表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれた先は英雄の子  作者: KB
第二章 幼年期
23/24

愚王

お久しぶりです。


※2017/2/9改稿

 命を『賭ける』な。→『捨てる』な。に表記変更。

 後々の物語に矛盾が出てくるので。

 俺は『アキレウスの鎧』の腰に付いていた炎剣を抜き、正眼に構えた。


「なんですかぁ? それは」


 マルルカントが首を傾げながらフラフラとこちらへと近づいて来る。


「なんだろう――なっ!」


 そう言い、一瞬の内にマルルカントの懐へと入り込んだ俺は、から竹割りの要領で縦に剣を振り下ろした。


 ズバッッ ボオォウゥッッッッ


 しかし、そこに手応えは感じられず地面を数メートル切り裂いて燃え上がらせただけに終わった。


「おやおやぁ。これは、これはぁ」


 にやにやとしながら先ほどいた場所から横に数メートルの位置にマルルカントは無傷で立っていた。


「すげぇな」


 俺は思わずそう呟いていた。


 『アキレウスの鎧』。

 ギリシャ神話でアキレウスが母テティスからもらった鎧であり。ヘクトールへの復讐を誓った際に着けた鎧である事から。この鎧はアキレウスの死後様々な災厄をもたらした鎧だとされている物だ。

 効果としては能力値を上げるところで「絶対追尾」や「軽重走破」など素早さと防御の面において類を見ないほどの性能を誇っている。

 でも、その反面、「英雄の憎愛」や「魅了の力」、「底知れぬ誓い」等、色々と精神的に昂ぶるものや、相手との一騎打ちを強制するモノなど、対多数の戦では使いづらいが……。


 何故異世界で地球の、しかも一地域の英雄神が出て来るのかは聞かないでほしい。

 神なんてものは何処にでもいて、何処にもいない存在なのだから。


 そんな鎧を着けた上で、親から受け継いだ地力も含めてかなりステータスが上がっている俺の初手を、こうも易々と避けられるとは思っても見なかった故にそんな言葉が出て来た。


「ちょぉっと速いみたいですねぇ〜。流石のワタシでも焦ってしまいましたよぉ」


 そんな事を言いながらもその顔は嘲りの笑みを浮かべて止まない。


「どうやった? いや……」


 俺はそう言った瞬間、先程の自分の振り下ろしに違和感を覚えた。


「ユニーク系統、か……」


「おやおやぁ、たったあれだけでバレるとは」


 俺がそう呟くと、にやにやとしていたマルルカントの顔から表情が抜け落ちた。


「どうやら私は、貴方の事を見くびり過ぎていたようだ」


 マルルカントはそう言いながら、ゆっくりと舐めるような視線を俺に向けて来た。


 シュザッッ


「ちっ」


 その瞬間を狙ってシャルが振り抜いた剣筋は、先程の俺と同様何もない空間を切り裂いた。


 タタッ


 マルルカントの背後からその首筋に短刀を振り抜いたシャルが、そのままの勢いでステップを刻みこちらに跳躍して来る。


「申し訳ございません、ルード様。折角のチャンスを活かすことが出来ず」


 そう言って俺の半歩前で構えを取りながら謝罪をした。


「いいさ、僕の初手も外れたんだ。それよりも……、あれは…」


 俺はそう言って、シャルが振り抜いた地点から遥か後方5メートル以上先にいるマルルカントを見て確信したように言う。


「『私と共に緩やかにスロウス・ウィズ・ミー』か……」


 俺のその言葉に、マルルカントは再度睨め付けるような視線を俺に送って来た。


 『私と共に緩やかにスロウス・ウィズ・ミー


 その技が、マルルカントが『愚王』と呼び称される証たるもの。


 『愚王』マルルカント。

 魔族であり、父であるフォードが討ち取った四天王と同格の力を持ちながら軍に属さず、たった一人で王を名乗る者。

 彼の渾名となっている『愚王』とは『愚かしき最たる王』。

 たった一人で魔王軍と戦い、魔王の下まで到達しておきながら、その目前で踵を返し魔族領の端に一人城を作り上げてそこに住み着いた変わり者。そのことから、『魔王様に従わない愚か者でありながらその能力は万をも凌ぐ貴重な男』と魔王の側近に言わしめた男。


