表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/62

第6話

「僕が人を殺すのか……」


 正直、予想外だ。

 目の前の死神が人を殺したことがないと言っているのに、人間である僕が人を殺すなんて。

 しかも、よりによって僕に限って。


「まいったね。でもなんでそんなことが分かるんだい? やっぱり神は未来が見えるのかな?」


 彼女は首を横に振った。


「残念ながらそんな能力はありません。第一、未来が見えるなら生きててもつまらないですしね」


 死神にしては、らしくないことを言う。

 いや、それが死神らしいのか。

 死神は命を大切にする、と言っていた。

 つまり、生を楽しむってことか。

 

「なるほどね。確かにそうかもしれない。でも、じゃあなんで?」


「死神も未来は見えません。ですが、寿命は見えます。人がいつ死ぬかが見えるのです」


 彼女の紅い瞳が輝いた。

 死神の目か。

 どっかで聞いた話だ。

 どう考えたって寿命半分の価値はなさそうな能力だと思う。


「あの、私の話、ちゃんと聞いてますか?」


「聞いてるよ。人を殺せるノートの話でしょ」


「死神違いです!」


 意外と、色々詳しいみたいだ。

 まあ、1500歳になるらしいし、当然か。


「いいですか? 今から一週間後、7月14日。この日、あなたに関わった人の、全ての命が尽きるというのが分かったんです。このことの意味が分かりますか?」


「……凄く大変だね。なるほど、確かにそれなら僕が、一番の容疑者か」


 嘘のような話だった。

 だけど、彼女は真剣そのものだし、疑わないでおこう。


 そんな僕の態度に満足したのか、テーブル代わりのダンボール箱に手をつき、顔を近づけてきていた彼女は戻っていった。

 そして、正座に疲れたのか、足を崩した。


 次に、勢いよく紅茶を最後まで飲みきって、静かに段ボールの箱の上にコップを戻して。

 頷いた。


「そうです。しかし、まだ容疑者に過ぎません。実際あなたが殺るかどうかは分かりません」


「じゃあ君が来たのは」


「監視です。あとは、何か起こすようならすぐに止めれるように……」


 納得。

 頷いて、僕も紅茶を飲み干した。


 さて、と呟いて僕は立ち上がる。

 コップを流し台へ運ぶ。

 彼女も、ちょこちょこと小さな歩幅でついてきた。

 

「そこに置いといて。今、洗うから」


「分かりました」


 銀色のステンレスの上を、水が流れていく。

 スポンジを泡立たせながら、僕は彼女に質問する。


「いざというときは殺すって言ってたけど、どうやるんだい? 君は強くなさそうだけど」


「はぁ……それはさすがに死神を馬鹿にしすぎですよ。仕事で殺すこともあるんですから、それなりに強いですよ」


「でも窓を割ったとき気絶してたでしょ?」


「し、してません! あれは、ちょっと眠くなっちゃっただけです!」


 かわいい言い訳だ。

 むしろ弱そう。


「でも確かに怪我はしてなかったね、そういえば」


 派手に窓を割ったのに怪我はなく。

 けど足にちょっと刺さった硝子で怪我をする。

 そんな疑問の答えは、彼女がすぐに教えてくれた。


「あのローブはあらゆる衝撃をなくすのです。優れものです」


「それは便利だ」


 21世紀の秘密道具みたいだな。

 1着、1億円でも売れそうだ。

 

「そして」


 彼女が何もない空間を掴む。

 すると、まるでマジックのように、彼女の握った右手には、見たこともない、長く黒い棒が現れた。

 その先は、巨大な刃物だった。


「私にはこれがありますから」


 僕よりも大きな鎌を持って、彼女は小さく微笑んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