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生まれた先は英雄の子  作者: KB
第二章 幼年期
20/24

スタンピード

※2017/2/9改稿

 スタンピード


 魔物の異常繁殖や爆発的増殖を指す言葉。

 一般的には、ゴブリンやオークなどの人型魔物が主流であり、上はワイバーンから下はスライムまで、それらが突如として大量発生する時に使われている造語。


 フランを家族に迎え入れてから2ヶ月が経った今日、王都へと出立するまで後1ヶ月ほどとなった今日この頃、アストラーゼ領はスタンピードの報告で上から下まで大賑わいだった。

 普通の街ならばスタンピードと聞くだけで震え上がるものが多いのだが、ここアストラーゼ領では、冒険者の間では臨時収入を、兵士の間では実戦訓練を指す言葉へと変わってしまっている。

 これもひとえにエリュシャン王国の国民の質の高さと、個々の二つ名持ちに寄せる信頼度の高さが高い事によるのかもしれない。


「ふぁ〜あ、えらく忙しないねぇ」


 そんなお祭り騒ぎの中、俺はフランやシャル達一部を伴って、領都の中を散策していた。


「前回大規模なスタンピードが起こったのはルード様がお生まれになられるよりも前でしたから、浮き足立つのも仕方のない事かと」


 シャルがそんな事を教えてくれた。


「へぇ、その時はどうしたの?」


「フォード様がお一人で無双したとか。なんでも、突出しすぎたせいで他の冒険者達から大バッシングを受けたようです」


「父上が、ねぇ」


 俺はそう言って、右に左にと忙しなく動く街の人を見つめる。


「今回は母上も行くんだろう?」


 高ランクの魔物が出ない限り基本的には魔物討伐にも赴く事のなかった母が、今回は討伐軍に参加すると父と話し合っていたのを聞いていた。


「はい、なんでもスタンピードを発見した冒険者の話によると、今回のスタンピードの主役は亜竜だとか」


「亜竜? 珍しいね。ワイバーンの上位個体じゃないか」


「はい、ですので、死傷者の治療のためフォード様と共に出られるのだとか」


 亜竜は竜ほどではないとはいえ、ワイバーンよりは強い個体である。おおよそBランク冒険者が数グループ集まってやっと倒せる、といった所の強さだ。

 まぁ、Aランク冒険者なら人によっちゃ単体で倒せる奴がいるだろうけど。


「ふ〜ん、だからか。まっ、僕達には関係のない事だろう。討伐軍に参加する最低条件は20歳以上でBランク冒険者以上の実力がある者のみ、ってなってるんだから」


 それ故に今回の討伐軍は参加資格が高いのだろう。


「そうですね。それに、フォード様とメリッサ様がお出になられるのでしたら亜竜如きでは遅れをとる事もないかと」


「そりゃそうだろうよ。父上と母上が亜竜なんかにやられたらそれは亜竜じゃなくて亜竜の皮を被った何かだろうよ」


 そんな訳で今、辺境伯領も含めた近隣の領地ではスタンピードに対する備えで商人が行ったり来たりしている。


「ルード様。ルード様はどうされるのですか?」


 人々の喧騒が煩い中、恐る恐るといった風にフランが聞いてくる。

 どうもフランはシャルの事を苦手としているようだ。


「どう、とは?」


「討伐軍がお出になっている間はここから出ないようにと、お母様からしつこく言われているのではないのですか?」


「あぁ、そうだね」


「魔法の特訓をしようにも、お母様のいない所ではしないように、とも言われてましたし」


 そう、年々母からの制約が厳しくなってきており、満足に魔法の実験も出来なくなってきていた。


(まぁ、それでもどうとでもなるけどな)


