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18/25

18)殺害予告

今日、2話目の投稿です。

1話目は、午後6時に投稿済みです。


 それから、私たちが、逃げ出す算段をし始めたところ、トントンと、ドアがノックされた。


 私たち4人は、ぎょっとしてドアに視線を移した。


「だれだろう・・」

 ネストルがつぶやく。


 カチャカチャとドアノブを回す音。


 カリンがドアを鑑定したところ、ドアノブに触れているのは、ジュンヤだという。


「・・聖女の腰巾着のアレか・・」

 とキリアン皇子。


 あぁ・・なんであいつらは・・。

 なぜ皇子が、こんなにも避けているのか、聖女らには判らないんだろうか。


 万が一・・万が一、聖女が、キリアン皇子に魅了の魔法を使おうとしたら、アノス王国とキースレア帝国は、戦争に突入しかねない。

 たとえ、皇子が、魅了防御の装備をしてあり、影が護っていたとしても、「他国の聖女に攻撃を仕掛けられた」という事実は残るのだ。


 私は、聖女が、宰相の令息のアヤトに、魅了の魔法を使ったことを知っている。

 アヤトは公爵子息で、友人だ。

 様子が変わってしまったので、すぐに判った。

 シオン殿下も気付いていた。

 私は、アヤトの従者に事態を伝えたが、シオン殿下も動いたのだろう。

 アヤトは、明くる日には、魅了を解かれていた。


 要人の子息や高位貴族、王族、皇族に魅了の魔法を使えば、宰相や、陛下を暗殺することも可能だ。


 悪意がなくとも、王位継承権を持つ王族に精神操作系魔法を使えば国家反逆罪だ。


 もしも、あの、愚かな聖女が、キリアン殿下に、なにかしでかしたら・・と考えただけで、冷や汗が出る。

 ジュンヤは、聖女を止めるどころか、手伝いをしている有様だ。


「カリン・・、キリアン皇子とネストル殿に、幻惑の魔導具をお渡ししよう。

 おふたりには、逃げてもらわないと・・」

 と私が言うと、

「はい」

 カリンがうなずいた。

 私たちは、皇子たちに魔導具を渡した。


「大丈夫かい? いざとなったら、影を使えば良いのだよ」

 皇子が気遣わしげな顔をする。

「影?」

 とカリン。

「殿下には、絶えず、影がついています、つまり、表に出ない護衛です。

 余所で待機している影を呼ぶ魔導具も装備していますし・・今は、近い者は廊下に居ます。

 でも、影を使うと、報告が陛下に行きます。

 留学中に問題を起こしたくないので、できれば・・」

 とネストル。


 それは、双方の国にとって、好ましくないことになるだろう。


「私たちは、大丈夫です」

 と皇子に応え、幻惑をまとっていただくよう、カリンと促した。


 皇子とネストルは、魔導具を発動させた。


 一瞬、ほわりと陽炎のような魔導具の魔力が皇子たちを包み、ふたりの姿が微妙に変化した。皇子とネストルの容姿の特徴が変わり、自然な形で、別人となった。


「では、ドアを開けます」

 私は、鍵をはずし、ドアノブを回した。


 開きかけたドアの隙間から、

「ドアが開いたぞ」と、ジュンヤの声。

「あら」

 とレミ嬢の声。

「ジュンヤたち、なにか用か」

 私は、ふたりに平静を装い尋ねた。


「ハハ、とうとう捕まえた」

 と、ジュンヤ。

「もうー、ソラったら、酷いわ。

 私から逃げ回って!」

 とレミ嬢。


 ふたりの声を聞くと、イライラしてくる。

 早いところ、皇子たちに逃げてもらおう。


 すると、室内の様子をのぞき見たジュンヤたちの表情が強ばった。


「おまえ、また、ソラに付きまとっていたのか」

 ジュンヤがカリンを睨んだ。まるで鬼の形相だ。


 キリアン殿下とネストルさえも、眉をしかめた。


 以前から好かないヤツではあったが、ここまで危険な敵であることを、私は知らなかった。


 だが、今は、キリアン殿下たちに逃げてもらうのが先だ。


 しつこくアノス王国に帰ろうと言いつのるジュンヤと聖女と、腹立たしい会話を交わしながら、私は、キリアン殿下とネストルに逃げてもらえるようにした。


 皇子たちの安全を確保しながら部屋を出られるよう、ジュンヤたちとの間に立ち、無事、皇子とネストルは脱出できた。


 私は聖女に、カリンはジュンヤに捕まってしまったが、皇子たちのため、ジュンヤたちは足止めしなければならないので、丁度良い。


