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生まれた先は英雄の子  作者: KB
第二章 幼年期
24/24

四天王

一話から加筆修正したので良ければ読み返してみてください。

 俺はこの異様な程にピンク色に染まってしまった空間に耐えきれず、横目で地面に平伏している三人の姿を見た。


「………」


 マルルカントはこちらを見る事など無く、平伏しながらも女神様にのみ注意を払いながらすぐさま逃げれるように退路を確認していた。

 シャルとウィズに関しては、それはそれは女神様に対して失礼にあたるほどの顔をしていた。強いて言うなら、鬼とナマハゲを足して二で割ったかのようなひどい顔だ。


『愛しの君?』


(はて? このグラマラスなお姿をされておられる女神様は、いったい何を仰られているのだろうか?)


 俺が目の前で頬を朱色に染めながらモジモジし始めた女神様を見つめながら考えていると、女神様は続けて喋り始めた。


『エフィラエルが御身のお力を感じたなどと神界で幾度となく申しておりましたが、まさか事実だとは思ってもおりませんでした』


 まず大前提として、俺はそのエフィラエルさんとやらを存じ上げていないのだが、女神様は何か勘違いをされておられるのではなかろうか。


『真面目すぎた性格が祟ってついに妄想癖が発現したかとも思いましたが、こうして御身に呼ばれ、その御姿を拝見できた以上は、このフィーネ、心の底より安心致しました』


 こちらとしてはこの状況に全く安心も安全性も見出せないのだが、このままでは埒が明かないと思い女神様に聞きたいことを聞くことにした。


「ぁ――?」


(ん? ちょっと待てよ? この女神様、さっき真面目な性格がどうのこうのって言わなかったか?)


 口を開きかけたその瞬間、俺は女神様の言葉に何か引っかかる所があった。


『どうかされましたか?』


「あ、い、いえ……」


 耳ざとく俺の言葉を拾っていた女神様の問いかけで、俺は思考の渦から引き揚げられた。


(いや、今はそのことは置いておくか)


 取りあえず、この場を乗り切らなければ今後なんてないのだから、軽く引っかかっただけの疑問は放置しておくことにした。


「あ、あの、女神様?」


 今は、最大の疑問である現身なしに女神様が現れてしまった理由を聞かなければならない。


 普通、神や悪魔といった高次の存在は下界にその身のままに干渉できないというのは物語での鉄板だろう。この世界でも例に漏れず、神や悪魔が下界に干渉してくる際には、己の神格を受け止めることのできる現身を通して干渉してくるのが常識である。まかり間違っても、女神さま本人が登場してしまって良い訳がない。なぜなら、創造神やその他の神々が世界を生み出した時の下界の器は、神その者や欲の塊である悪魔を受け入れることができるようにはなっていないからだ。


 要するに、ここでの女神様の登場は俺がその身に神を宿そうとしていたことの万倍やばい状況だということだ。

 俺が死ぬだの、ブルネス領がやばいだの、魔族がいるだのを取り越して、世界規模でやばい。


 とすると、だ。女神様には機嫌を損ねることのないように接し、可及的速やかに帰っていただかなければならない。


『これはこれは、愛しの君。貴方様ほどの御方に様付けで呼ばれるほど、このフィーネ、耄碌してはおりません。今までのように、フィーネとお呼びください』


(っだぁぁっっ! 話が通じてないっ!)


 というか、恐らく俺は、この女神様との間で何か重大かつ大変な齟齬があるのではないだろうか。


 いや、きっとある。何処か俺が知らないところで、知らない俺が何か恐ろしいことを仕出かしてきたような、そんな気がする。


『愛しの君。貴方様ほどの御方の事です。なぜ私が現身なしにこの世界に現れることができたのか疑問に思われているでしょう』


 頭の中で俺と知らない俺とが猛烈な勢いで喧嘩をしている中、豊穣神フィーネは、まさしく今俺が聞こうとしていた話を自ら喋り始めてくれた。


『それは――』


「それは?」


 手段を聞いたならば、即こちらの事情を話しておかえりいただこう。そうしよう。


『つまり――』


「つまり?」


 うん、なんかこれ以上この女神様には喋らせてはいけないような気がしてきた。

 このまま喋らせていると、「愛の力で成し遂げました!」とか言って、妙に人間味に溢れたドヤ顔でとんでもない事を引き起こしてそうだ。


『ずばりっっ―――



 愛の力ですっっ―――!!』


 ほらみろ。


 俺はこの時、『シャルには神界で女神様から癒してもらって、あわよくば加護を貰えないか試してもらおう』と数分前に調子に乗って魔法を発動し始めた俺を、助走をつけてぶん殴りたい気持ちだった。


『貴方様を想う愛の力により、不肖フィーネ、現世に顕現いたしました!』


(ふっふっふっ。もぉいやだ、この人ぉ……)


