第3話
「い、痛いです……ゆっくり、ゆっくりお願いします……」
「すぐ抜いた方が楽だよ。ほら」
僕はそう言って、右手で躊躇なく硝子を引き抜いた。
ベッドに座らせた彼女の、小さな足の裏に小さく刺さった硝子を。
その傷と、同じ目線になるように座った僕が。
「いたーい!」
「大袈裟過ぎるよ。これ位しかないのに」
「……普通に一センチ位はあるじゃないですか。凶器ですよ、凶器」
手に持った硝子は実際一センチ程。
でも確かに、僕にとって大したことのない大きさでも、彼女にとっては大したことのある大きさかもしれない。
そのくらい、彼女は小さかった。
百五十センチあるか、ないか。
たぶん、ないだろう。
栗色の髪と紅い瞳が印象的だった。
「じゃあ温かい紅茶でも用意するよ」
何故、夏なのに温かい紅茶を出すのか。
それは、祖母が余分なくらい送ってきたせいであり、また、僕が紅茶を好きなせいであり、気まぐれのせいでもあった。
よって嫌がられるかとも思ったが、意外とすぐに、彼女は首を縦に振った。
「ありがとうございます。ところで私は何をすれば」
「別に座ってていいよ」
「そういう訳には……」
手伝いたいのか。
しかし、手伝わせるわけにもいかないし、第一、別にそこまで重労働でもない。
が、暇にさせるのも申し訳なかった。
「うーん……じゃあ、こうしよう」
僕は右手の人指し指を立てる。
そして、足の先から、フードを被った頭のてっぺんまで隅々見て。
言った。
「お風呂に入ってきなよ」
ガチャっと音がした。
音がしたと思ったとほぼ同時、彼女が部屋に戻ってきた。
濡れた髪に、タオルを雑に乗せている。
何故だろう? 心なしか、僕を睨んでいる気がする。
「どうしたの? 何か困ったこととかあった?」
「別に。そんなんじゃないですよ」
「あ、もしかして僕の服、大き過ぎたかな? でもそれしかなくて」
「っ! 別に大丈夫ですよ!」
彼女はぶかぶかのワイシャツを着ていた。
腕なんかは余り過ぎて、彼女の手が見えない。
それに、本当に大き過ぎるから、ズボンをあげていなかった。
でも、それでちゃんと隠れてるから大丈夫だと思ったんだけど。あぁ、そうか。
「そう言えば、パンツをあげてなかったね。今からあげ……」
「結構です!」
どうやら怒らせてしまったのかもしれない。
ノーパンでありたい年ごろとか、あるのだろうか。
女の子は難しいな、と思った。