呪い子
※2017/2/7改稿
※準ヒロイン登場。今後は皆様の人気次第です。
※()内と、地文。何方の方が心の内を書くのにふさわしいのか……
「ねぇ、君、名前は? 帰る場所はある?」
特に考えがあった訳じゃなかった。
ただなんとなく、この子がいたら楽しいだろうなぁ〜、って思ったもんだからから声をかけた。
いや、ほんとに。ケモミミやっふぁぁぁぁぁ、とか思ってない。ほんとに。
断じて、シッポすりすりぃ〜、はふはふ、とかも思ってない。
大事なことだから何度でもいうが本当にそんなこと考えてないぞ? ほんとだぞ?
心の中で弁解を続けていると、俺の声を聞いた少女が顔をこちらに向けた。
「ぇ…………」
その顔は、たった今、ズタボロにされた相手からそんな事を聞かれるとは思っていなかったようで、少女はその綺麗な黒色の瞳をまん丸くして驚いていた。
「他意はないよ、君、逃亡奴隷なんでしょ? 帰る場所はあるのかなって思ってさ」
「…ぃ………」
「え?」
「ない、です………」
少女は力なくボソボソと答えた。
思っていた通り、少女には帰る場所がないようだった。
「これからどうするの?」
俺自身もどうしようか、と考えながら聞いた。
ふと、ロリコンというコメントが視界の隅を流れていった。
『くぉらぁっっ! てめぇかっ!!』
ユニークスキルの一つ『思考の代理人』。
最近、俺の記憶を吸い上げて前世知識をつけやがった面倒な存在。
『テヘペロ(/ω\)』
再度そんなログが視界の隅を流れていった。
はぁ、そんな面倒なスキルの存在は置いておくとして。
『えっ(´゜д゜`)』
仮にここでこの少女を保護したとしても大した問題にはならないだろう、というのが俺の考えなんだが……。
『ルーシア様の事はどうされるんですか( ゜Д゜)?』
あぁ、そうだった。
ルーシア・フォン・アルベシア。
お隣アルベシア伯爵領の次女で俺の仮婚約者となっている同い年の少女。
この仮というのがみそだ。母上が言うには、アルベシア伯爵がどうしてもと言って聞かないうえに、義理があったために将来子供たちが自分で物事を決断できるまでは、という期限付きで俺の婚約者となってしまった少女だ。
母上は無理に結婚することはないと最近何度も言ってくるが、お相手さんは俺に気に入られようと必死なんだとか。
まぁ、将来どうなるかなんてわからないから向こうが愛想を尽かさない限りはこのままでもいいかななんて思っているわけだが……。
『でしたら連れて帰るのは問題大ありでは?』
そんなことを『思考の代理人』は言ってくるが。
『まっ、考えても仕方ない。言っちまったもんは変えられんしね……』
俺がそんなややこしくなりそうな事を考えていると、俯いて考え込んでいた少女がボソボソと話し始めた。
「な、い、です……ぐすっ…帰るところ、ない、です……ひっく…なにも、ないんです………」
その大きな瞳からぽろぽろと涙を流しながらその少女は話す。
「村でも、ひっく、化け物だって、『血塗れの畜生』だって、うっく…言われてて……ひっく…」
嗚咽を漏らしながらも一言一言を必死に紡ごうとしている。
「お母さんも、お父さんも…うぐっ、化け物を見るような目で―――」
「ルード様」
唐突に少女の話を遮って話しかけてきたのはシャルだった。
「ん?」
「この者はどうしましょうか」
そう言って幼い少女を見るシャルの目は、何の感慨もないようで冷めきっていた。
「どうするって? 連れてくんじゃないの?」
「え?」
「え?」
どうも、シャルとの間に食い違いがあるようだった。
「今この場で始末するのではないのですか?」
「え? なんで?」
「ルード様に弓を引いた者を生かしておく必要があるのでしょうか?」
そう言ったシャルは周りに同意を向けるように見回した。
聞くと、ほとんどの人が俺が生け捕りにしたのは、身包みを剥いでから殺すためだと思っていたらしい。
「は? いやいや、しないよ?」
こやつらは世界の宝をなんだと思っているんだ、全く。
『やっぱり………』
なんか言ってるやつが若干名いるが無視して話を進める。
「では何故生かしているのですか?」
「まぁ、なんでもいいでしょ? 取り敢えず、合図するまで周辺の警戒をしててよ」
