晴れ。初めての街にて。
今回は楓さん初めての街です。初めてと言うことはやはりハプニングがつきもの…!?
浚「よーし、表通りに着いたな」
俺達は彼女に何かを奢るために神殿から獣道を割って行き、鳥居へと戻ってきた。
浚「んじゃ、下りますかねぇ!」
楓「えっ…?どうやって下まで降りるんですか…?もしかして徒歩じゃあ…」
彼女はそう言うと同時に耳と尻尾が垂れ下がった。不覚にも可愛いなんてドキマギしたのは秘密だ。
浚「や、普通にそんな事無理だっつぅの…ほれ、あそこに停めてあるバイク。アレに乗って下るんだよ。」
と、言い終えた時、彼女の目が輝いてる事に気付いた。
楓「アレがバイク…今まで見るばっかで乗った事はなかったです!」
彼女の耳がピョコピョコと尻尾がブンブンと双方ともに千切れんばかりに荒ぶってらっしゃる。かわいいなー!もう!
浚「おっ、そうか。なら尚更注意せにゃならんな」
楓「なにをです?」
浚「振り落とされねぇように、だ。しっかり俺につかまっときやがれ。あ、それとメットも着けろよ」
俺には生憎彼女と言う存在が今まで無かった故に正直心拍数が過去最大級に上昇している。この拍動が彼女に聞こえてしまわないかが心配になる始末だ。
楓「はーい♪」
あー耳がピョコピョコ動いてらっしゃる…可愛いなー!
浚「んじゃあ、しゅっぱつしんこーう!」
楓「しんこーう♪」
音頭と共に俺はエンジンを動かし、まだ冬の名残とて残っている冷たい風を切りつけるように走り出した。
…場所は変わり街
浚「到着ぅー…よくよく考えたらポリに良くもパクられなかったなコレ…ヒヤヒヤもんだぜ。ったく」
ホントにここまで警察に見つからずに来れたのはラッキーだった。取り敢えず街に着き、バイク置き場にバイクを置いて街をぶらついていた。
楓「なんというかその…迷惑(?)を掛けてしまったようでスイマセン」
彼女の耳が目に見えて垂れ下がっている。…ん?耳?なんで見えて…
浚「んぁああ!?!?ちょっ!メット取んなよ!あ、あと迷惑とか思ってねぇから大丈夫。むしろお前を楽しませてやれて良かったわ。でもね?取り敢えずメット被れ?な?」
楓「え?どうしてですか?」
小首をかしげ、まるで何のことやら?と言わんばかりに見つめてきた
浚「そりゃオメェ、アレだ。普通の人間に耳やら尻尾なんざ生えてねぇだろ?だからだ。」
楓「あっ、そうでしたね!危ない危ない。」
聞き分けの良い奴で良かった。心底俺はそう思った。何故なら余計な、そしてデリケートな部分の説明をしなくて済むからだ。
浚「うっし、息苦しいかもしれんが我慢してくれ。後で人があんまり居ない所行ってやっから…で?何奢って欲しいんだ?」
楓「稲荷寿司!!!」
おおう、凄い勢いよく言ったなコイツ…可愛いが。
浚「それだけでいいのか?なんだったらきつねうどんとかも買ってやるが…」
楓「いや、稲荷寿司だけでいいんです!稲荷寿司こそ生の糧…!!」
確かにそうだけどよぉ…飯という中の一つのカテゴリーでしかねぇから…まぁ、コイツにしたらそうなのかもしれんが。
浚「そ、そか。じゃあ、ちょっくら買ってくるわ。楓は…そうだな、バイクで待っといてくれ。」
楓「私は…?連れて行ってくれないんですか?」
彼女は差し詰め、親元を離れるペンギンの様な目をして俺を見つめている。
浚「この騒騒しい街で祭りもないのに着物だなんてあまりにも珍しくて奇異の目で見られかねんからな。楓と街探索するのは洋服を買ってから、だ。」
何故かこの時、俺は彼女…いや、楓を誰かの目に映らせたくない。そう言う感情がフツフツと湧き上がってきた。それ故に、そこまで人の出入りがないバイク置き場で待たせる事にした。
楓「え?洋服?そんな!買ってもらう訳に」
楓の言いたい事はわかっている。だから俺は楓の言葉を遮った。
