17)キースレア帝国の前世の記憶持ち
今日も2話投稿いたします。
「前世の記憶持ち?
キースレアの皇太子妃のことですか」
「そう。
メイベル皇太子妃は、前世の記憶持ちなんだ。
カリンもそうらしいな」
とキリアン殿下。
「どうしてそれを・・」
「ふむ。
あの聖女が、あまりに私にまといつくので、影に探らせたところ、一時期、聖女たちの話題に君のことがよく出ていてね。
『使えない前世記憶持ち』とか、『低レベルの前世記憶持ち』とか。
どういう意味なんだね?」
「はぁ・・。
それは、私が、たいした記憶を持っていなかったからですわ。
レミさんが言うには、本来なら、前世記憶持ちは、予知の力や、なにかしらの優れた能力を持っているらしいです。
でも、なぜか私は、前世の記憶など、おぼろげしかありませんし。特殊な能力も持ってません。
予知の力など、欠片もないんです。
そのことを確かめたジュンヤさんとレミさんに、『使えない』とか、『低レベル』と言われたんですわ」
「ハハハ。
なるほどね」
大国の皇子に思い切り笑われた・・。
私とカリンが、あのときの不快な出来事を思い出して憮然としていると、キリアン殿下は笑うのを止めた。
「まぁ、いいじゃないか。
私は、カリンは、十分に、優れた能力を持っていると思ってるよ。
それで、メイベル妃なんだが、彼女は、前世の記憶を、かなりはっきり持っているらしい。
ただ、彼女が言うには、前世記憶持ちによる予知というのは、どうも、厳密には、一般的な予知能力とは違うらしい。
メイベル妃は、前世では、この世界ではなく、他の平行世界のひとつで生きていたそうだ。
平行世界というのは、この世界とは次元が違う世界で、次元が違うために、触れることの出来ない世界のことを言う。
行き来することは出来ないが、違う次元に存在している。
それで、意識することは出来ないが、互いに影響を与え合っている。
メイベル妃は、その異次元の世界で生きているときに、『聖女のラブソング』というものを目にした」
「そういえば、聖女も、『聖女のラブソング』という名前を言っていましたわ」
「あの聖女は、それを知っているんだね。
まぁ、言うなれば、それが、『予言の書』のようなものらしい。
前世で、その『予言の書』を目にしたものだけが、予知できるというわけだ。
ただし、それは、完璧な予言の書ではなく、可能性のひとつを記しただけのものらしい」
「ああ、だから、聖女の予知は完全じゃなかったんですね。
カリンの兄のカイトに関して、聖女の思惑通りに進んでいない、と彼女らは気にしていた」
と私は思い出した。
「そうだよ。メイベル妃も、あえて、予言の書に逆らって、キースレア帝国を立て直してくれている」
「予言の書に逆らっても、問題ないのですか?」
カリンが尋ねた。
私たちは、聖女の予言の通りにするつもりはない。
だが、そのことで悪影響がないか、カリンは気にしたのだろう。
「書に示されているのは、単なる可能性のひとつだからね。
それとも、予言の書の通りにしたいのかな?」
「いや、まさか!」
「違いますわ」
私とカリンは慌てて答え、その様子に、キリアン皇子が面白そうに笑った。
「予言の書の通りだと、キースレア帝国の荒れ地に、聖女が訪れる、という未来があった。
けれど、メイベル妃は、それを良しとしなかった。
その理由を、メイベル妃は、教えてくれた。
まず一つ目の理由。
聖女が訪れるまでに、年数がかかる。
それまでの間、荒れ地を手つかずのままに置いておきたくなかった。
もう一つの理由は、我が国の宗教があるのに、わざわざ、他国の聖女に、戦地で亡くなった者の供養を頼みたくなかった。
さらにもう一つは、金と安全性の問題だ。
メイベル妃によると、聖女が我が国に来る際は、聖女の他に付き人が4人おり、5人で来るという。
我が国と聖女の間を取り持つシオン王子。
聖女の護衛に、騎士団長の息子、コウキ。
それに、身体強化魔法の使い手、カイト。
聖女の聖歌をフォローするソラ。
彼ら他国の王族と高位貴族に聖女。
5人の安全を護るために、我が国の騎士団を付けなければならない。
しかも、聖女が巡る予定の地域は、どこも、治安が不安なところばかりだ。
聖女ら一行を傷つけて、アノス王国と一戦を交えたい連中も、我が国にはいる。
聖女を迎え入れるために、アノス王国にそれなりの補償もしなければならない。
それで、我が国の大きな問題が解決できるのなら、安いものかもしれないが。
だが、メイベル妃は、聖女らが来たあとの我が国のビジョンに、希望が見えなかった、と言う。
戦争をして、国が荒れて、その再興を他国に頼ったとしたら・・、その事実は、我が国の誇りを傷つける。
もしも戦争で亡くなった民の供養を、他国に頼ったとしたら・・、それは、我が国の宗教を貶める。
その過程で、多くの費用と補償の金がかかる。
それなら、その予算を使って、自分たちの手で荒れ地を耕し、自国の聖人たちが荒れ地を巡る活動ができるよう寄付をし、供養してもらおう・・そう、メイベル妃は考えた」
それは、予言の書にあったキースレア帝国の未来の可能性と展望。
