討伐軍
シャドバ始めました。
※2017/2/9改稿
アストラーゼ領を出た俺達一行は、ブルネス領から来た兵士を担いで街道を走っていた。
「あ、あのっ………」
俺の背に負ぶさりながらおどおどしているフランが声を掛けてきた。
「ん? どうかした?」
「あのっ、走れ、ますっ。もうっ、大丈夫ですっ」
相当なスピードで走っているせいか、それとも俺自身の体重移動が拙いせいかは分からないが、上下にゆっさゆっさ揺られながら懸命に声を出す。
「気にしなくていいっていったろ? これは訓練の一貫なんだからさ」
「でも………」
当初はフランも含め全員で街道を駆けていたが、やはりそこは体力の差が大きいのか、フランは早々に根を上げてしまい、そこからは俺の背に負ぶさる形で移動を続けていた。
まぁ、フランからしてみれば、今現在俺の後方を走るシャルも含めた他の者からの視線に耐えきれなくなったのだろうけど。
そんなこんなで強行軍を続けて数時間が経った頃、シャルが後ろから声を掛けてきた。
「ルード様、斥候はどう致しましょうか」
「必要かい?」
俺的にはぶっちゃけ行き当たりばったりで出てきた以上、向こう側の状況を見てから対処を決めるつもりでいたが、シャルは違うようだった。
「はい、恐れ多くもルード様のお力に頼ることがない以上、少しは探りを入れた方が宜しいかと」
「あぁ、確かに『真面目な天使の地上録』を使うにも時間がないし……」
そう考えながら俺は、あと数キロでブルネス領だという所で停止命令を出した。
「なら、そうしようか」
シャルの案を丸々呑む形で俺は斥候を出すことにした。
「隠密系に優れてたスキルを持つもの3人を斥候に出そう」
俺はそう言ってシャルに指示を出した。
「持ち帰る情報はここから30分で帰還できる距離の地形と状況、後は戦闘が起こっていたら戦況と敵の進行状況だな」
シャルは黙って指示を聞いている。
「ただ、3人で固まって行くのは愚策だろうし、2人を先行させて1人は二重尾行の形をとろう。それと、30分経っても誰も戻ってこなければ全滅したとして考えておこうか」
シャルはその指示で納得したのか部下の中から人を選び出し、俺の指示を伝えていた。
「ぁ、あのぉ……」
そんな光景を眺めていると、俺の後ろからフランの声がした。
「ん、どうかした?」
「暫く留まるなら、降ろして頂けないでしょうか?」
「あぁ、はい」
背負っていようがいまいが別に気にしちゃいなかった中で言われたので、そのまま地面に降ろした。
「あ、ありがとうございました」
そう言ってフランは頭を下げてきた。
「別に気にしなくていいさ、これから付いてこれるようになればいいし」
俺は本心からそう思ってフランに声を掛けた。
「はい、今後はお邪魔にならないように日々鍛錬を重ねていきます」
フランは今回の行軍で己の無力さを知ったのか、ふんっといった感じで眼に火を灯していた。
そうこうしているうちに、シャルが指示を出し終えて、3人の斥候がブルネス領の方へと駆けて行った。
「ルード様、まずはどうされるのですか?」
指示を出し終えたシャルが次の話を切り出してきた。
「あぁ、まぁ、斥候の報告を待って、それからは一番近くの街にでも行こうか。その兵士も送り届けないといけないし」
俺は、部下に担がれている兵士を見てそう言った。
「その後は魔物の殲滅を?」
「どうだろうか、バレないようにやらないといけないだろうし、魔物の背後にでも回り込もうかな」
「お姿をお見せにならないのですか?」
移動中は気を遣っていたのか、ウィズがここにきて話に入ってきた。
「無茶をして怒られるのもなんだしね。あの兵士はもう起きてる頃だろうし、後方から間引いておけば援軍も来るだろうから」
この時点で俺は、魔物の殲滅ではなく実戦と戦闘区域における立ち回りを重視して行動するつもりでいた。
「それでは、そのように指示を出して参ります」
一礼をしてシャルが下がっていった。
「ウィズ、敵の間合いに入る前から『武装』は使っておこう」
「お望みのままに」
一応の保険もかけて、俺達は斥候の帰りを待ちながら休息を取り始めた。
◇◇◇◇◇
「ここからがブルネス領か……」
休息を取り始めてから数十分後に斥候が戻ってきて、異常が無いことを確認した俺達はブルネス領の領地へと足を踏み入れていた。