浚「俺がやりてぇからやるんだ。オメェの意思は関係ねぇよ。黙って従えいやがれ」
俺自身、何様だと問いたくなるようなセリフを吐き捨てた後と思った。しかしそれは杞憂でしかなかった様で…
楓「…ふふっ♪そうですか!それじゃあ…甘えさしてもらいます♪」
と言った。心無しか彼女の笑顔は最高の物に見えた。
浚「お、おう!そうしとけ!じゃあ行ってくるわ」
俺は楓の返事も聞かずに、火照った顔を冷ますように走りだした。目の端に映った彼女は相も変わらずニコニコしていた。
俺はコンビニで稲荷寿司を20個ほど買い、楓の元へ引き返した。
浚「待たせたな、楓…って、あぁ?居ねぇし…」
俺がバイクに戻ると楓の姿は無くなって居た。嫌な汗が全身の毛穴という毛穴から吹き出す。次の瞬間、俺は特定の場所も指さずに走り出していた。
浚「楓ッッ!!」
本来、こんなに大声で叫ぶのは恥ずかしくてできないはずだが、気付けば叫んでいた。何故、今日初めて出会ったような奴をこんなにも心配するのか自分でもわからない。でも止めどもなく心配が溢れ出てきた。バイク置き場を出て街へ探しに行こうとした時、研ぎ澄まされた優しい声が俺を呼んだ。
楓「浚さん?次はどこに行くんですか?」
と。
浚「えっ?」
その声の主は楓だとすぐわかった。だから俺の顔はグツグツのシチューにでもなるんじゃないか?という勢いで沸騰しはじめた。
浚「えっ!?いや、あぁ!!えっと…そう!便所!便所に行こうとな!ハハッ!いやー、バイクの所に居とけって言ったのに何でこんなところに居るのか」
言い終わるか言い終わらないかの内に俺の発言は泊まった。何故なら彼女に抱きしめられていたからだ。
楓「まさかちょっと隠れただけでここまで心配するとか凄い嬉しいですー!!感激です!!予想外でちょっと驚きましたけど嬉しすぎます!!」
楓は最初から俺を図ってたのか…?いや、何はともあれ無事でよかった。おかげで俺の精神は無事ではなく、むしろ危篤状態だが。
浚「んなぁあぁ!訳あるか!し、心配したけど取り敢えず便所にだなぁ!」
楓「心配、じゃなかったんですか?」
少し残念。と言いたげな目を俺に下から向けてきた。勿論スッゲェ心配だった。だから素直にもう打ち明けようと俺は決心した。というか楓は多分全部見透かしてるだろうし。だって神様だもんね一応。
浚「はぁ…そうだ。スッゲェ心配したぞコノヤロ!!」
俺は思い切り楓の肩を握った。え?何で頬じゃないかって?メットしてるもん楓。
楓「嬉しい…です。」
楓は本当に嬉しそうに、そう呟いた。
浚「っし、取り敢えず稲荷寿司、食おうぜ?」
そう問いかけ、2人でバイクの元へと戻っていた。その時、思いもよらない切り返しが来た。
楓「どこで食べますかっ!?」
浚「は?」
楓「だーかーらー!どこで食べますかっ!?」
食う場所を聞かれるとは思ってなかったので心底驚いた。が、そのまた思ったことを俺は口に出していた。
浚「食う場所なんざどこでもいいだろうが?俺としちゃここで食おうかと思っていたんだが…」
楓「なりませんっっ!!」
楓は御立腹の様で、めいいっぱい声を張り上げそう言った。
楓「ご飯という物は、そのものの味、ビジュアルは勿論ですが食べる場所も重要な要素なんですよ!」
どうやら楓さん、食に関しては中々うるさい模様。神様だからかな?うん。関係ないね(๑>•̀๑)
浚「とは言ってもなぁ…ここら辺ピクニック気分で行ける様なちょっとした公園とかもねぇしなぁ…あっ」
俺は1ヶ所だけ、ゆっくりと食えるロケーションを思い出した。が、あまりにもそのロケーションを提供するのには勇気がいった。
楓「ん?どこか思いつきましたかっ!?」
たかがついさっき出会った様な奴をいきなりあんな場所に誘うのもどうかと思ったが…勇気をふるいたずねた。
浚「俺ん家…来るか?」
続く