国にとっては、大事な秘密なのだろうに。
ただ、その未来は、もう、『潰れてなくなった未来』のようだ。
キースレア帝国は、その未来を選ばなかった、ということだろう。
キースレア帝国は、他国の聖女には頼らずに、自分たちの手で、国の未来を築くことを選んだのだ。
「素晴らしい妃ですね」
聡明な皇太子妃が居てくれて良かった。
「そうだ・・。本当に。
素晴らしい妃だ。
得がたい方だった。
私たちは、そのことに、最初は、気付かなかった。
メイベル妃は、我が国に侵略された、小国の王女だった。
自分の国を殲滅させないために、皇太子に嫁いだ。
当時、キースレア帝国も、疲弊しきっていたのでね。
王女をもらいうけ、国を無傷で手に入れられるなら、得策だろうと考えた。
メイベル妃は、妃としては目立つ容姿ではないが、魅力的な方だ。
兄は、最初、メイベル妃の他に、第二夫人や第三夫人、側室を娶る予定だった。
でも今では、すっかりメイベル妃に惚れ込んで、他の妃など誰も要らないと言う。
兄がメイベル妃を手放してくれたら、私がもらい受けるのだがね・・」
キリアン殿下の最後の一言は、つぶやくような声だったが、しっかり聞こえた。
そうか、キリアン殿下は、許されない恋をしていたのか。
それは良かった。
ぜひ、その恋を貫いてほしい。たとえ叶わなくとも。
「その予言の書では、私が聖女の聖歌をフォローすると書かれていたようですが、荒れ地で聖歌を歌うのに、ピアノは無いのでは?」
と私は殿下に尋ねた。
「ああ、それなんだがね。
なんでも、予言の書によると、聖女は、歌があまり上手ではなく、声も大きく出せない。
キースレアを巡る旅のさなかも、ピアノのある貴族家に泊めてもらいながら、ソラは、聖女の歌の訓練に付き合う。
そのうちに、ソラと聖女は、心を通わせるようになり・・。
あ、ちなみに、聖女とシオン殿下は、キースレアの民とのトラブルをふたりで解決していくうちに、愛し合うようになる。
カイトや、コウキも、護衛として聖女を護るうちに、聖女と愛し合うようになる。
で、ソラくんの続きだが。
ソラと聖女も愛し合う。
すると、愛し合うソラのピアノの音色に聖女が心を奪われながら歌うと、奇跡のように美しく歌える。
その奇跡の歌を聴いたキースレアの第二皇子、つまり私が、聖女に夢中になり、求婚。
ソラは泣く泣く、聖女を諦め、国に帰り、聖女は、私の妻となって、キースレアに残る」
・・なんだって・・?
あの魔獣の断末魔ビッチ聖女と・・?
私が? 愛し合う・・?
え・・?
キリアン皇子が、
「ソラとカリン、息をしてるかい?」
と私たちに声をかけた。
私は、ハっと我に返った。
「ソラたち、ふたりして、同じ顔してたよ」
と殿下。
「そ、そんな悪夢のような可能性があったんですか・・?」
と私は殿下に尋ねた。
ウソだと言ってほしい。
「ハハ。
面白い予言の書だろ。
そんなクソビッチ、お断りなんだがな」
とキリアン皇子。
「予言が外れて良かったです。
命拾いしました。
その予言の書がここにあったら、お祓いをして浄めてから、火山の火口に放り込んでやります」
ふしだらな預言書め。
なんつう、予言をするんだ。
「ああ、そのときには、私も協力するよ」
皇子は頬笑み、「ソラには、感謝してるんだ」と言う。
「感謝? なぜ?」
キリアン殿下は、わずかに苦い顔をしながら説明した。
「私が、アノス王国に留学するきっかけになったのは、ソラの演奏なんだ。
私は、始めのうち、メイベル妃の『予言の書』の話については、半信半疑だった。
それで、聖女が奇跡の歌を歌うきっかけになるという、ソラの演奏を聴いてみようと思いついた。
ギルモア王国の演奏会を鑑賞した帰りに、アノス王国に寄った。それで日程的に都合が良かったユイナ妃音楽コンクールで、ソラの演奏を聞かせてもらった。
カリンの演奏も良かったよ、可愛らしくてね」
「そ、そうですか」
とカリン。
「ソラの演奏には負けてたが」
「当然ですわ・・」
「ハハ。
ソラのピアノは、本当に素晴らしかった。
衝撃で、しばらく椅子から立ち上がれないほどだった。
側にいた見知らぬ観客が、『音楽界の若き天才は、竪琴はキリアン皇子だが、ピアノはソラ殿だな』と言っていた。
それがきっかけで、竪琴大国と言われるアノス王国に留学に来たんだ」
とキリアン殿下。
「光栄です。
キリアン皇子と並び称されるような音楽家になれるよう、精進します」
キリアン殿下には、カリンのことで辛い想いをさせられたが、彼の才能には、私は、いつも感服させられていた。
彼は、希なる天才だ。
そんな彼と比べられるのは、光栄としか言い様がない。
「私も負けないよ。
アノス王国に留学した私は、うるさく聖女殿に付きまとわれる、という栄誉にも恵まれてね。
私は、幼いころ、聖女という存在に、ずいぶん憧れていたんだが、すっかり目が覚めたんだ。
そうでなかったら、メイベル妃の『聖女は要らない』計画に、異を唱えていたかもしれない。
危なかったよ」
とキリアン皇子。
「それは、良い方に運命が変わって幸いです」
「まったくだ」
また本日、午後8時に、2話目を投稿いたします。




