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16)エレイン妃音楽コンクール

本日、2話目の投稿です。

1話目は、午後6時に投稿しました。


 カリンの出場する、エレイン王妃音楽コンクール、本選の日がやってきた。


 コンクールの課題曲は、神話に基づいて作られた歌だ。

 ギルモア王国は、信心深い国だ。

 建国神話にある聖者の物語は、子供たちが、両親から、必ず寝物語に聞かせられる話しだという。


『ギルモア王国の建国のころ。

 農業が盛んだったギルモアは、山岳地帯やキースレア帝国の方角よりやってくる遊牧民の略奪に苦しめられていた。

 略奪者たちは、収穫したばかりの穀物や家畜を奪い、男たちを殺し、女たちを連れ去る。

 ギルモアの農民たちは、クワやツルハシで武装し、襲いかかる遊牧民たちと戦った。

 そのころ、聖魔法を得意とするギルモアの聖者が、戦いに傷ついた農民たちを癒やし、国中を巡っていた。

 聖者は、戦場を巡りながら、いつ果てるとも判らない惨状に憂い、神に祈った。

 すると、戦いの神が夢に現れ、100年保つ聖結界の魔法を教えよう、と述べられた。

 しかし強力な聖結界の魔法を使うには、聖者の命をかけて魔力を注ぐ必要があった。

 聖者は迷いなく、結界を張ることを選んだ。

 聖者の結界のおかげで、ギルモアには、100年間、平和が訪れた。

 100年間の間に、農地は広がり、作物の収穫は豊かになり、家畜は増え、農民たちは家庭を持ち、たくさんの子をなした。

 100年の間に、国は豊かに、強大になった。

 おかげで、遊牧民の侵略を打ち負かす力を得た。

 略奪者におびえるギルモアはなくなり、国を護る力を持つギルモア王国が誕生した。

 それが、ギルモア王国、建国の物語』


 千年も前の伝説だ。

 強力な結界の痕跡が、今も、かすかに残っているという。

 聖者に結界の魔法を伝えた戦いの神は、ギルモア王国の国教の神となっている。

 農村の多いのどかな国の国教の神が、戦いの神なのは、聖者の伝説による。


 聖者の伝説を歌ったアリアが、コンクールの課題曲だった。


 非常に、技巧的に難しい曲だ、とカリンは言っていた。


 私は伴奏を手伝っていたので、その難しさはよく判った。

 カリンは、見事に歌いこなしていたが、そこに至るまでに、繰り返し繰り返し、何度でも歌い続けていた。それは、音楽家であれば、当然のことだ。一日十時間もの練習に励めるか、それを、何年も何年も続けられるか。それが、プロになれるか否かの分かれ道だ。その上で、才能ある者が、世界に認められていく。


 ・・それに比べて、聖女レミ嬢の聖歌の練習は、週に3日ほど。1回の練習時間は30分程度で、しかも、おしゃべりしている時間の方が長かった。

 あの絶叫を聞き続けなくてよくて、私は助かったが、まぁ、あの断末魔の叫びが歌に進化することはあり得ないだろう。



 カリンが舞台に上がった。


 私は、彼女が十二分に力を発揮できるよう祈った。


『閉じられた聖者の瞳に。

 もはや、爛れた戦地は映らず。

 広がる幻の村々よ。

 神の御手により祝福はもたらされた。

 私の髪は、羊食む牧草となり。

 私の爪は、肥えた駿馬となり。

 私の血肉は、豊かな大地となった。

 私の心は、永久に繋がる善なる人々とともにある』


 神々しい。


 遠く彼方まで響くソプラノ。

 その歌声に、彼女は、想いを乗せることが出来る。


 切ない恋の曲も。

 亡き者たちの魂を郷愁する、防人の心の叫びも。

 歌声に表す、表現力を持っている。


 彼女が表現した殉教者に捧げる鎮魂の歌は、厳かで尊かった。


 カリンが歌い終え、聖者の詩の余韻が消えたあと、会場は賞賛の拍手に包まれた。

 きっと優勝だろう。

 カリンの大叔母様が涙を流している。


 私は、カリンを迎えに行った。

 途中でキリアン殿下に会った・・が、様子がおかしい?