そうぶっきらぼうに命令すると、シャルは俺に失望されたのかと思ったのか、頭を低く低くして謝ってきた。
「申し訳ございません、ルード様。御身の考えを推察する事もなく差し出がましい口を聞き、本当に申し訳ございません」
「いいよ、別に。シャルの事は信用してるからさ、取り敢えず警戒は任せたからね」
そう言うと、シャルはぶるっと身震いをした後、恍惚とした表情で命令を出していた。
(はぁ、ヤンデレって沸点がわかんねぇわ)
そんな事を考えながら俺は、今一度少女の話を聞くことにした。
「ごめんごめん、それでなんだったっけ?」
俺がそう問いかけると、少女は目を真っ赤にしながらもこうなった経緯を話してくれた。
それによると……
少女はここから遥か南の雪山に住む白狼族の部族の1人で名前はないらしい。
無いと言うのは語弊があり、産まれてから数年の間は名前があったが、5歳の時の祝いの席で種族固有のスキルとは別で何らかのスキルを持っていることがわかり、それを判別するために狩りをさせる事にしたが、その狩りで随伴していた村の若者を『狂人』のスキルで思わず半殺しにしてしまい、その時の状況を若者に聞いた村の人たちは、『呪い子』なのではないか、と考えたらしい。
そして、協議の結果、村の長は名と顔を隠し、村の外れにある小屋で監禁することにしたそうだ。
当初、彼女はなぜ自分がこのような仕打ちに会うのか分からなかった為、度々小屋を抜け出しては両親に会いに行っていた。
でも、その度に両親や村の大人に、同世代の子供達は、自分の事を腫れ物を扱うように接してきたため、彼女は、自分はいてはならない存在なんだ、と考えるようになっていったと言う。
そして、数ヶ月前、7歳になった少女のもとに、数人の村の大人がやってきて、彼らは村長からの命だと言って、彼女を人気のない所まで連れて行ったらしい。
全てを諦めてしまっていた少女は、なすがままに連れられ、草むらの上に押し倒されたところで何かおぞましいことをされるのではないかと思い至り。
そこからは必死に抵抗して、気付いたら血まみれで突っ立っているところを、村の者を探していた別の大人に見つかって村長の前まで引っ立てられたらしい。
村長の前で先程あった事を正直に話すも、何一つ聞き入れてはもらえず、それどころか汚物を見るような目で出て行くよう言われて、少女はその時全てを捨てる覚悟をしたと言う。
名も、種も、家族も、繋がりも。
もう二度と手に入れることは出来ないんだ、と。
このスキルがある限り1人で生きるしかないんだ、と。
村を追い出された彼女はただひたすらに遠くへと行くために北上して来て、つい最近、ここらの森で野営をしている時、よくわからない大人に捕まり、首輪らしきものをつけられたがその際に何故かスキルが発動し、辺りの人や生物を殺し尽くしたのち三日三晩歩き回り、ついさっき野盗を見つけて殺し、そして俺たちと出会ったようだった。
なんともまぁ、壮絶な人生を歩んでいるもんだ、と俺は思った。
前世じゃ、両親も友達もいたし、今世では、色々な人が周りにいる俺には同情する事すら許されないのだろう、とそんな事を考えていた。
「うっ、うっ……」
未だ泣いている少女の背中をさすっていると、ぽつりと少女が問いかけてきた。
「わたしは、どうなるんですか?」
捕縛、奴隷、殺害。
その言葉にはどういった意味を含んでいるのだろうか。
そんな事を、頭の中で考えながらも、口にした言葉は全く違っていた。
「一緒に来る?」
正直、話を聞き始めたのは自分だったが、特にと言って何かを思うような事があったわけじゃなかった。
前世なら同情し献身的に支える、なんて事をする奴は数多くいたんだろうけど、今世ではそんなありふれた悲劇ヒロインなんてそれこそ星の数ほどいるため、ただ一言、今まで絶望の淵にいたであろう少女に道を示すくらいの軽い気持ちで発した言葉だった。
そんな調子で言った言葉に少女はぽかんとした顔を向けた。
「え? 一緒……に?」
まるで、今までの話を理解していないのか、とそんな意味を含んだ顔を向けてきていた。
「そう、一緒に」
「なんで、ですか?」
「なんでだろう?」
俺自身も首を傾げた。
「『呪い子』、なんですよ?」
