13)誕生日会
今日は、2話、投稿いたします。(^^)/
我が家で、姉上の誕生日会がある。
見栄張りな父が、各界のお偉方を招いたため、かなり堅苦しい面子が揃う。
この不必要なまでにVIPが招かれている場で、なんと、聖女が聖歌を披露するという。
父は、聖女の聖歌を、客寄せに使ったふしがある。
・・聖女は喜んで、張り切っている。
よく喜べるな。
私なら、仮病による逃亡を考える。
案の定、私は、伴奏をさせられることになった。
マズイ。
聖女の聖歌は、古のもので、あくまで「聖女のための聖歌」であり、ほとんどひとに知られていない。
ふだんは国教の聖歌隊が歌っているが、お披露目は国教の特別な行事に限っている。
人に知られていない歌を、聖女はトンデモない声で叫び、私は、聖女の発する音程とはなんら無関係な、遠くかけ離れた音で伴奏することになるだろう。
・・私が間違った伴奏をしていると思われないだろうか。
私は、音楽家として、生きるつもりだ。
国内のVIPが勢揃いした中で、聖女の聖歌という、さぞ注目されるであろう伴奏。
失敗はしたくない・・いや、私自身が技術的に失敗する、ということはないが、「失敗しているように聞こえる」ことも避けたい。
誤解されたくない。
誰かが、「聖女が、超絶オンチなんですよ、ソラは無罪です」と解説してくれればいいが、あり得ない。
一計を案じ、私は、私の伴奏を、さりげなく、聖女の聖歌に合わせることにした。
そのためには、あの魔獣の叫びをよくよく聞かなければならない。
拷問だ。
しかし、たった一回、我慢すれば良い。耐えよう。
◇◇◇
当日。
私は、夜会服を着て、姉上の誕生会に出席させられていた。
腕には、聖女が絡みついている。
彼女は、やけに胸の開いたドレスを着込み、香水が臭いほど匂っている。
早いところ、この邸から逃げ出したい。
カリンが到着した。
いつも清楚な服が多い彼女には珍しく、大人びたドレスを着ていた。
ふだんの彼女と、雰囲気が違う。
胸元に目が吸い寄せられる。
ごく淡い薄紅色のドレスに白い柔肌が映える、艶やかな谷間がふっくらとして・・身体の線がきれいに出るデザインのおかげで目立つ・・ウエストのくびれが、艶美さをさらに強調している。
周りの男たちの視線が、さりげなく集まっている。
・・私はカリンに近づけないのに・・。
カリンが、他人行儀に挨拶をした。
私の腕には、魔獣の断末魔聖女が絡みついている・・。
・・我慢だ・・。
姉上の知り合いであるキースレアからの留学生が、カリンと演奏をしたいという。
なぜカリンを知っているんだ。
私は、無理矢理、ジュンヤと連弾させられたというのに。
カリンは、留学生たちを知っている様子だった。
仲よさげに頬笑み合っている。
彼の竪琴の演奏は見事だった。カリンのピアノとの息もぴったりだ。
あの竪琴の音色には聞き覚えがある。
キースレアの皇子だ。
眼鏡と染髪で変装してまで、この会に来たのか。
演奏が終わると、ふたりはダンスを踊っていた。
私の腕にはクソ聖女・・ジュンヤのせいだ・・。
ジュンヤが、シュン・ハヤトと喋っている。
シュン・ハヤトは、女たらしで学園でも有名な軽い男だ。
しじゅう、連れ歩く女性を変える。
ふたりの会話を聞くともなしに聞いていると・・こいつ、カリンに婚約を申し込んだって・・?
ハヤトは、侯爵家の子息で、父親は、カリンの父の上司だと言っている。
ハノウ家は、断れるのだろうか。
カリンがダンスから戻ってきた。
「やぁ、カリン。
彼が、君と踊りたいそうだよ。
婚約を申し込まれてるんだろう?」
とジュンヤ。
キリアン皇子が不快そうに眉をひそめる。
なぜ皇子が不快になる必要がある?
皇子とカリンがひそひそとなにやら話している。
「ここで、婚約発表しようか」
とハヤト。
「誤解を招く冗談は、お辞めください」
とカリン。
カリンは嫌がっている。
良かった。
「冗談じゃないって。
そろそろ、君の父上も良い返事を・・」
「しません」
聖女レミが、私の腕を掴んだまま、
「良い話だわ。
カリン、私、祝福して差し上げますわよ」
と大声で言う。
こんな場で、聖女が婚約を認めてしまったら、カリンの家では、よけいに断れなくなるじゃないか!
