公式で私的な訪問という形となった。

 小さな茶会は、メイベル妃の庭園で行われた。

 皇太子妃の王宮の庭園は、さすが大国の皇太子の寵愛を受けている妃の庭だった。

 季節の花が咲き誇った庭は素晴らしく、かぐわしかった。


 メイベル妃は、すらりとした華奢な身体に、子猫のような好奇心あふれる目をしている。可愛らしい女性だった。

 カリンよりも5つ年上だという。


 形ばかりの挨拶を終え、茶会のテーブルに着くと、メイベル妃は、さっそく、

「同じ異世界の前世の記憶を持った女の子と、ぜひ、お話してみたかったの」

 と言う。


「でも、私、前世の記憶って、ホントに、ほんの少ししかないんです。

 それも、ぼんやりした思い出だけです。

 なにも、有益なことは、覚えていなくて」

 カリンは、申し訳なさそうに答えた。


「ウフフ。

 かまわないわ。

 あなたの歌は素晴らしいんですって?

 前世の歌も歌える?」

「ええ、歌は、少し、覚えていましたので。

 前世の歌でソラと譜面起こししたものもあります」

「良かったら、歌ってもらえるかしら?」

「はい・・。あ、でも、歌詞を覚えていないので、自分で歌詞を付けたりしていますの。

 ですから、メロディだけなんです」

「それでもかまわないわ」


 カリンは、あの、聖母への祈祷の歌を歌った。


『過ぎし日の恋よ・・。

 あふるるこの想い。

 夢、語るときは、いつも。

 あなたのことが浮かぶ』


 カリンが歌い終えると、メイベル妃は、嬉しそうに手を叩いた。


「びっくりしたわ・・。

 知ってる歌だわ。

 ええ、聞いたことがある。

 有名な歌だもの。

 でも、あの美しい祈祷の歌をこんなに見事に歌えるなんて・・。

 本当に素晴らしいわ。

 懐かしい。

 それに、とても綺麗な声」


「ありがとうございます」


「ねぇ、カリン。

 もしかして、あなたの、異世界転生者としての特異能力は、その歌なんじゃないかしら・・」

 とメイベル妃。


 私は、焦った・・。

 なんて鋭い妃だ。

 カリンの特殊性に、彼女は、気付いてしまったのか。


「いいえ、私に、特別な能力なんて、ありません。

 歌は、好きですので、毎日、欠かさず練習をしていますけれど。

 それだけですわ」

 カリンは謙虚に答えた。


「でも、カリンは、異世界からの前世記憶持ちでしょう?」


「ほんの少し、前世の記憶があるだけですわ。

 特殊な能力があったら、楽しいでしょうね。

 でも、なにもないと思いますわ。

 前世の記憶を持っているひとは、ときどきおられますけど。

 私もそれだけですわ。

 あ・・そういえば、鑑定のスキルを持っていますけど。

 それのことかしら・・」

 カリンが首をかしげる。


「あのね、カリン。

 前世の記憶を持っている・・というだけじゃないのよ。

 異世界の記憶を持っている。

 つまり、異世界から来たということが、ポイントなの。

 私、この世界に転生者としてくるときに、神様と逢ってるのよ。

 それは、特別な場だったわ。

 だから、ぼんやりとしか思い出せないけれど。

 そのときの神様とのやり取りから判ったの。

 異世界から、この世界に転生する者がときどき居るのは、この世界を、停滞させないためらしいわ。

 この世界の者だけだと、誰もが、あまりにもこの馴染んだ世界の中で縮こまり、枠を飛びだそうとしない。

 それは仕方のないことなのよ。

 この世界の魂は、この世界しか知らないから。

 だから、世界が、停滞してしまう。

 それで、ときどき、異世界の魂を喚ぶの。

 異世界からの転生者に特別な力が与えられるのは、一つ目の理由は、神様が、停滞を破る力を与えたいから。

 もう一つの理由は、せっかく、異世界から喚んだのだから、少しでも長く生きて欲しい、という神様の願い。


 だからね、カリン。

 たぶん、あなたは、鑑定のスキルだけじゃなくて、もうひとつ、なにかを持っていると思うわよ」

「もうひとつ・・ですか?

