第10話
「痛い……」
「すいません! すいません! 本当にすいません! 氷さんが、女子小学生の制服を集めている変態さんだと思ってしまったので、つい! 妹さんの服を預かっていただけなんですね」
「いや、まあ別にいいんだけどね……」
殴られた鼻と、思いっきりぶつかった頭が痛む。
結構痛い。
ロリコン疑惑を与えてしまった、僕が悪いのだけど。
いや、これは僕が悪いのか?
でも、まあいいや。
たひを責めるつもりはない。
「取り敢えず座ってて下さい。お水持ってきます!」
「もう座ってるけどね。水はいいから落ち着きなって」
「わ、分かりましたー! す、すぐに持ってきます!」
……そう言ってたひはキッチンへと駆けていった。
ドタドタと足音を立てて大急ぎで。
「……全然聞こえてないな」
コップの場所とかはちゃんと分かるのだろうか?
ガチャガチャと騒がしい音がちょっと怖い。
……様子を見に行くか。
僕が立ち上がる。
すると
「ピンポーン」
呼び鈴がなった。
こんな時間に珍しい。
今は日曜の昼。
「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン」
何回も鳴らしている。
普通じゃない。
そうだ。普通じゃない、このしつこさはもしかしたら。
「い、今出まーす!」
「あ、たひ待っ……」
たひが玄関へと走っていって。
ドアを勢いよく開けた。
開けた先には。
「やっほー、こおちゃん! と思ったら……」
オレンジ色の短めの髪。
ショートパンツに白のタンクトップ。
背が高く、スタイルの良い女がいた。
予想通りだ。
「誰、この子? ちょっと上がるよ」
女はにやにやしながら僕とたひを見比べて。
何を思ったか勝手に家へ上がり込む。
廊下はない。
すぐにリビングへと繋がるワンルームの部屋だから。
「ふむふむ……」
そして、女は辺りを指差しながら見渡して。
片目を瞑った。
たぶん、何の意味もない動作だ。
探偵ごっこでもしているつもりなのだろう。
そして、そんな瞑想にも似た無駄な動作の後、僕を指差した。
「見知らぬ女の子、騒がしい音、床に無造作に置かれた制服! つまりこれは!」
溜めをつくって一言。
僕の耳元で小さく言った。
「やっちゃった?」
………………はぁ。
溜め息しか出ない。
「やってない」
「本当に?」
「本当」
「じゃあこれは一体……」
なんか考え始めたので放置しておこう。
馬鹿は放っておくのが得策だ。
そう、そんな馬鹿より大事なのはたひだ。
「たひ? 大丈夫?」
「あ、あうー」
だが、たひは、混乱が極まったのか、喋ることすらままならないようだった。
玄関で棒立ちになってしまっていた。
さぁ、立ったまま動かなくなった二人を、僕はどうしたらいいのかな。
……はぁ。