現代みたいに国境がくっきりと分かれていないこの世界では、川だの山だので領地を区切ってはいるが、実際は仲の良い領地だったりすると曖昧になっていたりする。
特に、アストラーゼ領とブルネス領なんかは度々援軍を送り合う関係で、掘建小屋みたいな建物が等間隔で並んでいるだけで領地の区切りも何もあったもんじゃなかった。
「うわぁ……」
眼の前の惨状を見たフランがボソッと呟いた。
「これは、またとんでもないな……」
領境には特にと言って村はなく、荒らされた形式も無かった為、ブルネス領北東部に位置する砦を目指して進んでいた俺達はようやく村らしい村を発見した。
死体で溢れ返った潰れた村を……。
「ここが潰れてるって事は砦は落ちたんでしょうか?」
フランがそんな疑問を投げかけてきた。
「どうだろうか、もしそうだとしたら援軍も無駄になるだろうね。あの砦にはSランク冒険者がいた筈だから」
実際、アストラーゼ領との領境に造られたその砦は、生半可な魔物では突破出来ないほどの防衛設備を整えていると聞いたことがあった。
「まぁ、でも次の街でそれも分かるだろう」
俺はそう言って、変わらず領境を北に向かって進んで行くことに決めた。
◇◇◇◇◇
「ここも………」
彼此進むこと数時間、砦がもう少しで視野に入るといったところにある街に俺達は辿り着いた。
「まずいなこりゃ……、砦は落ちてるのか?」
避難がきりぎり間に合ってはいたのであろうその街は、建物の瓦礫の山へと化していた。
「砦に、向かわれますか?」
「いや、使い魔を出す。魔力の出し惜しみなんてするべきじゃ無かったか……」
シャルの言葉に、俺は魔力を消費してでも今の状況を把握する事を優先した。
「【我望む、今ここに我が契りを持ってして、空を支配せし偉大なる魔を召喚する】召喚魔法『天魔』」
キユゥゥッシャアアアァァァァ
少しばかりの魔力を空に流して魔法陣を生み出すと、そこから甲高い鳴き声と共に両翼も含めて全長8メートルにも及ぶ巨大な鷹が現れた。
「少しやってもらいたいことが出来たんだ、空に昇ってここから北か南か西か、土煙と血の匂いがするのはどこか調べてもらえるかい?」
俺はそう鷹に頼んだ。
「キュルゥ」
その鷹は一声鳴くと、翼をはためかせて空に飛んでいき、5、6回頭上を旋回したのち南に向かって一声鳴いて消えていった。
「ちっ……、面倒だな」
その行動が指し示す意味が分からないほどのマヌケは、この場にはいなかった。
「どうされますか?」
シャルがみんなを代表して一歩下がった位置から声を掛けてきた。
「砦が落ちてるとすると面倒なことこの上無い。取り敢えず、フランに10人ばかり人をやって砦に行かせよう。兵士もついでに連れて行ってもらえると助かる。回復魔法や聖魔法が使えるものが主体で編成してくれ」
俺はここに来て事態の深刻さを悟った。
「なっ!? 私は連れて行って貰えないのですか!!?」
フランが抗議の声をあげたが今はそれどころではなかった。
「これから先は戦えない奴は邪魔になる。後方支援型も魔法支援型も砦に行って救出作業に当たってもらう。ここで貴重な人材を使い潰すわけにはいかないからね……」
俺はそう言って後の編成をシャルに丸投げした。
それから暫く考え事をしている内に背後からの喧騒は止み、シャルが完了の声をかけてきた。
「じゃあ、今から部隊を4つに分ける。
一つ目は、さっきも言った通り、砦に救出作業に行く部隊。
二つ目は、アストラーゼ領に戻り、父上と母上に救援を要請する部隊。
三つ目は、ここから西に向かい現存する街や都市に状況を聞きに行く部隊。
そして最後は、ここから南に向かい、敵の背後を叩く部隊。これは俺とシャルとウィズだけでやる。下手したらブルネス領が潰れるかもしれないから手加減はできない。ここで踏ん張らないとアストラーゼ領と他の領地を結ぶ街道がかなり減ってしまうからね。だからすまないけど、その2人しか連れていけない」
俺は直立してこちらを見ている隊員全てを見回しながら言った。
「分かり、ました……」
フランが渋々といった感じに頭を下げた。
それに続くように、他の者も片膝をついて意を示した。
『お気をつけて、ルード様』
隊員の返礼を背に俺はシャルとウィズに声をかけた。
「5分後に一斉に動こう。西に向かう面々はくれぐれも死なないように。死んだら終わりだからね」
