第30話
「あのー。話をするならお風呂じゃなくてもいいですよね? むしろ、お風呂じゃない方がいいですよね?」
「何言ってんの、私は浴び始めたばっかりなんだよ? 勿体ないじゃん」
浴槽の中で、私と朱夏さんは向き合っていた。
私は、睨むような鋭い視線を送る。
そんな状況でも朱夏さんは
「裸の付き合いってやつさー」などと意味不明なことを言っていた。
狭いので、触れてしまう肌と肌。
しかし、意図的な何かを感じる。
わざと当てている?
その証拠に、朱夏さんはにやけた顔で、不自然に体を揺らして。
つられて水面も揺らいで、浴槽から溢れたりしている。
まあ、わざわざ言うつもりはないが。
「ねー、たひちゃん」
「なんですか?」
「さっきの続き。たひちゃんってこおちゃんのこと好きなんだよねー?」
「っ!? い、いや。そんなこと……」
「赤くなっちゃってー。かわいいなー」
「赤くなんてなってませんよ!」
だけど、ほっぺたに手を当ててみると確かに熱くて。
お風呂の温度は、夏だからぬるめで、言い訳には使えそうもなくて。
私は認めざるを得ない。
「まあ、もういいですよ。私は……氷さんのことが好きです……認めますよ」
「えー! 小さくて聞こえないなー?」
「殴りますよ!?」
「分かった分かった。好きなんでしょ? もうね、こっちが照れちゃうくらい分かってる、か・ら」
殴った。
「なんで殴ったの!? ちゃんと言ったのに! たひちゃんがこおちゃんのこと好きなんだって、ちゃんと聞いたって言ったのに!?」
「いいから黙ってください! 絶対わざとですよね!?」
「…………」
「黙らないでくださいよ!」
「へへへ」
「気持ち悪いですね……ってちょっと!」
気味の悪い笑いに、私がひいていると。
手を、変なところにまで伸ばしてきた。
「すべすべしたいい身体だねー。凹凸が少なくて触りやすいし……」
「い、いやぁぁぁぁ!」
……そこからとにかくいじられ続け。
精神的にも肉体的にも疲れ果てた私に朱夏さんが満足してお風呂から出るまで。
『お楽しみ』は終わらなかった。
「…………ちっ」