第9話
「……おはようございます」
「あ、おはよう」
たひが起きた。
ベッドの上で、上半身だけ起こして僕を見ている。
眠そうだ。
「朝ごはん買ってきたよ」
「……ありがとうございます」
サンドウィッチを2つ。
僕とたひの分。
歩いて5分のコンビニで買ってきた。
「昼ごはんみたいなものだけどね」
僕は苦笑する。
もうすでに、11時になっていた。
昨日寝たのが5時だから、しょうがないだろう。
昨日というか、今日だけど。
サンドウィッチと牛乳を、段ボール箱の上に。
ごはんの準備は終わった。
なのに、たひが中々こっちへ来ない。
蒲団にくるまって、まるで繭のような姿になって、動かないのだ。
「どうしたの?」
「あの、ベッド使っちゃってすいません」
「謝ることないよ。そういう話になったんだから」
「でも……」
「じゃあやっぱり一緒に寝た方が良かった?」
「それはないです!」
それは、色々話は終わって、やっと寝るかとなったときのこと。
ベッドが1つしかないという問題が発生したのだ。
そこで僕の提案した、ふたりで1つのベッドを使うという案は即却下。
おまけにビンタまで喰らった。
痛かった。
なので仕方なく、僕はベッドを譲り、床で横になった。
ただ、布団がなかったので背中は確かに痛かった。
そのことが、申し訳なく思えてきたようだ。
「やっぱり、ふたりで暮らすには物が足りなすぎるね。だから今日は買い物に行こうか」
「そうですね、分かりました。そうしましょう」
今日が日曜日で良かった。
平日だったら大変だった。
でもさすがに怠惰過ぎる気がしてきて。
誰に対してでもないけど申し訳なくなってきた。
「早く食べようよ」
僕が急かす。
でも何故か、たひはまだ動こうとしない。
蒲団を離したくないのか?
すると、彼女は躊躇いながら、僕に尋ねた。
「あの……私の服はありますか?」
「服? 昨日着てたやつならまだ乾かしてるよ」
「そ、そうですか……」
「死神の服を洗濯するとは……」とかなんとか、ぶつぶつ言っていたが、しょうがないだろう。
だって、1500年洗ってないそうだから。
汚れていないのは分かっていたが、洗いたかったのだ。
で、なるほど。着替えたいのか。
僕のシャツ1枚で、ずっと過ごす訳にもいかないか。
「違う服貸そうか?」
「でもそれじゃあ私は外に出られませんよ」
「確かに……」
上下だぼだぼになるから当然NG。
だったら……
「うーん…………あ、そういえば確か…………うん、あった! これならいけるんじゃない?」
不思議そうに首を傾げる、たひの視線を感じながら僕はクローゼットを荒らした。
しばらくして、奥に仕舞っておいた箱を発見。
そして中を見れば、目当ての物を見つけて。
勢いよく振り返った。
「この制服ならたぶんぴった……」
「あなたは変態さんですかぁぁぁ!」
女子小学生の制服を持ってにこやかに振り返った僕は、たひの全力パンチを顔面で受け止め、壁に頭から激突したのだった。