 そのあとは私たちが、こいつらから離脱すればいい。

 幻惑の魔導具が無いので、穏便に逃げることは難しいだろうが、カリンは、コンクールの歌を歌い終えてるし、私が守れるから、なんとかなるだろう。


「ソラ様ぁ、ご一緒に帰りましょう、ね」

 レミ聖女が腕にしがみついてくる。


 以前よりもさらに気色が悪く感じる。


「何度も言いましたように、私は帰らないです。聖女殿。

 ギルモアでリサイタルをするチャンスがあるのに、捨てるわけにはいきませんから」

「ソラ様は、キースレアでリサイタルが出来ますのよぉ」

 とレミ嬢。


 リサイタル? キリアン殿下を虜にするという、あの預言書にあった演奏会だろうか。

 そんなものは、未来永劫、行われることはないだろう。

 聖女は、キリアン皇子に、よほど夢中なんだろう。

 ムリに決まってる。

 レミ嬢は、人柄が酷すぎる。


 ジュンヤが、カリンの腕を掴んだ。

「カリン。

 もう、ソラには近づくなよ・・、というより、近づけさせない。

 公爵が、おまえを排除するために、動いているからな」


 愚かな私の父親は、聖女の魅了にやられているのかもしれない。

 現公爵だというのに。

 ジュンヤがその手引きをしたのだろう。


「そうですか・・」

 カリンがつぶやくように答えた。


 我が父は、ジュンヤと聖女に頼まれれば、なにをしでかすか判らない。

 だが、私が母に知らせれば、阻止のために動いてくれるだろう・・叔母にも助けを求めておいた方がいいな。

 それから、兄上にも協力を頼もう。

 カリンが、うつむいてため息をついている。

 くそっ。ジュンヤめ。


 ジュンヤは、

「表を歩けなくしてやる」

 とカリンを脅した。


「ジュンヤ、カリンとカリンの家になにかあったら、おまえを一生、許さない。

 父上もだ」

 私は湧いてくる殺意を抑えるのに必死だった。


「ソラ、判って言ってるのか?

 公爵は、おまえの実の父親なんだぞ。

 おまえは、なんの力もない、ただの息子だ。

 爵位もない、父親の指先ひとつで、いつでも平民に落とされる。

 逆らえるわけないだろう。

 コンクールのひとつやふたつで賞をもらったくらいでいい気になるなよ。

 おまえには、なにも決める権利はないんだ。

 将来を決める権利もないし、付き合う相手を選ぶ権利もない」


 ああ、ジュンヤにとっては、それが、もっとも大事なのだろう。

 爵位を失わず、貴族で居続けることが。

 彼は、祖父のユキノ伯爵の顔色をうかがいながら、のらりくらりと、生きてきた。

 ユキノ伯爵は、自慢の孫に甘い。

 それでも、もしも、彼が、「彼女」だと判ったら、ジュンヤはおしまいだ。

 彼には、自由がない。

 その代わり、彼は、彼の祖父や、私の父を手玉に取り、寵愛を受けてきた――私とは違って。

 褒めそやされ、自慢の孫だ、自慢の甥だと、言われ、有頂天になって生きてきた。

 彼は、それを、失いたくないのだろう。

 だが、私は違う。

 アノス王国には、失って惜しいものなど無いのだ。


 私は、自分の力で、ここギルモア王国で、リサイタルの権利を勝ち取った。

 愛する少女は、私の結婚の申し込みにうなずいてくれた。

 私が、自分で手に入れたものだ。


「まぁ、ジュンヤったら、言い過ぎよ。

 ちゃんと、ソラ様に選ばせてあげましょうよ。

 私を選ぶか、ジュンヤを選ぶか・・。

 ね、ソラ様っ!」

 レミ嬢が、私の腕にしがみついたまま言う。

 なぜカリンを選択肢に入れないんだよ・・。


「レミ、約束を忘れたのかっ」

 とジュンヤ。

 なにが約束だ。

 聖女とジュンヤの汚らしい約束など、私には関係ない。


 レミ嬢は、「あらぁ、だってぇ」と、無邪気に笑った。「約束では、すべての計画が上手くいったら、でしょ?

 今、計画の途中だもの」

「だからなんだ!」

 とジュンヤ。


 ふたりが仲間割れしているうちに、逃げよう。

 カリンの腕を取って、立ち去ろうとすると、

「どこに逃げようとしている!」

 ジュンヤが手を伸ばしてきた。


 私は、ジュンヤを払いのけた。

 ジュンヤは、私を見つめた。

 私は、ジュンヤのこんな気弱な顔を、始めて見た。

「まさか、そんな女を選んだわけじゃないだろう?