 俺はどこで道を踏み外したのだろうか。

 前世20年、今世5年。真面目とは言えないがそれなりに努力をして生きてきたつもりなのに、その仕打ちがこれとは、神様も意地がお悪いらしい。


 そんな俺の現実逃避も女神様は何のその。


 ふんすっ、といった感じで握りこぶしを胸の前に持ってきて、私、頑張っちゃいましたっ、とでも言いたげなドヤ顔をしている女神様は、さっきまで神々しいオーラをその身に纏いこちらを圧倒していたその人とは思えない程に人間味に溢れていた。


『エフィラエルが何やら喚いておりましたが、貴方様に会うこと以上に優先する事等ありません。故に、全てを彼女に任せてまいりました』


 と。続けて女神様はそんな事を宣う。


「え? それは……」


 もう、このフィーネという名のポンコツ女神がどんな理由で顕現出来たのだとしても、俺は無理やり話を進めることにした。


『大丈夫かということでしょうか?』


 さっきまで人間臭かったポンコツ女神は、いつの間にか先ほどまでの神々しさを身に纏い直しており、俺は思わず息を飲み込んだ。


 何だかんだで、この女神様は俺の意志を汲んだうえで話を進めている節がある。

 取りあえずはその女神様の意志をありがたく受け取って話を聞くことにした。


 その(かん)、他の三人はというと、相も変わらず三者三様の表情をしていた。


 俺はそんな三人の心の内など脇に置いておいて、この女神様が顕現したことによる世界への影響に耳を傾けることにした。


『はて? どうでしょうか? いくら彼女とはいえ「豊穣」の権能は持っておりませんから、今頃この世界のどこかでは土地が干上がっているのではないでしょうか?』


 全 然 大 丈 夫 じ ゃ な か っ た


 むしろ話を聞けば聞くほど悪い方に向かってるような気さえしてくる。


『あぁ、貴方様は心配されなくても大丈夫ですよ? この辺りは私が直接降り立ったのですから、むしろ今まで以上に栄えることになるのではないでしょうか?』


 いや、まぁそれならそれでありがたい事ではあるが、論点はそこではない。


『それに、干からびるのは私が降り立った地より最も遠い地。今頃、南の方では大変な干ばつに見舞われているのではないでしょうか?』


 あっ、それならいいや。


 理由はいずれ分かるとしても、エリュシャン王国やその同盟国が無事ならばそれでいいだろう。

 英雄の子とはいえ、できる事には限りがある。それに、俺にはまだ地位も人脈も力もない。そんな遠方かつ仮想敵国で何かが起こっているとしても、何の実感も湧かないというのが正直なところだ。


『とはいえ、あまり長く留まり続けても、この地に悪影響を及ぼしかねないのもまた事実ではあります』


 神々しい方のオーラを纏った女神様は悲しげに目を伏せながらそう言った。


『それに貴方様に迷惑を掛けてしまうのは本意ではありません』


 うんうん。なら、さっさと愛しの君()の頼みを聞いて帰ってはもらえないだろうか。


 いくら神様が直接来てるからとはいえ、さっきから俺の魔力はすごい勢いでダダ漏れになっているし、その影響からくる疲労のせいか女神様の放つプレッシャーみたいなのが直接俺に当たって胃がキリキリ痛むんだ。ほんと。


