第二話 冒頭部分
ああっ、食べられたいっ!
第一話 願望
「うわあああああっ!」
私の目の前にゾンビの群れに襲われている男性がいる。男性とゾンビの距離はどんどん縮まり、今にも追い付かれそうだ。
「た、助けてぇ!」
「グガアアアアアアアッ!」
男性が涙ながらに助けを求める。だが残念ながら、その声に反応して手を差し伸べる人間はもうこの町にはいない。
私、以外には。
「はああああああっ!」
私は立っていたビルの屋上から飛び降りると、その勢いで男性に迫っていたゾンビの一匹に強烈な蹴りをお見舞いした。
「ガブアッ!!」
もともと腐っていたゾンビの頭は、私の蹴りに耐えることが出来ずに体から切り離されて地面に衝突し、潰れた。
……ごめんねゾンビさん。もっと食べたかっただろうにね。
「あ、アンタは!?」
逃げていた男性が私を驚愕の表情をしながら見る。さあ、その質問に答えてあげよう。
「はーい! 私はこの町の平和を守るためにやってきた、ゾンビバスタークヌギちゃんです! よ・ろ・し・く・ね!」
『ね!』の部分で横ピースをしながらウインクを決めると、男性は口をあんぐり開けている。今私が来ている服も、ピンク色の学生服みたいなコスチュームだ。いきなりこんな女の子が現れたら驚くだろう。
……ああ、すごい。助けてくれた相手が私を見て引いている。関わりたくないものを見る目で見ている。たまらない……
「グアアアアアッ!」
そうしているうちに残りのゾンビたちが私たちに向かってくる。
「あなたは逃げて! 私が食い止めます!」
「し、しかし……」
「早く!」
「……ごめん!」
男性は一目散に走って行く。……早く行ってよもう。
「さあ! このゾンビバスタークヌギちゃんこと、椚 千代子が相手だぞぉ!」
「ガアアアアッ!」
ゾンビさんたちに向かって決めポーズを取るも、彼らは反応してくれない。しょうがないなあ、もう。
後ろを振り返ってみると、まだ男性は私が見える場所にいた。……ダメか、少し戦うしかないかな。
「さあ、いっくよー!!」
掛け声と共に私は跳躍する。その高さ、実に4m。
「えいっ!」
落ちながら回転し、カカト落としを一匹のゾンビさんに叩き込む。罪悪感が私の胸を満たすが、まだ男性が逃げていないのだからしょうがない。
「てやっ!」
ゾンビさんを踏んだ状態で着地すると、掌底で別のゾンビさんを撃退し、続けて素手でゾンビさんたちを倒していく。
「えいっ、やあっ! ……まだなの、もう!」
流石に苛立ってきたのでもう一度後ろを見ると、男性の姿は完全に消えていた。
「やっとか……それなら」
私は再びジャンプしてゾンビさんたちから距離を取り、彼らを見据える。
「ふふ……」
これから始まることを想像すると、思わず笑みが毀れてしまう。口から涎が垂れ、顔が赤くなってしまう。いけないいけない。ちゃんと彼らを出迎えなければ。
私はゾンビさんたちの前で両手を広げ、彼らに宣言した。
「お待たせしましたゾンビさん。私の体を思う存分お召し上がりください」
……私の身体は、ゾンビを生んだウイルスに感染したにも関わらずなぜかゾンビにならず、代わりに理性を保ったまま人間離れした身体能力を持つようになってしまった。だが副作用として、『ゾンビに食べられたい』という願望を抑えられなくなってしまったのだ。
初めてゾンビさんを見たときの胸の高鳴りは今も忘れられない。あの腐った指に触られ、理性の無い両目が私を捉え、人間の時と同じ歯ながら、強靭なアゴで私の肉を噛み千切られる光景を想像したら、全身が熱くなってしまう。
さらに大勢のゾンビさんたちが私に群がり、お腹を食い破り、私の内臓を我先に咀嚼しようとする姿が現実のものになればといつも願っているのだよ。わかるかね? 私の指を、足を、肩を、乳房を、耳を、目玉を、そして脳を余すことなく食べられるというのはまさに至福と言う他無いのだ。そして私の願いが今、現実のものとなり……
====================================
ここまで読んで、私は原稿から目を離した。
「おや、お気に召さなかったかな? 私としては会心の出来だったのだが」
目の前のエミはいつも以上に不気味な薄笑いを浮かべている。……なんか腹立たしい。
取りあえず色々突っ込みたい。
「あのさ、エミ」
「なんだね?」
「なんなのこの設定!?」
うん、まずはそこだね。
「何だと言われても、ゾンビに食べられたい願望を持った少女が主人公だと言っただろう」
「うん、それはわかった! でも何でどっかの魔法少女みたいな感じなの!? こういうの趣味だったの!?」
「ゾンビものには魔法少女がつきものだろう?」
「聞いたことないけど!?」
久しぶりにエミに振り回されている気がするが、まだ私は突っ込みきれてない。
「あとさ! なんか主人公のキャラがムカつくんだけど! なんなのこのぶりっ子!?」
「魔法少女と言えば、ぶりっ子だろう」
「百歩譲ってそこはいいとしても、途中から完全にエミになってたよ!?」
「なに!? そんなバカな!!」
……気づいていなかったのだろうか。
「ふーむ、少し私の色を出し過ぎたか」
「まあ、それは否めないね……」
「わかった。これを基に少し練り直そうか。済まなかったねルリ」
「い、いや、大丈夫だよ」
まさかエミはまだこれを書き続けるのだろうか。そしてまた私に見せてくるのだろうか。
正直言って、不安しかない。