14)別れ
今日、2話目の投稿です。
1話目は、午後6時に投稿いたしました。
私は、ギルモア国際音楽コンクールが行われる2ヶ月前に、ギルモア王国に向かうことを決めていた。
アノス王国で行われた予選は通過しているが、第2次予選はギルモア王国で受けることにした。
邸から早く逃げるために。
私の予定は、ピアノの恩師と、ギルモアに住む叔母にしか伝えていなかった。
直前になって、こっそりと、母と姉上に話した。
ふたりは、私の言外の想いを汲み取ってくれ、母は、私が秘密裏にギルモアへ行けるよう、手配してくれた。
明日はギルモアに経つという日に、私は、ようやく、学園でカイトに話しかけることが出来た。
カイトは、私の顔を怪訝そうに見て、「なにか用か」と冷たく応えた。
「明日、ギルモア王国に発つんだ。
それで、どうしても、カリンに会いたい」
「ふうん。
なぜ会う必要がある?」
「なぜって・・彼女は、私の婚約者だ」
「ハヤトに絡まれてカリンが困っていたのに、見て見ぬふりしてるヤツが婚約者なのか」
とカイト。
「・・すまなかった」
「もう、協力はしない」
私は、行きかけたカイトの腕を掴んだ。
「カイト。
私が聖女を振り払って駆けつけたら、先に、キリアン皇子がハヤトを追い払ってたんだ。私は、出遅れてしまった」
「だからなんだ?
カリンがハヤトに酷い目に遭わされたとしても、そういう言い訳をするのか?」
「もう一度、チャンスをくれ。
彼女に会いたいんだ。
キリアン皇子が彼女に目を付けてる。
このまま、カリンに会わずにギルモア王国に行くわけにいかない。
会って、彼女の気持ちを確かめたい」
カイトは、しばし迷ったのち、
「判ったよ」
と答えてくれた。
◇◇◇
夜、邸を抜け出した。
密かに手配しておいた馬を使い、ハノウ家を訪れた。
カイトが、私を邸に入れてくれた。
カリンの部屋のドアをカイトがノックすると、彼女がドアを開けた。
カイトは、カリンと私を、しばらく二人きりにしてくれた。
部屋に入ると、寝支度をしたカリンが佇んでいた。
癖のある艶やかな髪を肩にたらし、湯浴みをしたばかりのような優しげな肌。
ナイトウエアにガウンを着た姿がなまめかしい。
目のやり場に困った。
「ソラ、あの・・私に、なにか?」
不安げなカリンの声。
私に会えて、嬉しくないのだろうか。
私のことを、もう、愛していないのだろうか。
私は、彼女と暮らす未来しか、考えられないのに。
私は、カリンの腕を掴み、自分のもとに引き寄せた。
「この間、姉上の誕生日のとき。
私はカリンに近づけないのに、なぜ、あんなに扇情的な装いをしていたんだ?」
つい、声が荒くなった。
「扇情的?
酷いわ、ソラ。
成人していれば、あのくらい、当たり前よ」
他の女はどうでもいい。
私が守れるときなら許す。
だが、姉上の誕生パーティでは、違ったというのに。
「恋人の私が思うように動けないのにか? ハイネックの服にすべきだよ!
おまけに、あんなに美しく歌って・・」
「上手く歌えてたかしら。
ありがとう」
「そういう問題じゃない。
・・馬車のところで、あのキースレアの皇子と、なにを話してたんだい?」
「え・・?」
「馬車のところまで、カリンに、彼らが着いていっただろう?
彼は、キリアン皇子だね。
竪琴の音色で判った」
「ええ。そうです。
ハヤトさんがしつこかったので、助けてくれて・・」
「私が出て行こうとしたら、彼らが先に声をかけてた」
「ソラ、見てたの?」
「あの自称婚約者が君を追ってたから」
「ありがとう」
「それで? あの皇子は・・」
「私を心配してくれただけですわ。
大国の皇子様ですもの。
雲の上の方です」
「そう・・」
本当だろうか。
カリンが、癒やしと恵みの聖歌を歌えると判ったら、あの皇子は、強権を発動して彼女を自分のものにするだろうに。
「今日は、どんなお話がありますの?」
「あ、ああ。
あの聖女が、私と婚約したと言いふらしているものだから、カリンに誤解されたくなかったんだ。
私は、今度、ギルモア王国の王都で行われるギルモア国際音楽コンクールに出ることが決まった。
そのまま、もう、国には戻らない」
「ソラ・・」
カリンが、呆然と私を見詰めた。
「音楽留学は、父に認められなかった。
でも、ギルモア国際音楽コンクールは、世界的にもレベルが高いと称されているコンクールだ。父は、出場を許してくれた。言質はとった。
明日には家を出る」
私は、カリンに説明した。
ずっと会えなくて、話せなかったことを。
我が家の事情と、母が協力してくれたおかげで、聖女との婚約を免れていたことを。
だが、それももう、難しくなっている。
「私は、音楽留学をするつもりで、学校を卒業するための単位を、すでに取得してしまった。
卒業したら、ますます、聖女との婚約を断る理由はなくなる」
私が、そう告げると、カリンは、
「そんな・・」
と、目を潤ませた。
「だから、家を出てギルモアに行く。
家には、ジュンヤと聖女が入り浸りで、思うように練習もできない。
ピアノの前に座れば、あの聖女の伴奏をさせられる。
彼女の歌は、音楽への冒涜だよ。
ピアニストとして耐えられない。
あの家には居られない。
ギルモア王国に居る叔母の家で、コンクール出場の間、暮らす予定だ。
叔母は、母方の親類でね。
父のことを毛嫌いしてて。私が訪問することを楽しみにしてくれてる。
ギルモア王国のコンクールで良い成績を修めれば、リサイタルを開ける。
カリンの卒業は、1年後だろう。
向こうで足場を整えるのに日がかかるだろうから。音楽活動をしながら待ってる。
1年後には、私も18になるから。結婚の申し込みが出来る。
・・でも、その前に、叔母の家に遊びに来てくれたら嬉しいけど」
「ソラに会いに行きます」
「カリン」
彼女の心は変わってなかった。
私のものだ。
思わず抱きしめて口づけた。
「誰のものにもならないで、待っててくれ」
「はい」
「夜会で君が他の男と踊ったり、あの自称婚約者に触れられてるのを見るのは、本当につらかった」
「私もつらかったです」
「ごめんよ。
もう少しだから」
「ええ。大丈夫です」
安堵と愛しさで、何度も抱きしめた。
なめらかな髪や華奢な肩をなで回し、首筋に唇を滑らせる。
薄いナイトウエアとガウン姿のために、彼女の身体の柔らかさが直に感じられて、暴走しそうだ。
カリンは、私の背に腕を回し、口づけに応えてくれる。彼女の愛らしさよ。
ベッドにダイブして既成事実を作ってしまいたい・・。
・・と、不埒な考えが横切ったとたん、ドアの向こうからカイトに「まだ手、出すなよ~」と声をかけられた。鋭い奴め。
明くる日。
私は、ギルモア王国に向けてアノス王国を出た。
お読みいただきありがとうございました。
また明日午後6時に投稿いたします。




