表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/62

第7話

 僕は何か地雷でも踏んだのだろうか。

 目の前で死神が鎌を持って、微笑んでいる。

 こういうのを、絶体絶命って言うのだろう。

 冷や汗が流れる。


「あなたも怖がることがあるんですね」


「さすがにね」


 死んでも別にいいんだけど、死にたいとは思わないし。

 痛いのは御免だ。


「これがあれば、人間に負けるなんてことはありえません」


「まあ、そうだろうね。でも、そんなに大きいもの、ちゃんと使えるの?」


 キッチンの横幅いっぱいの刃。

 大人一人分はある、長い柄。

 さぞかし重いだろうし、使える場所は限られそうだ。


「甘く見ないで下さい。むしろ、私にしか使えません。いいですか? 一度、持ってみてください」


 彼女に渡されるがまま、鎌に触れる。

 いや、触れようとした。

 だけど、すり抜けた。

 まるで、そこには何もないように。

 

「どうですか?」


「凄いね。これって、ちゃんとここにあるんだよね?」


「勿論です。ですが、柄に触れられるのは私だけです。他の死神も触れられません。つまり、私専用の鎌という訳です」


 素晴らしい盗難対策だ。

 彼女は、誇らしげな顔をしている。

 

「使えるのは確かに君だけみたいだね。でも、使える場所は限られそうだね」


「心配無用です。この鎌は死神の鎌ですよ? そんな弱点、あるわけないです」


「そうなの?」


「はい。この鎌は、あらゆる法則を無視できるからです。そして、どんな物でも切り裂けます」


「どんな物でも?」


「はい。どんなに硬い物でも、どんなに柔らかい物でも。どんな場所であろうと、どんな大きさの物でも。試しにやってみましょうか」


 彼女は、そう言って、キッチンに置いてあったリンゴを指差す。

 祖父母から僕宛に、届いたリンゴだ。

 僕の背中側に置いてある。


 頷いた。


「では」


「……え?」


 彼女はそう言って、鎌を降り下ろす。

 一歩も動かずに、右手だけ動かした。


 つまり、鎌はリンゴには当たっていない。

 刃が当たる位置にいるのは、僕だ。


 迫ってくる刃が視界に飛び込んでくると、スパッと自分が斬られる瞬間が浮かんで。

 僕は思わず、目を閉じた。




「…………」 


「はい、上手に切れましたよ」


 優しい声で、目を開けた。

 彼女は、スキップでリンゴに近づいて、1つ摘まんで食べていた。



 あらゆる法則を無視する。



 その言葉の意味を理解した。

 想像を超える、何でもありの性能らしい。


 リンゴを手渡してくる、無邪気な笑顔に。

 僕は苦笑いを隠せなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