 追われているようだ。

 私は幻惑の魔法を解いて声をかけた。


「キリアン殿下、どうされましたか?」

「ああ、ソラ殿か。

 追われているんだ」

「追っ手ですか」

 と私が殿下の後方を確認すると、

「ああ、まぁ・・」

「聖女が追いかけてくるんです」

 とネストル。

「え・・?」

 私たちは、廊下に置いてある観葉植物の影に隠れた。

 聖女たちが辺りをうかがっている姿が、遠くに見える。

「人混みに紛れながら、なんとか、ここまで逃げてきたんだが・・」

 とキリアン殿下。

 マズい・・我が国の聖女が、他国の殿下に迷惑をかけている。

「と、とりあえず、もっと、彼女らから離れましょう」

 私たちは、聖女が垣間見えたのとは反対の方向へ小走りに逃げ出した。


 舞台の方向へ走っていると、カリンに出会った。


「カリンっ」

 呼びかけると、彼女が驚いてこちらを見ている。

「ソラ、それに、キリアン様たち。

 どうされました?」

「追われているんだ」

「え・・?」

 カリンは、すぐそばにあるドアを開けた。

 レッスン室だった。

 私たちがなだれ込むように部屋に入ると、カリンがドアを閉めて鍵をかけた。

 私とキリアン殿下、ネストルは椅子に座り込んだ。安堵で力が抜けた。

「追われているというのは?」

「ああ、聖女たちが・・」

 と私が言うと、

「そうでしたか。

 それは災難・・あ、いえ・・」

 カリンは途中で口をつぐんだ。

「いや、ホントに災難だよ、あれは」

 とキリアン殿下。

「すみません」

 私は思わず謝罪した。

「ごめんなさい」

 カリンも隣でうつむいている。

 まさか、自国の聖女が、他国の皇子を追いかけ回すとは・・。

「ハハ・・」

 ネストルが苦笑している。

「でも、助かったよ。

 カリンの歌は素晴らしかった。

 私の周りの観客は、みな、感涙してたよ。

 それでカリンを迎えに行こうと思ったら、殿下たちと会ってね。

 幻惑の魔法を解いて挨拶したら、今、聖女から逃げているところだと訴えられて・・」

 私はカリンに説明した。

「その幻惑の魔導具は便利なものだな」

 とキリアン殿下。

「私の兄が、研究所で作ったものです。

 帝国にもあるのでは?」

「まぁ、似たようなのはあるな。

 大げさに姿が変わるので、少々、使い難いのだが。

 ぜひ、その品を購入させてもらおう」

「兄に伝えておきますわ」

 カリンと殿下が、のんきに世間話をしている。


 私は、このふたりが仲むつまじくしていると、どうも胸の辺りがざわざわする。


「殿下、それより、せっかくの機会ですから、カリン嬢に尋ねてみては?」

 とネストル。

「ああ・・そうだな」

「なんでしょう?」

 カリンが首をかしげる。

「サヤ嬢に聞いたんだけど、君は、植物を元気にさせる力を持っているそうだね」

 キリアン殿下は、気軽な様子で問いかけた。

 私の心臓が、トクンとはねた。

 キリアン殿下は、カリンを疑っていたのか。


「鉢植えを少しばかり、元気にすることは出来ますわ」

「君は、本当は、聖女なのかい」

「いいえ、まさか。

 治癒魔法の応用ですわ。

 治癒魔法の使い手なら、誰でも出来ます」

「植物を活性化させるのは、土魔法ではなかったかな?

 それとも、カリン嬢の治癒魔法は、そうとう、レベルが高いのか」

「いえ、中級程度です」

「それで、植物の治癒を?

