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13/25

13)誕生日会

今日は、2話、投稿いたします。(^^)/


 我が家で、姉上の誕生日会がある。


 見栄張りな父が、各界のお偉方を招いたため、かなり堅苦しい面子が揃う。


 この不必要なまでにVIPが招かれている場で、なんと、聖女が聖歌を披露するという。

 父は、聖女の聖歌を、客寄せに使ったふしがある。


 ・・聖女は喜んで、張り切っている。

 よく喜べるな。

 私なら、仮病による逃亡を考える。


 案の定、私は、伴奏をさせられることになった。

 マズイ。

 聖女の聖歌は、古のもので、あくまで「聖女のための聖歌」であり、ほとんどひとに知られていない。

 ふだんは国教の聖歌隊が歌っているが、お披露目は国教の特別な行事に限っている。


 人に知られていない歌を、聖女はトンデモない声で叫び、私は、聖女の発する音程とはなんら無関係な、遠くかけ離れた音で伴奏することになるだろう。


 ・・私が間違った伴奏をしていると思われないだろうか。


 私は、音楽家として、生きるつもりだ。

 国内のVIPが勢揃いした中で、聖女の聖歌という、さぞ注目されるであろう伴奏。

 失敗はしたくない・・いや、私自身が技術的に失敗する、ということはないが、「失敗しているように聞こえる」ことも避けたい。

 誤解されたくない。


 誰かが、「聖女が、超絶オンチなんですよ、ソラは無罪です」と解説してくれればいいが、あり得ない。


 一計を案じ、私は、私の伴奏を、さりげなく、聖女の聖歌に合わせることにした。

 そのためには、あの魔獣の叫びをよくよく聞かなければならない。

 拷問だ。

 しかし、たった一回、我慢すれば良い。耐えよう。


◇◇◇


 当日。


 私は、夜会服を着て、姉上の誕生会に出席させられていた。

 腕には、聖女が絡みついている。

 彼女は、やけに胸の開いたドレスを着込み、香水が臭いほど匂っている。

 早いところ、この邸から逃げ出したい。


 カリンが到着した。


 いつも清楚な服が多い彼女には珍しく、大人びたドレスを着ていた。

 ふだんの彼女と、雰囲気が違う。

 胸元に目が吸い寄せられる。

 ごく淡い薄紅色のドレスに白い柔肌が映える、艶やかな谷間がふっくらとして・・身体の線がきれいに出るデザインのおかげで目立つ・・ウエストのくびれが、艶美さをさらに強調している。

 周りの男たちの視線が、さりげなく集まっている。

 ・・私はカリンに近づけないのに・・。


 カリンが、他人行儀に挨拶をした。

 私の腕には、魔獣の断末魔聖女が絡みついている・・。

 ・・我慢だ・・。


 姉上の知り合いであるキースレアからの留学生が、カリンと演奏をしたいという。

 なぜカリンを知っているんだ。

 私は、無理矢理、ジュンヤと連弾させられたというのに。


 カリンは、留学生たちを知っている様子だった。

 仲よさげに頬笑み合っている。

 彼の竪琴の演奏は見事だった。カリンのピアノとの息もぴったりだ。

 あの竪琴の音色には聞き覚えがある。

 キースレアの皇子だ。

 眼鏡と染髪で変装してまで、この会に来たのか。

 演奏が終わると、ふたりはダンスを踊っていた。


 私の腕にはクソ聖女・・ジュンヤのせいだ・・。


 ジュンヤが、シュン・ハヤトと喋っている。

 シュン・ハヤトは、女たらしで学園でも有名な軽い男だ。

 しじゅう、連れ歩く女性を変える。

 ふたりの会話を聞くともなしに聞いていると・・こいつ、カリンに婚約を申し込んだって・・?

 ハヤトは、侯爵家の子息で、父親は、カリンの父の上司だと言っている。

 ハノウ家は、断れるのだろうか。

 カリンがダンスから戻ってきた。


「やぁ、カリン。

 彼が、君と踊りたいそうだよ。

 婚約を申し込まれてるんだろう?」

 とジュンヤ。


 キリアン皇子が不快そうに眉をひそめる。

 なぜ皇子が不快になる必要がある?

 皇子とカリンがひそひそとなにやら話している。


「ここで、婚約発表しようか」

 とハヤト。

「誤解を招く冗談は、お辞めください」

 とカリン。

 カリンは嫌がっている。

 良かった。


「冗談じゃないって。

 そろそろ、君の父上も良い返事を・・」

「しません」


 聖女レミが、私の腕を掴んだまま、

「良い話だわ。

 カリン、私、祝福して差し上げますわよ」

 と大声で言う。

 こんな場で、聖女が婚約を認めてしまったら、カリンの家では、よけいに断れなくなるじゃないか!