『よって、今から貴方様の術に則り、願いを聞いて神界へと帰ることにいたします』


 そう言って、豊穣神フレストフィーネは居住まいを正して俺に一段階強くなったプレッシャーを向けてきた。

 ようやくその気になってくれたようだ。


『神々の愛し子ルードよ、汝は私に何を望み、その対価として何を差し出す』


 さすがは神様といったところか。父であり、英雄でもあるフォードが一度だけ見してくれた本気の覇気なんて目じゃないほどの息苦しさだ。


「ルー、ド、さま……」


 静まり返ったその場に、俺以外の声が響き渡ったのはその時だった。


 声のした方に顔を向けると、今にも崩れ落ちそうな態勢をしたシャルが必死にこちらににじり寄って来ていた。


「お、やめ、下さい。ルード、さま……」


 シャルは神の放つ覇気に()てられながらも必死に俺に呼びかけていた。


『何ですか貴方は』


 俺が返事をせずにシャルを見ていたからだろうか、女神様は声に少しの怒気を混ぜてシャルに話しかけた。


「わ、たし、が………、何者、か、など、些細な、事」


 そう言って、シャルは俺でも立っているのが苦しい神気が充満したこの空間で、その体を奮い立たせるように女神様を一睨みしてから立ち上がった。


「私は、ルード様の、モノ。モノ風情が、主の、手を、煩わすなど、言語同断。故に貴方は、お呼びではないと、そう言いたい、の、です」


『魔族風情に穢され、このお方の手を煩わせておいてよく言えたものですね。貴方は』


「ふっ」


 シャルはそう女神様を嘲笑った後、俺に蕩けた笑みを見せてこう言った。


「ルード様。私たちは、貴方様の、モノです。貴方様が、いくら、私達の事を、思って、くださって、いたとしても、私達は、それを、変える事は、ないでしょう」


 シャルはそう言って、いつか俺が戯れに作った試作型の小刀を手に女神と相対した。


「ですが、貴方様が先ほど見せてくださった、私への慈しみ。私は、死しても、それを忘れることは無いでしょう」


 姿勢を正し、はきはきと喋れるようになっていくシャル。


「私達では貴方様が歩む覇道の手助けはできないかもしれません。ですが、いいえ、だからこそ、貴方様の歩みを阻害させるようなことはあってはならないのです」


『貴方は何が言いたいのです』


 女神が訝しむように形の整った眉を寄せ、シャルに問いかける。


「私風情が穢れたくらいでルード様に対価を求めるなど笑止千万」


 シャルはそう言って女神様の方からこちらに向き直ってこういった。


「ですので、ルード様。私如きに何かをしていただく必要等ございません。そのお気持ちだけで私共は嬉しいのですから」


 中途半端に回復した体で、シャルはさわやかに笑って見せた。


『ふ、ふふふ』


 そんなシャルの心の内を聞いていた女神様は、手を口元に寄せ笑っていた。


「何がおかしいのです」


 そんな女神様の態度にシャルは食って掛かった。


『そんなに、このお方のお手を煩わすのが嫌なのですね』


「そうです」


 即答で答えたシャルに、女神様は質問を投げかけた。


『貴方にとって、このお方はどのようなお人なのですか?』


「神」


 これまた即答するシャルに、女神様はあらあらといった表情を見せた。


『目の前に本物の神がいるというのに、とんど不信心者ですね』


 窘めるような事を言っているのに、顔は面白がっている女神様。


 いつの間にか、辺りの雰囲気が柔らかいものに変わっていた。


「私にとってはルード様が全てです。それ以外の神などルード様の覇道を彩る明かりでしかありません」


『ふふ、そうですか。私たちが明かり――』


「そうです――」


 俺を蚊帳の外にしてポンポンと話は進んでいく。


 どうも、居た堪れない気持ちになって周りに気を配っていると、突然女神様が話しかけてきた。


『愛しの君』


 慌てて前を向いて女神様を視界に入れると、その腕の中でシャルが眠りについていた。


『この狂おしいまでの主従愛を持った女性を、貴方様は救いたかったのですね』


 そう言って、女神様はシャルをこちらに手渡してきた。


『安心してください。私が貴方様から何かを貰い受けるなどありえないこと。先ほどは形式に則ってやってはみましたがどうも落ち着きません』


 女神様はそう言いながら離れ際に俺の額に口づけを落とした。


『少し早いですが、貴方様には私の加護を落とさせていただきました。いつの日か貴方様がお力を取り戻されるまで、このフィーネ、全力で手伝わさせていただきます』


 そういってふわりと離れていく女神様を眺める俺。


『あ、後、誠に勝手ながらその女性にも私の加護を授けました。少し、私に似ているところがございましたので』


 そんな風に言いながらはかなくほほ笑むフィーネ(・・・・)を見て、俺は何事かを呟いていた。


「手間をかけたな、フィーネ(・・・・)


 俺の口から出たとは思えない程の尊大な言葉に俺が唖然としていると、その呟きを拾ったフィーネ(・・・・)は驚いた顔をした後にこう言った。


『いえ。この身この心、すでに貴方様の物なれば、この程度の事、些事にすら入りません』


「そうか………」


 釈然としない気持ちのまま神界へと帰っていくフィーネ(・・・・)を見ていると、消えていくその刹那に何事かを呟いたのが聞こえた。


『いつまでもお待ちしております、――――(・・・・)よ。いつまでも………』


 そう呟きを残しながら天に昇っていく。


(帰った、か………)


 そう言って完全に消えていった女神様(・・・)を見送った俺は、さっきまで何を考え何を口走っていたか思い出せず、疑問に思いながらもシャルを起こすことにした。


「シャル」


 そう喋りかけながら軽く体をゆすると、シャルはすぐに目を覚ました。


「…ぅん? ルードさま?」


「あぁ」


 その言葉にうなずき返すと、ばっと音が出るような速さでシャルが腕の中から飛び出した。


「も、申し訳ありません!! まさかこのような失態を犯すとはっ!」


 そう言ってしきりに頭を下げてくるシャルに、いまだ戦場であると注意を促そうと口を開きかけたその時。


「なんだ、お前はこんな餓鬼に手間取っていたのか、マルルカント」


 突如として、抑揚のないそんな声が聞こえたかと思うと、俺の体は宙を舞っていた。


 声が聞こえてから宙を舞うまでの一瞬で見えたのは、漆黒の鎧をその身に纏い、黒髪を後ろに流した目つきの鋭い人族によく似た男の姿だった。

マルルカントェ……… 空気になっとる……


意味深な言葉を残すフィーネ。

新たなる敵!? 謎の黒髪の男。


と言ってもどちらも伏線としては二流・三流の張り方になってますけどね笑

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