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19)シオン殿下の計略

今日も2話、投稿いたします。


 大使館の使者が私に告げたのは、「シオン殿下より、至急、内密のお呼び出しです」というものだった。

 わざわざ、ギルモア王国にある大使館に設置された魔導具を使い、私に話しがあるという。


 ギルモア王国とアノス王国は、親密な関係を、長きにわたって保っている。

 王族同士が、何度か、婚姻を結び、親交を結んできた。

 国境を接しながらも、アノス王国とギルモア王国は、戦争をしたことがない。

 キースレア帝国という物騒な国が隣にあるから争っていられない、という大きな理由もあるが、そもそも、国民同士、商人同士、または、それぞれの貴族同士、昔から親交があるのだから、争う理由がない。


 ギルモア王国のアノス大使館には、喫緊の事態に応じて、秘密裏に王宮と連絡を取り合うことのできる魔導具と、機密性の高い部屋が用意してあった。

 魔導具は、顔と同じほどの大きさの水晶のようだった。部屋の中央に、デンと置いてある。


 私は、その仰々しい部屋で、シオン殿下からの話しを聞くことになった。


「やぁ。久しぶりだね」

 とシオン殿下の姿が水晶に現れた。


「久しぶりです、殿下。

 今日は、私だけにお話ということでしたが・・」

 私が疑問に思って居たのは、大使から、「シオン殿下が、カリン嬢には秘密に話したい」と告げられたことだった。


「カリン嬢には、カイトとハノウ侯爵から、うまく話してもらうことにしたんだ。

 ハノウ侯爵からも、その方が良いと言われてね。

 王宮からの申し出などと言うと、カリン嬢が不安になるから、とね」

「そうですか・・」


 殿下が言うには、王宮で、ジュンヤを迎え撃つ準備をしているという。

 なぜ、王宮が?

 シオン殿下の説明によると、キリアン殿下が関わっていることが判った。

 キリアン殿下は、ジュンヤの殺害予告を、シオン殿下に知らせたらしい。

 そこで、シオン殿下は、すぐさま動いた。

 王宮が手配した影は、ずっと、ジュンヤを監視していた。シオン殿下やコウキ、それにアヤトたちも、学園でジュンヤたちがそばに居るときには、注視していた。


 数年前から、ジュンヤは、聖女の魅了魔法を悪用した共犯として、王宮から目を付けられていたという。


 聖女レミは、もともとは、単純で、あけすけで、あまり、複雑な悪意をもたない人柄だった。

 ところが、ジュンヤと付き合うようになってから、野望を持ち、高位貴族を操る欲望に惹かれ、おかしくなっていった可能性がある。


 聖女レミは、王位継承権を持つ王子に魅了魔法をかけようとしたことが記録されている。シオン殿下が装備していた魔法防御の魔導具に感知された痕が残されており、蟄居が確定している。

 宰相の息子、アヤトに魅了魔法をかけたことは知っていたが、シオン殿下にもかけようとしたらしい。

 彼女ならやりかねない。

 だから、キリアン皇子が心配だったのだ。

 その聖女に悪影響を与えたジュンヤを、野放しにしておくわけにはいかない。

 しかし、そのための証拠が足りない。


 私は、カリンを囮に使うというシオン殿下の言葉に、腹が立った。


 なんら罪の無い令嬢を、囮に使うんですか! と声を荒げると、


「そう言うと思ったよ。

 ソラ、君の気持ちはわかるよ。

 私が君の立場だったら、頭に来るだろうし、許さないよ。

 でも、冷静に考えてみてくれ。

 ジュンヤは、このままだと、捕まえられない。

 ジュンヤが、裏に潜んでカリンを狙い続けるのを、君とハノウ家だけで、防げるのかな?

 王宮が、騎士団や影の力を使って、彼女を護っているうちにジュンヤを捕まえられたら、未来の危険を取り除くことができるんだよ」


 シオン殿下の言う通りだった。

 それでも、私がなおも迷っていると、

「ソラ、カリンは、ぜったいに護るよ。

 なにしろ、カリンの父上シン・ハノウ侯爵は、私の母上の命の恩人だからね」

 とシオン殿下が言う。


「そうなんですか?」


「ああ。

 事件を公表していないので、知られていないが。

 私の母上は、蓄積するタイプの毒を盛られ続け、死にかけたことがある。

 そのときに、上級治癒魔法を使えるハノウ侯爵が、弱った母上の心臓を治癒し続けてくれた。

 治癒魔法は、毒には効きにくいのだが、ハノウ侯爵が、母上の命を繋ぎ止めてくれている間に、宮廷薬師が母上の解毒をし、完治させることが出来た。

 コウキもハノウ侯爵には感謝しているんだ。

 コウキは、騎士団長の息子だろう。

 当時、母上の警備責任者は、騎士団長の弟、つまり、コウキの叔父が担っていた。

 母上の毒殺未遂事件は・・まぁ、あまり詳しくは言えないが、防ぎきれなかったのも無理ない部分があってね。

 それでも、母上が亡くなっていたら責任問題にはなっただろう。

 そんなわけで、コウキも護衛に加わると言っている。

 必ず守るよ」


 そうだったのか・・カリンの父上が上級の治癒魔法の使い手であることは、カリンやカイトからも聞いて知っていた。

 ハノウ家の極秘情報だ。

 私は、カイトとカリンから信頼を得て、教えてもらった。

 カリンの美しい母上は、シン侯爵と大恋愛のすえに結ばれたが、シオリ夫人は、身体の弱い方だったという。シン侯爵は、幾度も愛妻を治癒魔法で救ったが、カリンが3歳のとき、シン侯爵の治癒も叶わず、亡くなられたという。

 ・・そういえば、カリンも、幼いころ家庭教師に虐待され、身体が弱ったときに、父上に治してもらった、と言っていたっけ。


「・・判りました」


 私が、幻惑の魔導具で姿を変えてカリンのそばに居る、と殿下に伝えると・・。


「ああ、それは、辞めといてくれ。

 連中を、少しでも油断させたいんだ。

 ジュンヤは、なかなか、侮れない奴だ。

 君たちは、ジュンヤの脅しなど、本気にしていないフリをしてくれた方がいい。

 それに、ジュンヤは、おそらく、カリン嬢が、君に会いに行くときを狙うだろう。

 愛しい君に、憎い女が会いに行くのを阻止するために。

 タイミングを計るのにちょうど良い。

 アノス王国から、ギルモア王国への道は、危ないところは、一カ所しかないからね。

 準備万端、整えられる」


 私の願いは、シオン殿下に却下された。


 私は、ギルモア王国に、足止めされることになった。


また本日、午後8時に、2話目を投稿いたします。

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