俺はそう言って、失った魔力を少しでも回復させる為、木の淵に座り込み瞑想を始めた。
◇◇◇◇◇
5分が経ち、一斉に動き始めた隊員を見送った後、シャルとウィズが傍に寄ってきた。
「何処まで、やられますか?」
「取り敢えず、領都が落ちるまでは粘ろうか」
「力はお見せになられるのですか?」
「仕方ない。出し惜しみした結果がこれなら、俺はとんだマヌケだよ」
俺はそう言って鷹が消え去った方向に足を踏み出した。
持ちうる最高の魔法を唱えながら――
「【我、願い請う。雷の神よ、我が願い正しきものならば、この地にてその力を纏い振るうことを願う。裁きの槌を持ってして、その愚か者たちに――――」
俺は駆ける。
間に合う事を切に願って。
◇◇◇◇◇
剣戟と怒号と悲鳴と血が入り混じる中で、ブルネス騎士団団長フレリック・アルグレイは覚悟を決めていた。
「団長!! グーニアが落ちました!!! 魔物はその数を半数以下にしながらも以前この地に向かって進行して来ております!!!」
さっきから引っ切り無しに届く凶報も、最早何も思うことなく受け止めれるようになってしまっていた。
「ふむ、その内騎士団が討伐した数はどれ程だったかな副団長よ」
傍ににて血が滲むほど手を握りしめて憤怒の形相で虚空を睨みつけている男に、フレリックは声を掛けた。
「じ、10であります。団長」
怒りなのか、悔しさなのか、不甲斐なさなのか、どれから来ているのか最早わからなくなってしまったその感情を胸の内に押し込めて返事を返す男。
「後の290体は冒険者の者達か……。この騎士団の質も冒険者にすら劣るか……」
特攻覚悟で散っていったのであろう数多の隊員達を思いながらフレリックはその腰を上げた。
「さて、それでは行くとしようか。全く、ここに来て貧乏くじを引くとはね…」
傍に立て掛けてあった真紅の剣。
親しき友から送られてきた悪を焼き殺す剣。
この場において、気休めにしかならない輝きを放つその剣を持ってフレリックは城壁へと向かった。
「ああ、友よ。せめて叶うのなら、俺の命を対価にこの街を、ブルネス夫妻とそのご息女を守って欲しい」
そんな言葉を発しながら、フレリックは城壁の上へと辿り着いた。
「あぁ、『撲殺者』バルバル。成る程、その名に見合う強さがあるのか」
城壁の外に見える黒い影。
突如として現れたその影は、救援がつく間もなく瞬く間に領地を荒らし尽くした。
砦は落ち、生存者は不明。
村や町は軒並み潰され目も当てられない。
殆どの民は英雄の住まう東か、ここより南の地に逃げていった。
東にある都市に援軍を要請したものの、したのは5日前、どう考えても間に合いはしない。
それでもフレリックはこの地に留まり続けた。
主カカルム・フォン・グリシス・ブルネスは、既にこの地で死ぬ覚悟を決められていた。
妻アサラ・フォン・グリシス・ブルネスは、侍女とともに炊き出しを手伝っている。
その娘リリルム・フォン・ブルネスは、今も壁内で様々な手伝いをしている。
ゆえに彼はこの地で死ぬ。
例え実力が違えど、誇れる主君が後ろにいる以上その場に留まり続けるのが騎士なのだから。
「副団長よ、私はこの地に生まれた事を誇りに思うよ」
「私もです、団長」
2人の男は覚悟を決めた。
「『緋灼』のフレリック、何人たりともここは通しはしない」
彼の持つ剣が声に呼応するかのように輝きを増す。
「『岩壁』のゴルバ、同じくここからは通しはしない」
男の体が岩のようなもので覆われていく。
その姿に魔物が雄叫びを上げようとした瞬間、二人の視界を眩いほどの光が覆い隠した。
「ぐぅっ」
フレリックが咄嗟に目を庇い、一瞬ののち手をどけた時、世界は大きく変わっていた。
世界は魔に裁きを与えた。
それを体現したかのような現象を引き起こしていたのは、光の渦を纏う幼き少年。その少年は雷光とともに戦地を駆け抜けていた。
その手に溢れんばかりの大槌を振り回しながら。
えぇ〜、お久しぶりです。
こんなにも間隔が開いたにもかかわらず、未だに見てくださっている皆様に感謝を。
久しぶりに書いたもんですから、口調が変わっている場合があります。
その時は是非感想欄にてご指摘の程よろしくお願いします。
あ、後、6Sに買い換えました(^O^)
7はGBが無駄に多かったので。




