番外編~吉川夫妻のとある休日~
「あ~、かっわいいなあ~」
ふと、凛がいるソファのほうを向くと、テレビには可愛らしいトイ・プードルが映っていた。彼女は大の犬好きなのだ。
今度の仕事の資料を閉じて、俺もソファに座った。片手で彼女の細い腰を引き寄せ、体を密着させる。
「犬、飼いたいの?」
凛が抱いている緑色のクッションを横からひょいと取り上げ、あごを乗せた。すると、凛はすかさず別のクッションを引っ張ってくる。何かを抱いていないと落ち着かないなら、俺に抱きついてくれればいいのに…なんてね。
「飼えるなら飼いたいけど…。マンションだし、飼えないよね。それに、仕事行ってる間は1人ぼっちにさせちゃうから」
「あー、そっか。部屋に閉じ込めて、ストレスで散らかしまくってるとかよく聞くもんな」
俺の同期にも、たしかそんなやつがいた。1人暮らしが寂しくて猫を飼い始めたけど、家中ひっかき傷だらけになっているらしい…。
「だから、私は見るだけでいいんだー」
顔を綻ばせながら言う凛の頭を撫でながら、俺は将来の家族像を思い浮かべた。
「いつか、飼おうな」
「いつかって?」
「家建てて、子どもが生まれるとき…とか」
“子ども”っていう言葉に反応したのか、凛は急に顔を真っ赤にした。
もう結婚したんだから、俺としてはいつできてもいいと思ってる。でも、凛にとってはそうもいかないだろう。産休・育休が比較的取りやすい環境ではあるけど、長い間席を外してしまったらどうなるのか…、考えただけでも恐いものがある。それだけでなく、つわりや病院なんかも働きながらだと大変だろう。共働き夫婦にとって、子どもの問題は大きな課題の1つでもある。
「大斗さん、子ども欲しいの?」
凛が俺のほうに顔を向けて、突然聞いてきた。その表情は、嬉しそうでも悲しそうでもない。凛がどういうつもりで言ったのかわからなくて…反応に困ってしまう。
もし、2人の意見が違ったら。それだけで、変な空気になってしまうかもしれない。けれど、ここは正直に言うべきだと思う。
「いーっぱい欲しいよ。凛との子どもなら、1人残らず愛情注げると思うし。もちろん仕事のこともあるから、今すぐじゃなくていいんだけど」
凛の反応を気にしながら、努めて笑顔で言うと…。幸いにも、彼女もにっこりと笑ってくれた。
「そんな風に思ってくれてたなんて、すっごく嬉しい。私も大斗さんとの子ども、いーっぱい欲しいよ」
もう愛おしくて、抱きしめずにはいられなかった。
可愛い奥さんと…まだ見ぬたくさんの子どもたちと、それからペットの犬。にぎやかで愛情溢れるマイホームを想像しながら、俺はやがてやってくるだろう未来に思いを馳せるのだった。
~Fin~