 その女は、おまえにも、公爵家にも、ふさわしくない。

 なんら能力ももたず、役立たずだ。

 たいして美しくもない。

 選ぶ理由がない」


 相変わらず、酷い言い草だ。


「カリンは、私の婚約者だ。

 ふたりで決めたんだ。

 カリンは、誰よりも綺麗だし、愛らしい。

 美は見る人の目にあり、というのは本当だな。

 私の目は、おまえの目とは違う」


「はぁ~~、なにそれ~。

 どうしちゃったの? ソラ様。

 もしかして、私に焼き餅をやかせたいの~?」

 と聖女。


 ・・もう、黙っててほしい。

 私は、これから先の人生、聖女という言葉を聞くたびに、このレミ嬢の不愉快で脳天気な言動を思い浮かべてしまうだろう。


「レミ・・。

 ソラは、とっくに、魅了の魔法から抜け出ていたんだよ・・」

 とジュンヤ。

「え~・・じゃぁ、ソラ様は、本気で私のことを好きなの?

 魅了ナシで?」


 ・・なんで、そうなるんだよ・・。


「私が愛しているのは、今も昔も、カリンだけだ・・」


「フフ。

 判った。

 その女は、死刑が確定だ」

 とジュンヤ。


「バカなことを・・」

 私は、カリンの肩を抱く手に力を込めた。


「ソラ。

 そのうち判る。

 ただの死に方だと思うなよ、あばずれ。

 必ず、惨たらしい死に方で、殺してやる。

 ソラが、死体を見るのもはばかるような殺し方をしてやる」


「もぉ~。

 ジュンヤったら、そういうのは、私とふたりきりのときだけにしないと、マズイって言ったでしょ?」

 と聖女。


 ふたりきりのときは、こいつら、そういう話しをしていたのか・・?


 だとしたら、レミ嬢は、聖女の資格は、もう、持っていない。

 聖女とは、誰かを傷つける者ではない。

 アノス国教本部が、このことを知ったら、レミ嬢を聖女と認めたことを撤回するだろう。

 表向きは、それは、隠蔽されるはずだ。

 アノスの国教という、国民にとって心のよりどころである存在が、重大な過ちを犯したことが知れたら混乱を招く。

 ただ、静かに、聖女に引退していただくことになるだろう。


 聖女とジュンヤは、終わりだ・・ただ、このことを知っているのが私とカリンだけとなると・・認めてもらうのは難しいだろうな。残念だ。


 気がつくと、カリンが呆然として震えていた。


◇◇◇


 ジュンヤが、カリンを殺す、と言った。


 彼は、本気だろう。

 冗談ではないことは確かだ。

 今までの彼の言動からしても。


 カリンは、ギルモア王国エレイン王妃音楽コンクールで優勝した。

 ギルモア王国で歴史と権威をもつ声楽コンクールだ。

 彼女には未来がある。

 多くのひとに愛される声楽家として、これから活躍していくだろう。

 ジュンヤの醜い憎悪の犠牲にしてはならない。


 カリンと一緒にアノス王国に帰ろう。

 ジュンヤに呪いの言葉を投げかけられてから、カリンは、しばらくの間、呆然状態だった。

 まるで、魂を抜かれてしまったかのようだった。

 苦しんでいる彼女を見るのがつらい。

 私は、カリンを諦めて、キリアン皇子に譲ったほうが良かったのだろうか・・やるせない迷いが浮かび、必死に打ち消した。


 しばらくして、彼女は、少しずつ、自分を取り戻していった。

 エレイン王妃声楽コンクールで優勝したカリンに、リサイタルや、管弦楽団との共演の話しが舞い込んでいる。

 けれど、彼女は、ジュンヤに脅されたことが気になるのか、答えを迷っている。


 わたしのせいだ。

 ジュンヤは狂人だ。

 放置して、彼を悪化させたのは、私だ。

 私は、ジュンヤを、この手で始末する覚悟を決めた。


 だが、カリンは、「ソラは、ギルモアで、リサイタルをしていてください。私の身は、私の家が護ってくれますから」と言う。

 カイトが、カリンを迎えに来ることになった。

 たしかに、カイトがそばに居れば大丈夫かもしれないが、カリンは、私の婚約者だ。

 私が護らなければならない。


 彼女と一緒にアノス王国へ発つ準備をしていると、大使館を通じて、シオン殿下からの呼び出しがあった。至急、内密に、と言う。

お読みいただきありがとうございました。

また明日、午後6時に投稿いたします。

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