第21話
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
僕と火射は教室の窓際にいた。
火射は窓枠に腰をのせ、髪をしきりに弄ったり、無駄に腕時計に光を反射させている。
そうつまり、火射はナルシストだ。
しかし、顔は整っていてサッカー部のエースという、天に恵まれた彼は、モテる。
ナルシストを差し引いても。
いやむしろ、ナルシストすら、彼ならばプラスになる。
「今日も金髪が輝いていて、まるで本当の朝の日射しのようだわ!」
という声が、毎日のように聞こえてくるくらいだ。
どうでもいいけど。
あ、さすがに、毎日は言い過ぎた。
噂によると、毎週月曜に言うよう、金を渡されているらしい。
ただのサクラだった。
そしてさらに、火射には嘘のような特徴がある。
それは
「俺のお婆ちゃんに任せれば余裕だ」
そう、彼の祖母がこの学校の理事長なのだ。
取って付けたような設定。
しかし、現実だ。
呆れるしかない。
今回は助かったが。
「だけど、どういう作戦で行く気だ?」
「ふっ。それは勿論……」
しかし、火射が言いかけた言葉を、チャイムが遮る。
ホームルームの時間だ。
「お楽しみだな」という声が、小さく聞こえた。
僕は、自分の席に座った。当然だ。人の席に座ったら大変だ。
僕の席は教室の端。
廊下側の一番前という不遇ポジションだ。
火射は窓側の一番後ろ。
つまり、対角線上で一番遠い。
ここで一つ気になったのは、火射の隣に新しい机が置かれていること。
今まで、彼の隣には席がなかった。
まさか…………。
「今日から急遽、転校生が来たぞー」
朝礼が終わり、席についた僕たちに担任が一言。
皆が戸惑いと歓喜の声を漏らす。
やっぱりそういうことなのか。
僕は溜め息を吐いた。
「みんなー静かにー。さぁ、自己紹介を」
「はい」
促された少女は、一歩前に出て。
こっちの世界に来て、何回目かの自己紹介をした。
「七夕 たひです。よろしくお願いします」
突然クラスに襲来した、死神。
しかし、見た目はかわいい人間の女の子。
制服は貰ったのか、この学校のものを着ている。
よって、
「うぉぉおぉぉおぉお!」
恐怖の感情など誰にも湧かず(そんなものは風評被害です! と、たひなら言うだろうけど)。
喜びに満ちた叫びで、教室が埋め尽くされたのだった。