うちにおいでよ(中編)
ソファに並んで座って話していたら、キッチンからピーッという音がした。
「あ、ご飯炊けたな。ちょっと料理してくるけど、凛は座ってて」
「ううん、私も手伝うよ」
「いいよー。お客さんなんだから」
「彼女なのに“お客さん”なんて、なんだか遠く感じるなあ~」
なーんて、実は確信犯だったりする。
大斗さんは驚いて、目を丸くして私を見た後、ふっと微笑んだ。
「わかった。じゃあ、一緒に作ろう」
「うん!」
キッチンのカウンターには、数種類のスパイスが並べられていた。
「バターチキンカレーを作ろうと思ってるんだ」
「いいね!おいしそう」
冷蔵庫を見ると、カレーのほかにも何品か作れそうなぐらいにいろいろそろっていた。寝に帰るだけって言ってたのに。
不思議に思っていたら、
「今日の昼に慌てて買い物したんだ」
と、大斗さんがちょっと照れたように言った。
「ふふっ。掃除もだし、そんなにあわてなくても」
「だって、すごく楽しみだったから」
もう…。またそうやって、恥ずかしいこと平気で言うんだから…。
「は、早く作りましょう!お腹空いてきたー!」
誤魔化すように大きな声を出すと、大斗さんはまたも笑っていた。
2人とも手際が良くて、分担して作ったからあっという間に出来上がっていく。
「あとは煮込めば完成だね」
「うん!…あ、ねえ、もう1品作ってもいい?」
「いいけど…、なに?」
「これを使ってもいいなら…」
そう言って私は、ライスペーパーを取り出した。
「ああ、うん、いいよ!いつか使おうと思ってたんだけど、けっこう手間だし、なかなか時間もなくて」
「じゃあ丁度良かった!私、巻くのけっこう得意なんだから」
「えー?ほんとかなあ」
ふふっと笑いながら、具にするためのレタスやニンジン、春雨を用意していく。海鮮は冷凍のボイル海老を使う。
「ほんとだ。器用だなあ」
「でしょ?」
ライスペーパーに具を乗せて、くるくるっと巻く。鍋をかき混ぜながら、大斗さんが興味津々で私の手元を覗き込んできた。
「大斗さんもやる?」
「えっ、やってみようかな」
大斗さんはそう言って、火を止めて手を洗う。タオルで水をふき取り、私の隣に戻ってきた。
なんだか張り切っていて可愛い。
「よし!凛先生、教えてください!」
「ふふっ、いいでしょう。じゃあ、まずこの部分に具を乗せて…」
「はいっ」
「次に、こことここをたたんで」
「はいっ」
「一気に巻きます!」
そう言いながら一緒に巻くと…、自然と大斗さんの手に自分の手をかぶせてしまっていた。肌の感触が伝わってきて、密着した距離が急に恥ずかしくなる。
「あっ、ごめんなさい!」
「なんで謝るの?」
私の引っ込めようとした手を、大斗さんが上から優しく包み込むと、さっきよりもしっかりと体温が伝わってくる…。
「もっと触れていたいって思うの、俺だけ?」
大斗さんは、ちょっと寂しそうな顔をした。
ち、近い…っ!
「…ううん。わたしも」
赤くなりながらも正直に言うと、横からふわっと抱きしめられた。私も(濡れた手だけど)彼の腰のあたりに、そっと腕をまわす。
「凛、なんだかいい匂いがする」
大斗さんが私の髪に鼻をうずめた。
「そうかな…?香水とかはつけてないけど」
「きっと、『凛の』匂いだよ」
それって、体臭ってこと?…なんだか、やらしいな。
でも、すごくうれしい。
私も大斗さんの胸に鼻をくっつけてみると、優しくてほっとする匂いがした。
「…私も大斗さんの匂い、好きだよ」
「ほんと?嬉しいな」
腕が少し強くなるのがさらに嬉しくて、私は自然と笑顔になった。




