彼の決意
夕方には退院することができ、私は大斗さんをマンションまで送ってから、一旦会社へ荷物を取りに行くことにした。
「…ほんとに、戻ってくる?」
マンションの部屋から出るとき、大斗さんは玄関に立って、まるで子犬のような目をしていた。
大きな大人のそんな様子を見て、なんだか噴き出しそうになってしまう。
「大丈夫だよ。すぐ戻って来るから」
大斗さんに笑顔でそう言い聞かせ、私は会社へと向かった。
無事に退院できたことを伝えると、オフィスのあちこちから冷やかしの野次がとんでくる。恥ずかしくて目を逸らすと、隣の席の阪本くんと目が合ってしまった。
彼は何かを決意したような顔で、私を見た。
「…ちょっと、いいか」
「うん…」
阪本くんと連れ立って、誰もいないカフェスペースに入る。
夕暮れ時で、なんだか妙にムードがある。
「俺、諦めねーから」
「…え?」
阪本くんは、私に背中を向けたまま話し始めた。
「たしかに、あの人は仕事もできるし、実際俺も今まで何度も助けてもらった。男の俺から見てもカッコいい人だよ。…でも、なんか悔しいじゃん。課長に仕事も恋愛も負けたままなんて。…俺、これからもっともっと頑張って、課長と同等に勝負できるようになるから」
そして、ぱっとこちらを振り向き、吹っ切れたような笑顔を見せてくれた。
「…うん!」
彼の、こういう潔いところが好きだ。これからもきっと、同期のよき相棒として、仲良くやって行けるだろう。
そして彼にもいつか、素敵な人が見つかることを願いたい。
「もし何かあったら、俺にすぐ言えよ?掻っ攫ってやるから。あの人、優しすぎてけっこう頼りないトコあると思うんだよな」
「ははは…」
やっぱり、彼の勘の鋭さは健在だ。




