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斯々然々って便利ですね

 さてはて、いい加減そろそろ話を進めたい第5部。実のところ忍の素性やら何やらは第2部か3部までで明らかにするつもりだったのだが、ついダラダラと余分に余文を重ねてここまで伸びてしまった。これはもう本当に作者が悪い。

 しかし作者が悪いのもあるが、さっさと考えをまとめて質問しない賢太郎も悪い。今だって賢太郎は何から聞こうか考えていて、それで黙っているものだから忍に体調を心配されている始末である。

「賢太郎様、もしやご気分が優すぐれないのでは?」

 口を開けたままの賢太郎に忍が首を傾げた。長く垂れたポニーテールを揺らす愛らしい仕草はいちいち可愛くて、賢太郎は思わず考えるのを止めて見とれてしまいそうになる。

「いや、そういうわけじゃ、無い、よ……」

 一応否定はしておいたが、その後の言葉が続かない。

 相も変わらず考えるばかりで疑問を口にしない賢太郎。引っ込み思案というか奥手というか。

 そうやってうんうん唸ってようやく出てきた言葉がこれである。

「本当に忍者なの?」

 さんざん時間をかけてこれなのだから本当にどうしようもない。それにこれはついさっきエレベーターの中できいた質問と同じではないか。

「忍び忍んで15年!」

 ババッと両腕をふりあげる忍。

 何度もやるものだから余程気に入っているのかも知れないが、さすがに最後まで大人しくしているほど賢太郎も阿呆ではない。

「ちょっと待って。15年って……今いくつなの?」

 どうみても忍は賢太郎と同い年か年下なのだが、15年というと結構なベテランでは無いだろうか。

 世の創作キャラクターには『ロリババア』という見た目ロリっ子の年増というちょっとよく分からないものも存在するが、忍の場合は正真正銘美少女なので一部のロリババア好きの方以外はどうか安心して欲しい。

「忍はただいま賢太郎様と同じく15歳でございます!」

 という事でようやく名前以外の情報が出てきた忍ちゃん。

「あ、同い年なんだ」

 てっきり年下かと思っていた賢太郎はちょっと驚く。よく考えれば「忍び忍んで15年」と言っているから15歳以下では有り得ないのだが。

「はい! 賢太郎様と同い年でございます!」

 それが嬉しいのか忍はニッコニコである。

「へー……」

 忍を見上げたままの賢太郎。

「はい!」

 ニッコニコ忍。

「……」

「……」

 会話終了である。

 いやいや待て待て何で黙るんだ賢太郎。ここは更に質問を重ねて忍の素性を明らかにする流れだろう。いや、それよりも何故自分が見知らぬ女に襲われたかを知るべきだろう。

 しかしまぁ仕方ないと言えば仕方ない。賢太郎はクラスでモテる方では無いから女子との接点は少ないし、元より自分の考えをすんなり表に出すほど外交的な性格でもない。そんな男が自分の部屋で女子と二人っきりでスラスラと会話を続けられるはずもない。

「ああ! そんな事よりも!」

 と、突然忍が何か思い出したように声をあげて、ガバッと腰を落とし正座した。

「賢太郎様! 一大事ゆえ至急お伝えしなければならないことが!」

 至急と言うには事が起きて大分時間が経っているような気もするが、とにかくようやく忍の口から何か語られるらしい。

「え? なに?」

 忍の物々しい雰囲気に賢太郎もつい座り直し身構える。

「実は――」

 と語り始めた忍だったが、忍に語らせると長くなりそうなので作者の都合により省略させていただく。このまま二人のやり取りに任せていたら日が暮れるか明けるかしてしまう。

 という事で忍の説明は例の言葉に変えて省略させていただく。

「実はかくかくしかじかで……」

「な、なんだってー!?」

 ……便利なものである。

 しかしこの「かくかくしかじか」、本来ならば既に説明のあった事柄を省略すべきもので、こうやって初めの説明で使うのは反則のような気がしないでもない。

 さてそれはともかく、省略されたままでは読者様も納得いかないであろうから、ここは勿論もちろん忍に代わって作者が説明をさせていただく。

 忍が言うには賢太郎の苗字である山凪というのは偽物で、甲魔こうまというのが賢太郎の本当の苗字だという。この甲魔一族は代々忍者の家系で、昔からどこかの家につかえて諜報活動や暗殺、今で言うスパイのような事をやっていたらしい。その中でも源之助とその息子、つまり賢太郎の祖父と父は政府からも雇われた超スーパーウルトラ忍者で、源之助は引退し死んだ事になっているが父親の方は今も現役で世界中を飛び回っているという。