 本当かい?」

「あの、実は、もうひとつ、スキルを持っていた方が良いのですけど・・」

「それは、どんなスキル?」

 とキリアン殿下。

 いつの間にか、キリアン殿下の目は、鷹のように鋭くなっていた。

 カリンが、助けを求めるように私を見る。


「キリアン殿下。

 秘しているスキルというものが、ひとにはあるものですよ」

 私は諭すように応えた。

「そうか・・。まぁ、そうだろう。

 特殊なスキルは、他人には言いたくないものだろうな。

 教えて貰えるのなら、他言しないことを誓う」

「私も誓います」

 とネストル。


 大国の皇子にここまで言われて黙っていたら、かえって、カリンが目を付けられてしまうだろう。

 私は、しばし、逡巡したのち、カリンにうなずいた。

 カリンは、

「鑑定スキルです」

 と答えた。

「え・・?

 鑑定スキル・・で?」

「植物の状態を鑑定して、弱っている原因を治癒魔法で癒やすようにすると、元気になるんです。

 鑑定スキルと、治癒魔法が使えれば、誰でも出来ます」

「なるほど。

 しかし、鑑定スキル持ちは、2000人にひとりくらいしか居ない。

 それに加えて、治癒魔法か。

 治癒魔法は、中級レベル以上となると、800人にひとりくらいだったか。

 ふむ・・。

 まぁ、しかし、帝国全体で探せば・・」

 キリアン殿下が、考え込み始めた。

「キースレア帝国では、今、カリンが言った方法を、耕作地の改善に使いたいのですか?」

 と私は尋ねた。

「ああ、そうだ。

 耕作地自体は、増え広がっているのだが、どうも、魔法で荒れた大地は、土が酷く弱っていてね。

 土魔法の使い手だけに全部の荒れ地を任せるのは骨なんだ。なかなか改善が進まない」


 カリンから、彼女の鑑定魔法について説明を聞いたキリアン殿下とネストルは、キースレア帝国で使える方法を検討し始めた。


 カリンは、さらに、説明をつけ加えた。


 彼女は、部屋の空気を鑑定してみせるために、少しの間、目を閉じた。

「たとえば、この部屋の空気には、ギルモア王国産の香辛料と若い羊肉の匂い、それに、アノス王国産の白檀の香油が強い。上等の髪油は・・高い空気に多く残り・・。

 つまり、羊肉料理を食べ、髪を香油で手入れした背の高い男性が、この部屋を最後に使いました。

 それから、強ばるような汗、緊張・・。出場者の方ですね、きっと。

 まぁ、このような感じです」


 ・・カリンの有能さをキリアン殿下に見せて欲しくないんだが・・。


 殿下とネストルは、「すごいな」と感心している。

 私は、じっと、ふたりを観察した。

 残念ながら、私の持っているスキルは水魔法と火魔法で、鑑定スキルや読心のスキルはない。

 ただ、一連の説明で、キリアン殿下とネストルの興味は、カリンのことから、キースレア帝国で、鑑定士をどのように活用するかという実用面に移っている・・ような気がする。


 ・・と、少し安心していたら、

「今度、ぜひ、キースレアに来て、鑑定して見せてくれないか?」

 とキリアン殿下。

「はい、判りま・・」

「いや、待って。

 わざわざキースレアに行かなくても、その辺の植物でテストして見せればいいでしょう」

 私は慌ててカリンを止めた。

「ソラ、でも・・」

「キースレアに引き留められたら困る。

 簡単に了承しないでくれ、カリン」

「え・・そんなこと・・」

 カリンが戸惑っている。

 彼女は、大国の皇子という者の性質を、判って居ない。


「しないよ、安心してくれ、ソラ」

 キリアン殿下が苦笑した。

「今、帝国では、土魔法の使い手が足りなくて困っているところでしたから、鑑定士にも手伝わせるのは、良いですね。

 まぁ、ふつうの鑑定士が、本当に手伝えるかは確認が要りますが」

 とネストル。

「土の鑑定くらいはできると思うけどな」

 と私は、誰でも出来ることを強調しておく。

「そうしたら、鑑定士と農夫のペアで、土壌改良が進むかもな」

 と殿下。

「試してみる価値はありますね」

「ああ、やってみよう。

 そうだ、良い情報を教えてくれた礼に、私も、情報を教えてあげよう。

 前世の記憶持ちについての情報をね」

 と殿下。


お読みいただきありがとうございました。

また明日、午後6時に投稿いたします。

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