ハヤトのやつが、カリンの肩を抱き、
「いいね。聖女に祝福してもらおう」
などと、たわけたことを言っている。
「要りません」
とカリン。
カリンが困っている。
私は、頭に血が上ってきた。
「レミ、君は、聖歌を歌うんじゃなかったのか」
聖女を黙らせるために言ってやった。
「そうよ、早く歌ってちょうだい」
と姉上も協力してくれた。
「ウフフ。
緊張してしまうわ」
聖女は機嫌良く壇上に向かった。
・・この聖女の厚顔無恥ぶりには、いつも感心させられる。
レミ嬢が壇上に現れると、「聖女の聖歌だ」と、みなが注目し、シン・・と静まりかえった。
騒がしかった会場が、まるで聖堂のようだ。
残念だ・・。
パーティが騒がしくて聖女の歌が聞こえない・・という事態には、ならなかった。少し期待していたのだが。
私は、覚悟を決めた。
聖女は、叫び始めた。
テンポは、ごくゆっくりだ。
おかげで、私は、伴奏を矯正する余裕がある。
聖女の声が高音にずれると、そっと、音を上げる。
低音にずれたら、そっと、音を下げる。
聖女の歌が、伴奏より遅れたら、さりげなく、音を遅らせる。
聖女の歌が、先走ったら、少し指を早める。
聖女の歌が、あんまりにも変になったときは、やむなく、音を省いておく。
これは、ある種の訓練になるな、と私は思った。
なんの使い道もない訓練だが。
なんとか、終わった。
盛大な拍手を賜る。
聖女は、単純に喜んでいる。
聖女の聖歌、という珍しいものを聞けて、みなは喜んでいるのだろう。
しかし、誰もが、手放しで褒めているようには見えない。
なにしろ、客層は、高位のVIPぞろい。
精神系魔法防御の魔導具を装備している客が多いのだ。
聖女が、ゴブリン並にオンチであることが、これで知られただろう。
よほど、音楽的素養が壊滅している、とか、魔獣の叫びをありがたがる趣味がある、とか、そういう特殊な者以外は、拍手しながらも目が逝っている。
姉上たちのもとに戻ると、カリンは呆然としながらも拍手していた。
エラい。
キリアン皇子とネストルは、拍手したフリをしている。
まぁ、音楽家として、あの歌に拍手する気にはなれないだろう。
ジュンヤと聖女は、会場の拍手に気をよくしたらしい。
カリンに、
「ああ、そういえば、カリンも歌を歌うんだったね」
とジュンヤ。
「そうだわ、カリンにも歌ってもらいましょうよ」
とレミ嬢。
身の程知らずなことを言っている。
「私が伴奏してあげるよ」
とジュンヤ。
おおかた、酷い伴奏でカリンの歌をめちゃくちゃにしたいのだろう。
「いいえ。聖女の歌の余韻を壊したくありませんから」
カリンは必死に断っている。
「遠慮することないだろう。
アノス声楽コンクールの学生の部で二位だったそうじゃないか」
・・カリンは、一位だったんだぞ。
声楽のコンクールでは、国内最高峰レベルのコンクールで、一位だ。
やはり、ジュンヤたちは、カリンの歌は聴いていないし、声楽家の価値も知らない。
愚か者め。
カリンは、ジュンヤの伴奏を断り、ハヤトの汚い手を避け、壇上に上った。
私が伴奏をしてあげたかった。
カリンは、なにか、思い詰めた様子をしている。
新たな歌姫の登場に、会場が静まりかえった。
すでにカリンは、声楽家として、知られ始めているのだ。
壊滅的な聖歌で穢れた耳の癒やしを求める視線もちらほら、注がれている。
カリンが歌い始めた。
『過ぎし日の恋よ・・。
あふるるこの想い。
夢、語るときは、いつも。
あなたのことが浮かぶ』
それは、カリンの記憶にあった前世の歌だった。
もとは、聖母への祈祷の歌だった、とカリンは言っていた。
ああ、あの美しい歌をカリンは選んだのか。
彼女のソプラノが、麗しく映える、聖なる歌だ。
技巧的な難易度としては、ややこしくはない。
けれど、繊細に高音を響かせるほどに、神々しく、胸に迫る旋律。
鈴の音に似た声の魅力が、厳かに、燦たる曲に合っている。
会場の空気は、聖なる歌の響きに満たされた。
だれもが魅入られ、聞き入っていた。
身動きひとつする者も居ない。
カリンの声の余韻が消えると、真っ先に、キリアン皇子が拍手をした。
彼女の歌は、大国の皇子を魅了したのだろう。
彼女が手の届かないところに行ってしまったように感じた。
カリンは、姉上に暇乞いをし、会場を後にした。
ハヤトが後を追う。
女たらしの自称婚約者。熱狂的に拍手をし、「私の婚約者は素晴らしいな」などと言っていた。
カリンが襲われかねない。
聖女の腕を「トイレに行く!」と言って振り払い、後を追った。
私は、一歩出遅れた。
すでに、キリアン皇子が、ハヤトを追い払っていた。
馬車に乗るカリンにキリアン皇子が何か言い、彼女の髪に手を触れた。
私は、彼女を失ってしまったのだろうか。
外国で音楽活動をする私に、付いていくと言ってくれたカリン。
このままでは、私の手をすり抜けて、誰か他の男のものになってしまう。
今日は、また、午後8時に2話目を投稿いたします。
よろしくお願いいたします。