 でも、判らないです。

 私は、本当に、平凡な人間なんです」


「そうかしら・・。

 私、カリンが、前世の記憶を持っていると知ったとき、アノス王国の運命を変えたのは、カリンかしら、って思ってたのよ」


「アノス王国の運命って、変わってるんですか?」

 とカリンは皇太子妃に尋ねた。


「ええ。色々と、変わっているわよ。

 身近なところでは・・ソラくんの経歴ね」

「私の経歴ですか?」

「ええ。

 ソラは、ユイナ妃音楽コンクールで特別優秀賞、ソウタ・トラウ音楽コンクールで金賞でしょう。

 『聖女ラブソング』・・つまり、『予言の書』では、ソラが受賞したのは、両方とも、奨励賞なの。

 ユイナ妃音楽コンクールでは、演奏の音楽的表現は、非常に高い評価を得たのだけれど、小さなミスをひとつしてしまったため、奨励賞だったのね。

 それで、落ち込んでしまったソラを、たまたま、コンクール会場に居た聖女に励まされて。

 その後、ソラは、ソウタ・トラウ音楽コンクールに出場して、奨励賞を得るの。

 それから、その縁で、聖女の聖歌の伴奏をソラが受け持つことになって・・という話しだったわね」


「・・だいぶ違うようですが。

 違って良かったです・・」


「ウフフ。そうね。

 キリアンは、ユイナ妃音楽コンクールのソラの演奏を聞いて、感銘を受けてたわ。

 これも、予言の書とは違う点ね。

 それから、『聖ラブ』・・つまり『予言の書』では、カリンちゃんは、出てこないのよね」

「出てこないというのは? どういう・・」

「たぶん、一連の大きな流れに影響を与えるような存在ではなかった、ということね。

 だからこそ、私は、カリンが前世の記憶持ちで、運命を変えた存在だと疑ったのよ」

「そうですか・・」


 カリンは、幼いころ、父上のシン侯爵に懸想した家庭教師の手で、酷い目に遭っている。

 もしかしたら、カリンは、運命の通りだったら、そのときに・・。

 ・・いや、そんなことは考えたくない。

 彼女の居ない運命など、私にとっては、あり得ない。


「それから、国レベルの大きな相違では、アノス王国の王妃がご存命だということね。

 予言の書では、10年も前に、王妃は、ご病気で亡くなられていたの」

「まぁ、そうなんですか。

 ・・私は、王妃様にはお目にかかったこともございませんわ。

 新年の式典のおりに、遠くからお姿を拝見したくらいです」


「そう?

 でも、あの聖女レミが、王妃を助けたはずはないのよね・・。

 なぜなら、王妃が亡くなっていないと、シオン殿下を攻略できないんですもの。

 シオン殿下は、王妃を幼いころに亡くしたことで、癒やしの魔法を使える聖女を大切にしなければいけない、という想いを強くし、聖女に惹かれていくのよ。

 そうでなければ、元々は、淑やかな貴婦人が好みのシオン殿下に、聖女はムリだもの。

 シオン殿下が聖女について居なければ、聖女がキースレア帝国の荒れ地を回ったときに、民とのいざこざが起きたさいに治められなくて、聖女は、途中でアノス王国に逃げ帰ることになるのよ。

 他国の王子であるシオン殿下が、荒ぶるキースレアの民をなだめることで、トラブルが回避できるの。

 キースレア帝国としては、少しでもいざこざが起こったら、聖女をアノス王国にお返しするつもりでいるんですもの。シオン殿下の協力は必須なのよ。

 そうやって、キースレアの荒れ地巡りを無事に終えたあと、聖女は、ようやく、キリアンを手に入れられる、というわけ」

「はぁ・・そんな凄い展開があったんですね・・予言の書には・・」

 カリンが吐息混じりに言う。


「凄いでしょ」

 メイベル妃は、ホホホと笑う。


 王妃の運命を変えたひとを、私は知っていた。


 王妃を助けたのは、カリンの父上だ。

 だが、表向き、そのことは秘匿されている。

 事件を隠蔽するためだ。

 もしも、王妃が亡くなっていたら、病死として発表されていたかもしれない。


「異世界の前世記憶持ちには、運命を変える力があるわけですか・・」

 私は独り言のようにつぶやいた。


「そうね。

 でも、運命を変える力を持っているのは、異世界の前世記憶持ちだけじゃないと、私は、思ってるの。

 大きく変える力はないかもしれないけれど。

 でも、愛の力は偉大だと言うもの。

 誰でも、なにかしらの力を持っている。

 ただ、異世界の前世記憶持ちは、その力が、かなりはっきりしているし、意識的に運命の流れを変えることも出来る。

 たとえばね、私なんだけど・・。

 この話しは、秘密なの。

 だから、ふたりとも、秘密にしてくれる?」


 メイベル妃は、私とカリンの目を見つめて言った。

 私とカリンは、

「わかりました」

 とうなずいた。

 メイベル妃は、「じゃぁ、教えてあげる」

 と頬笑んだ。


「私が、神様から、どこに転生されるのか、知らされたとき。

 絶望したわ。

 私は、滅ぼされる小国の王女となる運命だった。

 私、知っていたのよ。

 私が転生した故郷の、小さな国の運命を。

 この世界は、私が知っている『聖女のラブソング』の世界だったから。

 私は、『聖女のラブソング』で、この世界の未来の可能性を知っていた。

 私の国は、キースレア帝国に侵略され、数十万の民が死ぬ。

 小さな国の数十万の民というのは、10人にひとりが死ぬということ。

 私は、神様が力をくれる、と言ったとき、私の国の民を助けられる力をください、と頼んだの。

 そうしたら、神様は、具体的には、どんな力が欲しいのか?

