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14/25

14)別れ

今日、2話目の投稿です。

1話目は、午後6時に投稿いたしました。


 私は、ギルモア国際音楽コンクールが行われる2ヶ月前に、ギルモア王国に向かうことを決めていた。

 アノス王国で行われた予選は通過しているが、第2次予選はギルモア王国で受けることにした。

 邸から早く逃げるために。

 私の予定は、ピアノの恩師と、ギルモアに住む叔母にしか伝えていなかった。

 直前になって、こっそりと、母と姉上に話した。

 ふたりは、私の言外の想いを汲み取ってくれ、母は、私が秘密裏にギルモアへ行けるよう、手配してくれた。


 明日はギルモアに経つという日に、私は、ようやく、学園でカイトに話しかけることが出来た。


 カイトは、私の顔を怪訝そうに見て、「なにか用か」と冷たく応えた。


「明日、ギルモア王国に発つんだ。

 それで、どうしても、カリンに会いたい」

「ふうん。

 なぜ会う必要がある?」

「なぜって・・彼女は、私の婚約者だ」

「ハヤトに絡まれてカリンが困っていたのに、見て見ぬふりしてるヤツが婚約者なのか」

 とカイト。

「・・すまなかった」

「もう、協力はしない」

 私は、行きかけたカイトの腕を掴んだ。

「カイト。

 私が聖女を振り払って駆けつけたら、先に、キリアン皇子がハヤトを追い払ってたんだ。私は、出遅れてしまった」

「だからなんだ?

 カリンがハヤトに酷い目に遭わされたとしても、そういう言い訳をするのか?」

「もう一度、チャンスをくれ。

 彼女に会いたいんだ。

 キリアン皇子が彼女に目を付けてる。

 このまま、カリンに会わずにギルモア王国に行くわけにいかない。

 会って、彼女の気持ちを確かめたい」


 カイトは、しばし迷ったのち、

「判ったよ」

 と答えてくれた。


◇◇◇


 夜、邸を抜け出した。


 密かに手配しておいた馬を使い、ハノウ家を訪れた。


 カイトが、私を邸に入れてくれた。

 カリンの部屋のドアをカイトがノックすると、彼女がドアを開けた。


 カイトは、カリンと私を、しばらく二人きりにしてくれた。


 部屋に入ると、寝支度をしたカリンが佇んでいた。

 癖のある艶やかな髪を肩にたらし、湯浴みをしたばかりのような優しげな肌。

 ナイトウエアにガウンを着た姿がなまめかしい。

 目のやり場に困った。


「ソラ、あの・・私に、なにか?」

 不安げなカリンの声。


 私に会えて、嬉しくないのだろうか。

 私のことを、もう、愛していないのだろうか。

 私は、彼女と暮らす未来しか、考えられないのに。


 私は、カリンの腕を掴み、自分のもとに引き寄せた。

「この間、姉上の誕生日のとき。

 私はカリンに近づけないのに、なぜ、あんなに扇情的な装いをしていたんだ?」


 つい、声が荒くなった。


「扇情的?

 酷いわ、ソラ。

 成人していれば、あのくらい、当たり前よ」


 他の女はどうでもいい。

 私が守れるときなら許す。

 だが、姉上の誕生パーティでは、違ったというのに。


「恋人の私が思うように動けないのにか? ハイネックの服にすべきだよ!

 おまけに、あんなに美しく歌って・・」

「上手く歌えてたかしら。

 ありがとう」

「そういう問題じゃない。

 ・・馬車のところで、あのキースレアの皇子と、なにを話してたんだい?」

「え・・?」

「馬車のところまで、カリンに、彼らが着いていっただろう?

 彼は、キリアン皇子だね。

 竪琴の音色で判った」

「ええ。そうです。

 ハヤトさんがしつこかったので、助けてくれて・・」

「私が出て行こうとしたら、彼らが先に声をかけてた」

「ソラ、見てたの?」

「あの自称婚約者が君を追ってたから」

「ありがとう」

「それで? あの皇子は・・」

「私を心配してくれただけですわ。

 大国の皇子様ですもの。

 雲の上の方です」

「そう・・」


 本当だろうか。

 カリンが、癒やしと恵みの聖歌を歌えると判ったら、あの皇子は、強権を発動して彼女を自分のものにするだろうに。


「今日は、どんなお話がありますの?」

「あ、ああ。

 あの聖女が、私と婚約したと言いふらしているものだから、カリンに誤解されたくなかったんだ。

 私は、今度、ギルモア王国の王都で行われるギルモア国際音楽コンクールに出ることが決まった。

 そのまま、もう、国には戻らない」

「ソラ・・」


 カリンが、呆然と私を見詰めた。


「音楽留学は、父に認められなかった。

 でも、ギルモア国際音楽コンクールは、世界的にもレベルが高いと称されているコンクールだ。父は、出場を許してくれた。言質はとった。

 明日には家を出る」


 私は、カリンに説明した。

 ずっと会えなくて、話せなかったことを。

 我が家の事情と、母が協力してくれたおかげで、聖女との婚約を免れていたことを。

 だが、それももう、難しくなっている。


「私は、音楽留学をするつもりで、学校を卒業するための単位を、すでに取得してしまった。

 卒業したら、ますます、聖女との婚約を断る理由はなくなる」

 私が、そう告げると、カリンは、

「そんな・・」

 と、目を潤ませた。


「だから、家を出てギルモアに行く。

 家には、ジュンヤと聖女が入り浸りで、思うように練習もできない。

 ピアノの前に座れば、あの聖女の伴奏をさせられる。

 彼女の歌は、音楽への冒涜だよ。

 ピアニストとして耐えられない。

 あの家には居られない。

 ギルモア王国に居る叔母の家で、コンクール出場の間、暮らす予定だ。

 叔母は、母方の親類でね。

 父のことを毛嫌いしてて。私が訪問することを楽しみにしてくれてる。

 ギルモア王国のコンクールで良い成績を修めれば、リサイタルを開ける。

 カリンの卒業は、1年後だろう。

 向こうで足場を整えるのに日がかかるだろうから。音楽活動をしながら待ってる。

 1年後には、私も18になるから。結婚の申し込みが出来る。

 ・・でも、その前に、叔母の家に遊びに来てくれたら嬉しいけど」

「ソラに会いに行きます」

「カリン」


 彼女の心は変わってなかった。

 私のものだ。

 思わず抱きしめて口づけた。


「誰のものにもならないで、待っててくれ」

「はい」

「夜会で君が他の男と踊ったり、あの自称婚約者に触れられてるのを見るのは、本当につらかった」

「私もつらかったです」

「ごめんよ。

 もう少しだから」

「ええ。大丈夫です」


 安堵と愛しさで、何度も抱きしめた。

 なめらかな髪や華奢な肩をなで回し、首筋に唇を滑らせる。

 薄いナイトウエアとガウン姿のために、彼女の身体の柔らかさが直に感じられて、暴走しそうだ。

 カリンは、私の背に腕を回し、口づけに応えてくれる。彼女の愛らしさよ。

 ベッドにダイブして既成事実を作ってしまいたい・・。


 ・・と、不埒な考えが横切ったとたん、ドアの向こうからカイトに「まだ手、出すなよ~」と声をかけられた。鋭い奴め。


 明くる日。

 私は、ギルモア王国に向けてアノス王国を出た。


お読みいただきありがとうございました。

また明日午後6時に投稿いたします。

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