第5話
どうやら僕は、死神に死の宣告をされてしまったようだ。
こんなに可愛らしい死神に。
「そうなんだ。ふふふ」
思わず笑ってしまう。
強がっているわけではない。
本当に面白いのだ。
目を伏せていた彼女が、顔を上げた。
真剣な顔付きだった。
「何を笑っているんですか。私は本気ですよ」
「いや……面白いなって思ったからさ」
「分かってますか? 私は本物の死神なんですよ。あなたは殺されてしまうんですよ……」
段々声のトーンが落ちていく。
こんなに、優しくて素直な娘も、中々いないと思う。
だが、死神だと言うのだ。
……本当に?
ここにきてちょっと疑いたくなってきたぞ。
「死神って、そんなに人の死を嫌うのかい? 殺したければ殺せばいいよ」
「命を軽く見ないでください。簡単に奪っていいものではないんです。命の重さを知っている死神は、誰よりも死を嫌います」
紅い瞳が、真っ直ぐに見つめてくる。
有無を言わせぬ、強い口調だった。
命の重さ、か。
「そうだね。命は大切にしないとね。それは確かに僕が間違っていた。でも、これから殺すと言ってきた死神に、そんなことを言われるとは思わなかったよ」
それが本当に、面白いなって思ってしまう。
矛盾。
とても分かりやすい矛盾だ。
すると、彼女は僕から視線を外した。
そして、紅茶を一口飲んで。
ゆっくりと息を吐く。
「まず言っておきますが、死神はよっぽどのことがなければ、人を殺しません。死んだ魂を冥界へ運ぶのが仕事です」
「殺すのが仕事じゃないのかい?」
「違います。それも勝手な人間の思い込みです。全く酷い話ですよ。私たちは良いことをしているのに、悪者みたいに扱って……」
まるで、仕事でやっているのに、文句ばかり言われるセールスマンのようだった。
死神もストレスが溜まるのだろう。
愚痴も募るようだ。
1500年分のストレス。
何万回自殺をしたくなるストレスだろうか。
考えたくもない。
「じゃあ具体的にどんな時に人を殺すの?」
「知りません。私は人を殺したこと、ないですし」
僕が小さく笑うと、彼女は言葉を付け足した。
死を司るというよりは、死の手伝いをするのが死神だと。
それでも、僕を殺すと言う。
「僕はどんなことをしてしまったのかな?」
それはそれは、とんでもないことをしてしまったのだろう。
例えば、挨拶の声が小さかったとか。
例えば、死神と名乗る少女を、少し怒らせてしまったこととか。
後者だろうな。
僕は紅茶をゆっくりと飲んで、答え合わせの時を待った。
彼女はやっぱり、真剣な顔付きだった。
「してしまったのではなく、これからするのです。あなたの周りの人、全員を、あなたはこれから殺す。そんな未来を防ぐために、私は来たのです」
一息で、彼女はそう言った。