 ハヤトのやつが、カリンの肩を抱き、

「いいね。聖女に祝福してもらおう」

 などと、たわけたことを言っている。

「要りません」

 とカリン。

 カリンが困っている。

 私は、頭に血が上ってきた。

「レミ、君は、聖歌を歌うんじゃなかったのか」

 聖女を黙らせるために言ってやった。


「そうよ、早く歌ってちょうだい」

 と姉上も協力してくれた。


「ウフフ。

 緊張してしまうわ」

 聖女は機嫌良く壇上に向かった。


 ・・この聖女の厚顔無恥ぶりには、いつも感心させられる。


 レミ嬢が壇上に現れると、「聖女の聖歌だ」と、みなが注目し、シン・・と静まりかえった。

 騒がしかった会場が、まるで聖堂のようだ。

 残念だ・・。

 パーティが騒がしくて聖女の歌が聞こえない・・という事態には、ならなかった。少し期待していたのだが。


 私は、覚悟を決めた。


 聖女は、叫び始めた。


 テンポは、ごくゆっくりだ。

 おかげで、私は、伴奏を矯正する余裕がある。


 聖女の声が高音にずれると、そっと、音を上げる。

 低音にずれたら、そっと、音を下げる。

 聖女の歌が、伴奏より遅れたら、さりげなく、音を遅らせる。

 聖女の歌が、先走ったら、少し指を早める。

 聖女の歌が、あんまりにも変になったときは、やむなく、音を省いておく。


 これは、ある種の訓練になるな、と私は思った。

 なんの使い道もない訓練だが。


 なんとか、終わった。

 盛大な拍手を賜る。

 聖女は、単純に喜んでいる。

 聖女の聖歌、という珍しいものを聞けて、みなは喜んでいるのだろう。

 しかし、誰もが、手放しで褒めているようには見えない。


 なにしろ、客層は、高位のVIPぞろい。

 精神系魔法防御の魔導具を装備している客が多いのだ。

 聖女が、ゴブリン並にオンチであることが、これで知られただろう。

 よほど、音楽的素養が壊滅している、とか、魔獣の叫びをありがたがる趣味がある、とか、そういう特殊な者以外は、拍手しながらも目が逝っている。


 姉上たちのもとに戻ると、カリンは呆然としながらも拍手していた。

 エラい。

 キリアン皇子とネストルは、拍手したフリをしている。

 まぁ、音楽家として、あの歌に拍手する気にはなれないだろう。


 ジュンヤと聖女は、会場の拍手に気をよくしたらしい。


 カリンに、

「ああ、そういえば、カリンも歌を歌うんだったね」

 とジュンヤ。

「そうだわ、カリンにも歌ってもらいましょうよ」

 とレミ嬢。

 身の程知らずなことを言っている。


「私が伴奏してあげるよ」

 とジュンヤ。

 おおかた、酷い伴奏でカリンの歌をめちゃくちゃにしたいのだろう。


「いいえ。聖女の歌の余韻を壊したくありませんから」

 カリンは必死に断っている。


「遠慮することないだろう。

 アノス声楽コンクールの学生の部で二位だったそうじゃないか」


 ・・カリンは、一位だったんだぞ。

 声楽のコンクールでは、国内最高峰レベルのコンクールで、一位だ。


 やはり、ジュンヤたちは、カリンの歌は聴いていないし、声楽家の価値も知らない。

 愚か者め。


 カリンは、ジュンヤの伴奏を断り、ハヤトの汚い手を避け、壇上に上った。


 私が伴奏をしてあげたかった。


 カリンは、なにか、思い詰めた様子をしている。


 新たな歌姫の登場に、会場が静まりかえった。

 すでにカリンは、声楽家として、知られ始めているのだ。

 壊滅的な聖歌で穢れた耳の癒やしを求める視線もちらほら、注がれている。


 カリンが歌い始めた。


『過ぎし日の恋よ・・。

 あふるるこの想い。

 夢、語るときは、いつも。

 あなたのことが浮かぶ』


 それは、カリンの記憶にあった前世の歌だった。

 もとは、聖母への祈祷の歌だった、とカリンは言っていた。


 ああ、あの美しい歌をカリンは選んだのか。


 彼女のソプラノが、麗しく映える、聖なる歌だ。


 技巧的な難易度としては、ややこしくはない。

 けれど、繊細に高音を響かせるほどに、神々しく、胸に迫る旋律。

 鈴の音に似た声の魅力が、厳かに、燦たる曲に合っている。


 会場の空気は、聖なる歌の響きに満たされた。

 だれもが魅入られ、聞き入っていた。

 身動きひとつする者も居ない。


 カリンの声の余韻が消えると、真っ先に、キリアン皇子が拍手をした。

 彼女の歌は、大国の皇子を魅了したのだろう。


 彼女が手の届かないところに行ってしまったように感じた。


 カリンは、姉上に暇乞いをし、会場を後にした。


 ハヤトが後を追う。

 女たらしの自称婚約者。熱狂的に拍手をし、「私の婚約者は素晴らしいな」などと言っていた。

 カリンが襲われかねない。

 聖女の腕を「トイレに行く!」と言って振り払い、後を追った。


 私は、一歩出遅れた。

 すでに、キリアン皇子が、ハヤトを追い払っていた。

 馬車に乗るカリンにキリアン皇子が何か言い、彼女の髪に手を触れた。


 私は、彼女を失ってしまったのだろうか。


 外国で音楽活動をする私に、付いていくと言ってくれたカリン。

 このままでは、私の手をすり抜けて、誰か他の男のものになってしまう。


今日は、また、午後8時に2話目を投稿いたします。

よろしくお願いいたします。

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