念押しするように少女は言う。
「そうみたいだね」
「血を浴びすぎると狂ってしまうんですよ?」
「ついさっき見たね」
「人を殺して笑うような獣なんですよ?」
「それも聞いていたよ」
「それでも、一緒に?」
「うん、一緒に」
何を考えるでもない、ただ思いつくままに言葉を紡いだ。
その方が良いと思ったから。
「なんで、ですか……なんで、そんな事が、言える、ん、です、か……」
再び黒い瞳に大粒の涙を蓄え始めた少女の目を見て、俺は言った。
「強いから」
少女は俺の目を見て息を飲んでいた。
「誰よりも、何よりも強いから」
一言一言、はっきりと告げる。
「君の知る誰よりも、君を捨てる選択しか取れなかった愚かな者たちよりも遥かに強いから」
少女の目から涙は溢れていた。
「だから僕はそう言える」
少女は震えていた。
「気楽そうに言えるこの言葉の重みは理解している、君は誰かを傷付けるのが怖いのだろう? 家族に捨てられるのが怖いのだろう?」
少女は泣きながら頷いていた。
「なら、共に来ればいい」
少女の目からはとめどなく涙が溢れていた。
「君の全てを受け入れよう。君の全てを認めよう。君の全てを止めてみせよう」
少女は顔を上げていられなくなっていた。
「だって、僕は強いから。だから言葉に責任を持つ事が出来る」
少女の俯向いている先の地面は涙で湿りきっていた。
「弱者の言葉に重みはない、されど強者の言葉には重みとそれに付随する責任がある」
少女は再び顔を上げた。
「だから僕は重みと責任を持って今一度言おう」
そう言って俺は、持ってる魔力の半数近くを発しながら言った。
「一緒に来る?」
軋む、軋む、地面が、木が、人が、空が、世界が軋む。
さっきの言葉とは同じでも、圧倒的に質も重みを違う言葉。
圧倒的な魔力の前に、君のその考えはちっぽけで儚いものだと教えるために俺は魔力を放出する。
「僕にとって君の悩みなんて気にするほどのものじゃない」
少女の目から涙は引いていた。
「居場所がないならひさしになろう、名前がないなら共に考えよう、家族がいないなら弟になろう、頼れる者がいないなら、主となろう」
いびつな出会いではあった。
けれど人との出会いなんて、みな歪でねじ曲がっているものだ。
「君の全てに僕はなろう」
確信と覚悟を持って少女にそう告げた。
そして、俺がそう言い切ると同時に少女がぽつりと言った。
「貴方は私を捨てませんか?」
「勿論」
俺は微笑みながら言った。
「貴方は私より長く生きていてくれますか?」
「勿論」
笑みを崩すことなく言った。
「私の全てを受け入れてくれますか?」
「あぁ、君の全てを受け入れよう」
すると少女はすっと立ち上がり、俺の目の前で地面に片膝をついた。
「私は貴方に全てを捧げます」
そして彼女は顔をあげた。
その顔は、今まで見ていたどの顔よりも晴れやかで、煌びやかなものだった。
「だから、私の全てを受け止めてください。このどうしようもないスキルも、狂って獣になってしまう私も、全て、全て」
「うん」
「そして、家族に、私の主になってくれませんか? 全てを認めてくれる貴方に、絶対的強者である貴方に、私の全てを捧げたいと思います」
「いいよ、僕は君の全てになろう」
その時、その空に風が吹いた。
陽射しが暖かい昼下がりの出来事だった。
来週か再来週、もしかしたら更新出来ないかもしれません。
今回はAランク冒険者のステータス
〇〇 人族 男 45歳
職業「Lv.Max」が幾つか
HP 2456
MP 3054
力 1659
防御 1809
素早さ 980
器用さ 1462
魔力 1509
運 856
カリスマ 1568
称号6 スキル合計30
備考
Aランク冒険者は冒険者全体の中でも10%ほどを占めており、比較的数多く見受けられる。
才能のある者ならば比較的なりやすく、Aランク冒険者には士官の話も来るため多くの冒険者が目指している。
ただ、AとSの間には明確な差があり、Sランクになるには既存のSランク冒険者を倒す以外に方法はなく、そのSランク冒険者達も自分の弟子達にランクを譲ることが多いため枠が空くことが殆ど無い。
ゆえに、一般的な者が登りつめることのできる最高のランクがAランクだと言われている。