 と尋ねられた。

 私は、悩んだわ。

 だって、私ひとりが、強大な攻撃力を得たとしても、大国キースレアの軍事力に立ち向かえる気がしなかったのよ。

 それで、『小さな国を助けてもらえるよう、説得する力が欲しい』と頼んだのよ。

 そうしたら、神様が、『話術』をくれたの。

 それは、私が、本当に強く願ったときだけ、私の願いを、誰かに伝え、説得できる能力だったわ。

 私は、私の国に侵略してきたキースレア帝国の軍人たちに、まず、頼んだの。

 私の国は、小国だわ。

 抵抗なんて、出来ない。

 でも、殺さないで欲しい。

 民を殺す必要はないわ。

 私が人質になり、代わりに、私の国は、帝国の言うことをなんでも聞く。

 そう、頼んだ。

 そうしたら、軍人たちは、私の願いを、帝国に伝えてくれた。

 帝国は、私を人質にすることで、無傷で国を手に入れた。

 民は、殺されないで済んだのよ。

 それから、私は、皇太子にお会いし、頼んだの。

 平和的に、私の国を治めてほしいと。

 私の国の民は、働き者で、無駄な抵抗はしない。

 だから、民を、乱暴に扱わないで欲しい、と。

 皇太子は、私を気に入って、妃にしてくれたわ。

 皇太子は、私の話術の力を認めて、帝国のために使えると思ったのよ。

 私は、その代わり、帝国のために働くことにしたの。

 この大きな国が、平和になれば、この世界は、安泰だもの」


 メイベル皇太子妃は、そう言って、笑った。

 素敵な妃だった。

 キリアン殿下が惚れてしまうはずだ。


「荒れ地を耕作地にする活動は、進んでいますか」

 と私は尋ねた。


「ええ。とても順調なの。

 カリンとソラが、鑑定士を土地の改良に使うアイデアを教えてくれたから、鑑定士も、こき使ってるわ。

 農家の方と、鑑定士と二人三脚でね。

 すごく効率がいいのよ。

 鑑定士が、土の状態を鑑定するでしょ。それを元に、農夫が、必要な堆肥をばらまくわけ。

 あるいは、砂を混ぜたりもするみたい。

 どんどん、改良されていってるのよ」

 とメイベル妃は笑う。


「良かったですね」

 とカリン。

「そうね。

 でも、キースレア帝国内にある、繰り返し、攻撃魔法の実験を行った荒れ地は、手強いのよ。

 もう、土が死滅してる感じね。

 土の生命力というのかしら・・。土の滋養とか、土の軟らかさとか・・なにもかも消えてしまってて。

 他の普通の荒れ地は、もう、耕作地として生まれ変わってるのにね」

 メイベル妃は、物憂げに言った。


 カリンは、唇を結び、うつむいた。


 私とカリンは、予め、話し合っていた。


 カリンは、荒れ地を復活させられる。癒やしと恵みの聖歌は、貧しい土地を、肥えた畑地に変える効果を持つ。

 だが、我が国とキースレア帝国は、微妙な関係なのだ。


 もしも、キースレア帝国が、攻撃魔法実験を繰り返し行った荒れ地を、復活させる方法を手に入れたら。

 帝国の軍部は、攻撃魔法実験を、無制限に行えるようになる。


 私は、最近、魔導の研究所に勤めるカリンの一番上の兄上に聞いて知ったことがある。

 大規模な攻撃魔法は、簡単なものではない、と。


 大規模攻撃魔法が使える大魔導師など、数百年にひとり現れるか否か。そのくらい貴重な大魔導師になると、いくら帝国でも、言いなりには出来ない。

 過去、大魔導師たちは、戦争をやりたがるキースレア帝国を厭い、逃げ出した者が多いと言う。

 キースレア帝国では、大魔導師の代わりに、普通の魔導師たちを集めて、攻撃魔法を使わせた。

 魔導師たちが集まって、魔力をそろえ、魔導具も用い、ひとつの大規模攻撃魔法を顕現させる。


 そのためには、繰り返し繰り返し、訓練を行う必要があるという。


 キースレア帝国の荒れ地の正体は、そういうことなのだ。

 「実験」などという生やさしいものではなかった。

 相当の回数、何年にもわたって、土地に攻撃魔法を繰り返してきた。

 自業自得の結果が、死滅した荒れ地だ。


 我が国としては、荒れ地復活の手段は渡せない。

 だが、私とカリンは、キリアン皇子に助けられた。

 カリンが、ジュンヤの襲撃から逃れられたのは、キリアン皇子が、シオン殿下に、「友人が殺害予告を受けた」と知らせてくれたからだ。


 凄腕の傭兵まで、襲撃犯に加えられていたのだ。

 シオン殿下がカリンの護衛に騎士団を出してくれなかったら、と思うとぞっとする。


 私たちは、皇太子妃に、またの訪問を約束して、キースレア帝国を後にした。


また本日、午後8時に2話目を投稿いたします。

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