 彼の使う魔法はその全てが他者へと影響を及ぼすもの。如何なる耐性も結界も装備も効かない不可思議な魔法を使う事で知られている。


 そして、先ほど使った技『私と共に緩やかにスロウス・ウィズ・ミー』とは、相手の五感とあらゆる感知系魔法に影響を及ぼす対人戦においてこれ以上になく厄介な魔法。


 彼はこの不可思議な魔法を使い、万を越す魔王軍を退け無傷で魔王の前まで現れたと言う。


「どうするか……」


 『真面目な天使の地上録(リ・レコル・ド・ソル)』で魔族のことを調べていた時、軽く見かけたことはあったが、その時はあまり気にかけてはいなかった。

 だから、まさかここまでやっかいな能力だとは思ってもいなかった。


「どうされますか、ルード様」


 シャルが油断なくマルルカントに対して短刀を向けながら聞いてくる。


「あの能力の有効範囲と対処法はどうだったか……」


 俺はそう呟きながらマルルカントの隙を伺う。


「『倦怠空間(アンニュイフィールド)』」


 突如として異質な空間がマルルカントから広がった。


「引けっ! シャル!!!」


 俺とシャルは即座に距離をとった――



 ――はずだった。


「ぐふぅっっっ!!」


 少なくとも、数メートル分の距離を取ったはずだった俺の目の前にはマルルカントの姿があり、彼の膝は俺の鳩尾を的確に捉えていた。


 ドッ ガッ ズザァァァァッッ


 恐らく、魔力によって強化されたであろう人外の威力を誇る膝蹴りが、容赦なく俺に繰り出され、俺はそこから更に数十メートル後方へと蹴り飛ばされた。


「ぐぎっっっ!!」


 吹き飛ばされ受け身を取るべく体制を立て直そうとした俺の下に、同じようにして吹き飛ばされたシャルが飛んで来た。


「糞がっ! 『蜘蛛の巣』!!」


 純魔力で編み込んだカーボンファイバーより遥かに強力な魔力糸を使って特大の蜘蛛の巣を作り、それをシャルと俺の間に張り巡らせる。


 ヌルリ


 いつもならスムーズに編み込めてコンマ数秒で出来上がるはずの技が、水中で武器を振るうかの抵抗の後で出来上がる。


(ちくしょうがっ! 阻害系はこれだからっ)


 心の中でそんな悪態をつきながらも、飛んで来たシャルを絡め取り俺の横に降ろす。


「ぐふっ、ごほっ、申し訳ありません、ごはっ」


 明らかに見た目以上のダメージを負ってしまっているシャルに急いで回復魔法を掛けて、この場を下がるように言う。


「なり、ません。ルード様。あの男は、1人で手に負えるような相手では、こほっ、ありません」


 そう喋るシャルを見て俺は思った。

 普段なら、応急処置程度の治療であろうと、俺が使えば完治させることが可能であるはずだった魔法が、マルルカントの使う技のせいかかなり精度が落ちている。


「いや、駄目だ。少なくともシャルではあいつとは戦えない」


 ゆっくりとこちらに歩いてくるマルルカントを視界の隅に入れながら、俺はシャルを説得する。


「それ、ならば。囮として、ルード様の為ならば――」


「駄目だっ!!!」


 俺は馬鹿なことを言い出したシャルを窘め、諭すように言う。


「良いか。こんな所で、しかもあんな訳のわからないトチ狂ったような奴との戦いで、いやそれだけじゃない、今後いかなる相手との戦いでもそうだ。


 簡単に命を捨てるな」


 俺は殊更真剣に、かつ怒気を孕んだ口調でシャルに命令した。


「申し訳ございません。主命、確と承りました」


 一瞬の身震いの後、唇を噛み締め、手のひらに爪の跡ができるほど両手を握り締めたシャルは深々と頭を下げて言った。


「しばらくの間シャルには休憩していて貰う」


 俺はそう言うや否や、シャルの返事も聞かずに詠唱を始めた。


「【世界の豊穣を司り、古よりこの世界の誕生を見守りし神々の長よ、我ルード・フォン・アストラーゼの名の下に願い請う】」


 本来であれば、俺には魔法を使うにあたって必須である詠唱という過程は必要ない。

 そもそもからして、『無詠唱』のスキルがあるし、それでなくとも『思考の代理人(サブブレイン)』で唱えておけば待機状態にしておけるし、もっと言えば『魔導の書(グリモワール)』を出せば『魔法名』を唱えるだけであとは勝手に発動してくれるからだ。


 だけど、そんな俺でも、いやこの世界のどんな生き物であろうと絶対に言葉を紡いで発動しなければならないものが2つある。


「【豊穣神フレストフィーネの御前に、この者シャルル・ヴィアルリィの御霊を送る】」


 1つは、精霊魔法とその派生である精霊武装。

 理由としては意思ある存在である精霊に対して、自らの魔力と言葉によって願い、それを対価に自然を書き換え魔法として発動して貰うから。


「【叶うならば、我の魔力と格を糧に、そのお力を振るわれることを切に願う】」


 もう1つは、自らの魔力と神格を糧にこの世ならざる者をその身に宿し振るう魔法。

 宿すのが神であれば、遥か昔に神々が世界を創り出した時に使われたと言われている『神域魔法』。

 宿すのが悪魔や魔神などであれば、この世と自身の身に破滅をもたらす『壊滅魔法』。


「なりませんッッッッ!!!!! ルード様ッ!!」


 ただし、前者の魔法は今の俺なら安安と使えるような魔法なのに比べて、後者の魔法はそうではない。

 なぜなら、少なくとも5歳の時に行われる「加護の儀」を終え、神殿で何年もの修行を行なった上位の格を持った神官か、聖者や聖女の職を持ったものが、何年もの間魔力を貯め続け、そして自分に加護を与えてくれた神に幾日も祈り続けてやっと使うことのできる魔法だからだ。