 そんな事を考えながら、俺はフランの質問に返した。


「僕達も討伐軍に参加するかい?」


「へ?」


 ぽかんとした表情をこちらに見せるフラン。


「僕達も亜竜を倒しに行くかい? それとも後方支援として行くかい?」


 俺は畳み掛けるようにして尋ねる。


「まぁ、どっちでもいいんだけどさ。少なくともここで何するでもなく待つよりはマシだろうし」


「あ、いえ、お待ち下さい、ルード様。それはお母様がお許しになられないのではないですか?」


 フランが血相を変えて止めてくる。


「あはははは、嘘だよ、冗談だって。僕だって母上のお仕置きはくらいたくないからね。大人しく待っているって」


「それならばいいのですが……」


 そう言ってジト目で俺の方を見てくる。


「信用ないなぁ。大丈夫だって、行くならバレないようにするさ」


「ですから! ここでお帰りをお待ち下さい!」


 そうフランが怒鳴ると、シャルの目が暗く光った。


「ぴっ…」


 フランが変な声を上げで後ろを振り返る。


「フラン? 貴方は誰に指図しているのか分かっているの? 誰に怒鳴っているのか分かってるの? ねぇ、フラン?」


「ぷぴぃっ…」


 鼻が詰まった豚みたいな鳴き声をあげながら、徐々に後ずさるフラン。


「いいって、シャル」


 俺がそう言うと、シャルの目に光が灯った。


「失礼致しました、ルード様」


 そう言って頭を下げるシャル。


「はふっ……」


 ここにきてようやくフランは呼吸をできたようだ。


「にしても、本当にどうしようかな」


 あっちへふらふら、こっちへふらふら、特に目的もなく歩き回りながら討伐軍が出て行った後はどうしようかな、と考えながら歩いていると、討伐軍が準備されている北門とは別の門の方角から、1人の兵士が血相を変えて走って来た。


「どうかしたの?」


 俺は興味本位でその兵士を呼び止めた。


「誰だ!? 今は構って―――」


 兵士はそこまで言ってこちらへと向き直ると、直立不動になった。


「ル、ルード様!? 失礼しました!」


「あぁ、別にいいよ。それより何かあったの? 随分と慌てているようだけど」


 無礼なんて前世が小市民だった俺は気にすらしていなかったので、兵士に続きを促すように言った。

 後ろでは、黒いオーラを出し始めたシャルとウィズを他の者が宥めながらフランがぴっぴっと鳴いていた。


「は、はいっ! 今、隣のブルネス領より早馬が到着しまして。内容を聞くと、ブルネス領より北、ここアストラーゼ領より北西から大量のモンスターの発生を確認した、と。それに伴って英雄の援軍を要請する書簡が届きました」


 英雄の援軍


 言葉通りの要請。

 自分たちの戦力では討伐しえないような魔物や魔族が現れた時に、父と母を戦力として頼る事を指す。


 それでも今回のスタンピードは亜竜が主流のはずだ、いくらなんでも亜竜如きを倒すことができないなんて思えない。


「ん? 亜竜のスタンピードだろう? しかもここから北の方角から来てると聞いてるよ? 索敵ミスでもあった?」


 俺が疑問に思いそう聞くと、兵士が顔を青ざめさせながら言った。


「い、いえ、早馬で来た兵士の話によると、ブルネス領に現れたのは亜竜ではありません」


 兵士が一呼吸置いて言った。


「Sランク級の魔物、バルバルです」


「へぇ」


 俺は自分の顔がにやけてしまうのが分かった。


「そりゃあ、大変だ。でもブルネス領にはSランク冒険者が居ると聞いたことがあるんだけど?」


 ブルネス領はアストラーゼ辺境伯領と隣接している領地だ。アストラーゼ領ほど「魔の森」と接しているわけではないが、時折こうして漏れ出た魔物が行く事は多々ある。だからか、ブルネス領にはSランク冒険者が何人か在中している。彼らからしてみれば、幾らSランク級の魔物とはいえ一体程度なら問題にならないはずだ。そう一体程度ならば。


「500体です」


「ん?」


 俺は聞き間違えたのかと思い、もう一度聞き直した。


「バルバルの数は概算で500体。このままではブルネス領は壊滅は免れないとの事でSランク冒険者は足止めに専念、英雄の援軍に頼るとの決断がなされたと」


 そう兵士は言った。


 Sランク級の魔物が500体。Sランク級とは、Sランク冒険者が一対一で勝てる程度の強さを表している。Aランクとは隔絶した強さを持つSランク冒険者、彼らが一対一でならば勝てるのがSランク級の魔物。それが概算とはいえ500体という事は、確かに壊滅は免れないだろう。


