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3.見当違いの思い込み

 あの日から、祐樹の一挙一動が気になって仕方ない。

 今まで別に気にもしていなかった祐樹の噂まで敏感に耳に入ってくる。


「相良、また一年の女子に告られたらしいぜ」

「あいつ、これで何人目だ?」

「脈がないのなんて分かり切ってるのによくチャレンジするよな」


 男子の噂話を聞いてしまって、愛結は一人悶々とする。教室の一番後ろの席で、愛結は頭を抱えていた。


(誰に告白されたんだろう。何人目ってどういうこと? そんなにいっぱい祐樹に告白してる女子がいるの? 知らなかった……)


 祐樹は、告白されたなんて、一言も愛結に言ったことがない。

 もし愛結が告白されたら、真っ先に自慢気に祐樹に報告するだろうに。


「愛結、どうしたの~? 難しい顔して」


 聞き知った優しい声に涙目になって顔を上げると、ショートボブの黒髪、優しい雰囲気のたれ目が目に入った。

 加奈は色白で身体の線は細いが、持久力が高いので長距離に向いている。

 見た目は誰もが見惚れる美少女なのだが、サバサバした性格で平気で変顔もしてくれる。

 そういうところも含めて、愛結は加奈が大好きだ。


「加奈~っ! 聞いてくれる?!」


 恋愛未経験の愛結からすれば、彼氏がいる加奈は恋愛エキスパートだ。

 師匠と呼ばせてほしいくらい。

 かくかくしかじかで、と祐樹との一件を話すと、加奈に鼻で笑われてしまった。


「あぁ。相良君が可哀想になってきた」


「なんでっ!? 今、悩んでるのは私だよ!?」


「だってさ、あんたたちいつも一緒にいるでしょ? それで、相良君は告白されても誰とも付き合ってないの。誰だってわかるでしょ。相良君が好きな人くらい」


「え。祐樹、本当に好きな人がいるの? じゃあ何で付き合わないのかな? あんなにモテてるのに! もったいない!」


 祐樹に好きな人がいる、ということを親友の口から聞いてちくりと胸が痛んだが、大切な幼馴染の恋は応援してあげたい。

 どうして、自分に相談してくれなかったのだろう。


「私にも言えない好きな人って、誰だろう。もしかして、禁断の恋とか?」


「はあ……本当、なんであんたは気付かないのかなぁ。この子にはハッキリ言ってあげないと駄目だよ、相良君」


 親友が遠い目をして溜息を吐いたことにも気づかずに、愛結は祐樹の恋を応援する方向で気持ちを切り替えていた。


 それでも、心の奥ではズキズキと今まで痛んだことのないところが痛んでいた。



 その日の放課後。

 愛結は陸上部の練習で、グラウンドを走っていた。

 ただ走る。無心に、ただ走る。

 心の内にある悩みは、走っている時だけ忘れられた。

 何も考えずに、ただただ風をきって走る。


「今日も愛結のフォームきれいだった~。普段から姿勢良いもんね」

「ありがとう。加奈も、今日のタイムすごくよかったじゃん」

「ちょっとランシュー変えてみたの。ここのメーカーのランシューすごく良かったよ」

「じゃあまた今度試してみようかな」

 部活終わりの更衣室で、加奈と二人で話す。

 愛結は、この時間がすごく好きだ。

「加奈~? 森田先輩が待ってたよ」

 後から更衣室に入ってきた同級生が、ニヤニヤしながら加奈に告げた。

「あ、ありがとう! じゃあね、みんな!」

 その瞬間、加奈は白い頬を真っ赤に染めて、すぐに荷物をまとめて先輩の元へ走っていった。

「ふふ。加奈、可愛いなぁ。完全に恋する乙女だよ」

 微笑ましく加奈を見送り、愛結は帰り支度を終えた。


 一人で帰ってもいいけれど、愛結の足は弓道場に向いていた。

 恥ずかしがらずにこの幼馴染に好きな人を白状してごらん、と言うために。


(私、祐樹の恋を全力で応援してあげるんだから!)


 一人拳を握り、決意を新たに弓道場にたどり着くと、祐樹と女子生徒が二人で連れ立っているところを目撃してしまった。

 ふわふわのロングヘアに赤いリボン、くりっとした大きな目は祐樹だけを見つめている。

 制服のリボンに入ったラインが青色ということは、一年生だ。

 一瞬、声をかけることをためらっていると、女子生徒が動いた。


「相良先輩、やっぱり諦められません。私、先輩のことが大好きなんです!」


 大胆な告白とともに、女子生徒が祐樹にぎゅっと抱き着いた。

 初めて目撃する、祐樹と女の子の抱擁シーンは、愛結にとってはあまりに衝撃的だった。

 その先の祐樹の答えを聞くこともなく、踵を返して走り出す。

 いつもは、走ればすべてを忘れられるはずなのに。

 祐樹と女の子が抱き合っている場面が頭から離れない。


 ――どうして、こんなに胸が苦しいの。


 無我夢中で走って、走って、走って。

 後ろから祐樹の声が聞こえた気がしたが、すべてを振り払うように走った。

 

 そして。


 キキイイィィ……――。


 物凄い音のブレーキ音が近くで聞こえたかと思うと、愛結の目の前には自動車の車体が近づいていた。


(あ。これは、避けられない……)


 その次の瞬間、愛結の身体は衝撃と痛みに襲われた。


 意識が消える寸前、愛結が思い出したのは。


『ちゃんと周り見ろ。危ないだろ』


 という祐樹の言葉だった。


 ――祐樹、いつも心配してくれてたのに。ごめんね。


 そして、愛結の意識は真っ白に消えた。


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