 要するに、簡単に言えば。


 俺、使えば、死ぬかもしれない。


 という事だ。


「ルード様ッッッッ!!!」


 神々が地上に降り立つにあたって必要となるのは現し身。

 今、俺の周りには魔力の無い者でも視えるほどの魔力が渦巻き、天然の防壁になっていた。


「何故ッ! 何故ッ!!」


「ルード様っ! 何故、『精霊武装』をっ!」


 天に昇りながら光り輝く魔力の行く末を見ていると、シャルと、『神域魔法』を使うにあたって俺の身から弾き出されたウィズが鬼の形相で防壁を攻撃していた。


「君は死ぬつもりですかぁ?」


 ふとそんな中で、そんな声が聞こえた。


「そんなつもりはないさ」


 声のした方を見ると、先程まで此方に歩いてきていたマルルカントが、倍以上の距離を置いて魔法の詠唱を絶え間無く唱えていた。


「では、何故ぇ?」


 おどけた口調でそう俺に問いかけてくるマルルカント。

 しかし、その言葉の奥底には拭いきれない恐怖の感情が見え隠れしていた。


 例え魔王級であろうと神は別格の存在であるようだ。


「そう、恐がるなよ『愚王』」


 俺は優しく微笑みながら言った。


「今から降ろす神は戦神じゃない、どちらかと言うと生命神よりの穏やかな神様だ。お前が何もしなければ、命だけは助かるんじゃないか?」


 俺はペラペラと思ってもいない事を話す。

 実際、神々が魔族の存在を許すかなんてわかるわけがない。中には魔族も須らく私達の子供だと主張する神もいるみたいだし、反対に魔族とは魔神の尖兵で侵略者だと言う神もいると聞く。

 これから、来られる豊穣神フレストフィーネがどちら側の神かは知らないが、攻撃したらタダで済まないことだけは確かだろう。


「愚かです。君は私より遥かに『愚王』を語るに相応しい」


 周囲の魔力が彼を守るように渦巻くに連れて、喋り方が二転三転していく。


「ははっ、面白い冗談だ」


 俺は軽く笑いながら言葉を返す。


「お前を殺して『愚王』の名を受け継いだとしてどうしろって言うんだよ」


 嘲笑を浮かべながらマルルカントに対して軽口を叩く。


「なら、私が紡いであげますよ。 私より遥かに愚かな少年がいたと言う事を、私みたいな者を倒すためにその身を滅ぼした少年がいたと言う事を」


「よくもまぁ、そんな事が言えるもんだ。思ってもないくせに」


 互いが互いを嘲笑いながら言葉を交わし合う。


「ルード様ッ! おやめ下さいッ!! 私なんかの為にッッ!!」


 シャルが黒曜石のような黒い瞳から滂沱の如く涙を流しながら、防壁に縋り付いて言う。


「まぁ、大丈夫じゃないかな。そんな気がする」


 俺は、無根拠で無責任な言葉を返した。


「ルードさ――」


 ガーン ガーン


 尚もシャルが何か言おうとしたそのタイミングで、魔力の昇った先、遥か上空で小さく鐘の音がなった。


「――っ!」


「「「!?!?」」」


 その瞬間、俺以外の3人は地にへばりつくように平伏していた。


 ガーン リン ガーン シャリン


 遥か上空で聞こえていた鐘の音は、その音が繰り返されると共に地上へと近づいてき、その音に紛れるようにして鈴の音と薄い絹を擦り合わせるような音も聞こえてきた。


 シャリン シャリン シャリン


『私を呼んだのは貴方ですか? 愛しの君』


 鐘と鈴が織り成すハーモニーの間から姿を見せたのは、後光が眩しい1人の女性だった。

 髪は膝裏まで伸び、色は神々しいまでの金色。此方を捕らえて離さない瞳の色はエメラルドにも似た翡翠色で構成されており、一度見たら目を離せなくなるような美しさを秘めていた。顔の造形はこの世のものとは思えないほど精巧に作られており。体の起伏も世の男を魅了してやまないほど整っていた。


『どうかしましたか? 愛しの君』


 シャリン


 そんな女性がこてんと首を傾げると、両耳につけられた鈴のピアスから音色が奏でられ、つい先程まで戦いの最中で高揚していた心が、すぅっと落ち着くのが感じられた。


『愛しの君、貴方の呼びかけに豊穣を司りし女神フレストフィーネは参りました』


 そんな、神々しさ溢れる女性――豊穣神フレストフィーネは、俺にその整った顔を向け両の頬を朱色に染めながら自らの右手を左胸に添え、軽くお辞儀をした。


「女神、様?」


 俺は多分この時、20数年間の生きて来た中で、最も間抜けな面をしていたと思う。


『女神様などとお戯を、私の事はフィーネとお呼びください、愛しの君』


 だって、命を賭けてまで呼び出した筈の神様がやけに好意的で、何故か俺の事を「愛しの君」とか言ってるんだから。

ほらね? 色々な方に突き抜けてるでしょう?


まぁ、御都合主義が出てしまっているように思えますが、フィーネさんは戦を司る神様ではないと言うことだけは覚えておいてくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