甘酸っぱい気持ち
午後からの仕事は、なんだか集中できなかった。
頭の中では、課長とのあの場面が何度も何度も上映されている。
自分から好きって言っちゃったー!!きゃー!!!!
きっと、私の顔は終始緩みっぱなしだろう。わかっていてもどうにもできないくらい、幸せな感情に支配されてしまっている。
「おい、大丈夫か?」
阪本くんが隣の席から、仕切り越しにひょっこりと顔を覗かせた。
「…えっ?」
「そんなに留めなくてもいいと思うけど…」
彼の言葉に、ふと手元を見ると…
「あー!!」
書類にホッチキスの針が20本ぐらい刺さっていた!
「しっかりしろよー。今度のは大きなプロジェクトなんだぞ」
「う、うん…」
「…なんかあったら、相談しろよ。同期なんだし」
そう言って、阪本くんはちょっと照れながら笑った。
「ありがと…」
わたしの同期は50名ほど。そのうち、この企画部に配属されているのは私と阪本くんだけだ。新入社員研修の頃から仲はよかったけど、同じ部署に2人だけということもあって、もう本当に友達のような感じ。つきあってるのかって噂されたこともあったけど、2人とも全否定した。阪本くんには美人の彼女がいるしね。
「ちょっと出てきます」
「はーい」
少し遠くの課長席から、課長が立ち上がるのが見えた。…そして、私の背後にある扉に向かって歩いてくる。
「……」
私は今きっと、全身真っ赤になっているだろう。そう思うと顔を上げられなかった。
すると、課長は私の後ろを通るとき、私の肩にポンとさりげなく手を置く…。
「!」
驚いて振り返ると、課長は優しい笑みを浮かべてオフィスから出て行くところだった。
そして、そんな私たちを密かに見ていた人物がいることに、私はまだ気づいていなかったのだった。
『今夜、あいてる?』
今日の終業時間まであと1時間という頃、お昼にプライベートの連絡先を交換したばかりの課長から、さっそくLINEが来た。
私は後ろに誰もいないことを確認して、こっそりと返事をする。
『あいてますよ』
それだけだとそっけないので、クマのスタンプもつけてみる。
それから少しして、
『19時にスタバで待ち合わせしよう』
というメッセージと共に、課長もウサギのスタンプを送ってきた。ふふっ、スタンプなんて使うんだ…。
『わかりました』
課長との初めてのデートに、私は胸を高鳴らせていた。