第11話
モシャモシャ、モシャモシャ。
僕たちは、買ってきたサンドウィッチを食べていた。
さっき買ってきたやつだ。
ようやく食べることができた。
「まずは自己紹介からしようか」
棒立ちしていた二人を、無理矢理テーブルの前に座らせた僕は、取り敢えず場を仕切った。
サンドウィッチを食べながらだが。
「あ、私、海星 朱夏。朱夏ねえとか、もしくはヒトデちゃんでもいいよ! よろしく!」
僕の右手側に座る、オレンジの髪に、ヒトデの髪飾り(可愛いかは不明)をつけた朱夏が名乗る。
ヒトデちゃんとは、言うまでもないが彼女の名字から来たあだ名だ。
多くの人に呼ばせているらしい。
僕は呼ばないが。
「わ、私は七夕 たひと名乗る者です。よろしくお願いします」
そして、僕の左手側に座るたひが、同様に自己紹介をした。
どうやらたひは緊張しているようだ。
一方、朱夏はまるで緊張していない。
まあ、だいぶ昔のことだが、集会で生徒全員の前でスピーチをしたときすら、全く動じなかったような人間だから、当然か。
それどころかあのときは、アドリブで躍りまでして見せ、後でこっぴどく怒られたそうだ。
懐かしい。
「で、たひちゃんは、どうしてここにいるのかな? こおちゃんの家に、んー? 一体何者なのかなー? んー?」
朱夏は、顔を極限までたひに近づけた。
息がかかる距離。
当然、たひは萎縮してしまっていた。
というより、引いていた。
ドン引きだ。
当たり前だけど。
だって、さっき挨拶したばかりの他人に、鼻息を吹きかけるような女がどこにいるのだろうか。
ここにいるが。
そんなこと、ゴリラだってしねぇよ。
「まずは朱夏から自分について話せ」
「いて! 痛いよこおちゃん! ひどい!」
軽くチョップしただけだ。
大袈裟過ぎる。
顔を殴られて、壁に頭をぶつけたわけでもあるまいし。
「そんな強くやってないだろ。いいから話せ」
「こおちゃん、私にだけ冷たいよね……もしかして、私、試されてる!?」
なんだろう、凄くムカつく。
ジャングルに荷物を持たせず放ってやりたい。
それでも生還しそうなのが、恐ろしいが。
「……死にたいのか?」
「怒んないでってばー。冗談だよー」
…………はぁ。
朱夏といると溜め息が増える。
溜め息をすると幸運が逃げると聞く。
もしかしたら、彼女は僕にとって貧乏神なのかもしれない。
長年の付き合いだから、僕は慣れてしまったけれど。
たひはついてこれてないようだ。
「あ、あの、氷さんと朱夏さんの関係は一体……」
振り絞ったように、たひは言葉を発した。
すると、朱夏は胸に手を当て、答える。
「私は、こおちゃんの幼馴染みなの! 一応私が二歳上! 今年から大学生なのだ!」
ピースサインを掲げた朱夏。
そんな彼女からは、「ちょっぴり知能が足りないぞ!」みたいなオーラが、出ているような気がした。