 というか、それどころか下手すれば小国が一つ地図から姿を消しかねない。


「シャル」


 俺は自らの体が震えているのが分かった。


「御二方にはお伝えになられますか?」


「いいや、言わないでおこう。言えば絶対に止められるから」


 俺はそう言いながら兵士に顔を向けた。

 兵士は俺の顔を見て頬を引きつらせていた。


「僕が行く」


「ですが…」


「心配しなくていいよ、Sランク級だろう? 所詮Sランクだ、父上より弱いならどうとでもなる」


 俺はそう言いきって兵士に釘を刺した。


「この話は父上と母上にはしないようにね、今すぐ僕が出るから」


 兵士は戸惑った顔をして俺の後ろにいるシャル達に顔を向けた。


 しかし彼女たちはそんな視線も何のその、俺が命令を下すのを待っている。


 なので、兵士の視線を意にも介さないシャル達に命令を下す。


「シャル、蹂躙だ。誰に気負うでもなく徹底的にやろう」


「ルード様のお望みのままに」


 シャルはそう言って部下達に命令を下す。


「ウィズ、ようやく『武装』の出番だね」


「お好きなようにお使い下さいませ」


 そう言ってウィズは俺の肩に寄りかかってくる。


「フラン、君はどうする?」


 そう言ってフランの方を向いた時、そんな事を聞くのは野暮だったかな、と思った。


「お供致します、どこまでも」


 豚の鳴き真似をしていたとは思えないほどのしっかりとした表情で返事を返した。


「そう言うことだ兵士さん、ごめんね」


「いや、しかし…」


 そう兵士が渋った時、兵士の意識は闇の中へと引きずり込まれた。


「面倒だ、もう行こう。早く行きたくて仕方がないや」


 俺はそう言いながら、体の震えを抑えようともしていなかった。

 それが間違いだったのかもしれない。

 俺は力を手に入れたのだと勘違いしたガキだったのだろう。

 まだ、世界を知らないだけのガキ。

 この時の俺は知りもしなかったのだから。

 世界は不条理と理不尽で成り立っているという事を。


「早馬で来ている兵士はどうされますか?」


 シャルがそう聞いてくる。


「連れて行こう、魔法で引っ張って行けば問題ないだろう」


 俺はそう言って駆け足で西門へと向かう。


「準備は?」


「出来ております、何時でも大丈夫です」


 そのシャルの言葉が合図になった。


「じゃあ行こうか、母上の結界は問題ない、この時のためにこの魔法を探し続けたんだからさ」


 俺はそう言いながら、シャル達を引き連れて西門へと向かった。



◇◇◇◇◇



 西門へと着くと、兵士達が慌ただしく動いていた。


「隠形魔法『神隠し』」


 俺を含めたシャルとウィズ、フランと部下達、さらに魔法で引き込んだブルネス領の兵士、総勢30人余りはその場から姿を消した。


 勝つ事を疑ってはいなかった。

 俺はチートを貰ったんだから、と。

 最強の両親に鍛えられたんだから、と。

 それは驕りだと思い知らされた。

 それと同時に思い知った。

 この世界はどうしようもなく『力』が全てなんだ、と。



◇◇◇◇◇



 ルード達が居なくなった後、兵士が意識を取り戻した頃、アストラーゼ領では違う意味で大慌てだった。


 アストラーゼ家の嫡男、英雄の子。


 人々にそう呼ばれ、期待されていた子供が姿を消した。

 当初、亜竜の討伐軍にでも紛れ込んでいるのだろう、と笑っていたフォードも時間が経つにつれて引きつった笑顔になっていった。

 結界にはなんの反応もない、と安心していたメリッサも気絶していた兵士が駆け込んできた後、一気に血の気が引いていた。


 それでもどこかで彼らは安心していた。

 彼はまだ子供だと。

 危なくなったら逃げるだろう、と。

 何より、英雄の子だから簡単には負けることはないだろう、と。


 だから、さっさと亜竜を片付ければいいやと考えた。


 この世界が人に優しくない事を忘れてしまっていた。


 それを改めて思い知ったのは、血塗れになったルードが才媛の魔女の手によって領都に運び込まれてからだった。

はっはっは〜、更新が遅々として進まん。

それに、「ギル神」と混ざって訳わからん。


まぁ、それでも「ギル神」の方もBMして貰えたらと思います。

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