「源之助様並びに白鴉しろからす様は忍者界のスーパースターなのでございます!」

 白鴉というのは父親の通称で、本名は忍も知らないという。

 で、そのスーパースターの息子である賢太郎が何故父親どころか自分の家系の事すら知らなかったのかというと、それは当然周りが賢太郎に隠していたからである。

「時代が変わりもはや忍者など架空の存在に等しく、今はもう主をもたぬ野良忍者が増えるばかりで、運よく主がいたとしても昔のような仕事はなく家政婦か執事、酷い者になるとヒモ同然の有り様で……」

 源之助からの受け売りらしいが、とにかく結局忍者を辞めて普通の職に就く者が多い先の無い職業を息子に継がせるのは如何なものかと、家の意向により賢太郎は普通の子として育てられる事になったのだ。

「えっと……それじゃ忍取さんは、どうして忍者に?」

「私は同じくくの一だった母に憧れしのびとなる事を決意しました!」

 忍も忍者の家系らしい。しかし先に言っていた通り今の時代そう簡単に主が決まるはずも無いので、忍取家と親交のあった甲魔家の息子を主にしちゃおうって話になったらしい。賢太郎を普通の子として育てるとは言ってもやはり忍者界のスーパースターの子なので何かに巻き込まれるかも知れない、だから万が一の時のために護衛として忍をこっそり付けとこう。賢太郎は普通の子なので、あくまで存在は知られないように。

 という事で忍はこっそり賢太郎を見守っていたわけである。

 5年前から。

「5年前!?」

 賢太郎は驚きのあまり鼻水を噴き出した。

 5年前と言えば賢太郎はまだ10歳の小学三年生である。忍も同い年のはずだが、そんな幼い頃から、いや少なくともその前から忍者としての修行か何かをやっていたという事だろうか。『忍び忍んで15年』というのもあながち冗談ではないらしい。

「ご、5年前から……ずっと?」

 差し出されたハンカチを片手で押し返しつつティッシュで鼻水を拭う。

「はい! 忍は5年前より賢太郎のしのびとして陰ながらお守りしておりました!」

 賢太郎が散らかしていた部屋を迷わず整理整頓できた事からして、忍の言っている事は本当なのだろう。しかも忍は気配を消せるのだ。現にマンションに入る前目の前にいる忍を見失ったのだから、今まで忍の存在に気付かなかったのも無理はない。

 となると気になる問題がある。

「それじゃその……お風呂とか、トイレとかは?」

 思春期の男子なのだからそれ以外にも見られたくないものは多々あるのだが、その辺は隠して恐る恐る聞く賢太郎。

 すると忍は賢太郎から目を逸らし、なんと僅かに顔を赤くして正座のままモジモジし始めたではないか。

「それは……その、任務でございますので……いつ如何なる時でもお守り出来るよういつもお側に……つまりその、お風呂やトイレ……」

 それ以外の時でも、とポニーテールの毛先で口元を隠しゴニョゴニョ言葉を濁しながら照れたように言う忍の姿は可愛らしいというか色っぽいというか、とにかく何か男心を刺激するものがある。

 しかしこの時賢太郎が抱いた感情はドキッでもなければムラッでもなかった。

 ぞぞぞ、である。

 無理もない。目の前にいる忍という女は賢太郎が知らなかっただけで実はずっと近くにいたのである。しかも頬を染めてわざわざ『それ以外の時も』と言っているのだから、つまり風呂やトイレどころか賢太郎の思春期も間近で見ていたという事だろう。忍がそれを思い出して顔を赤くしているのだと思うと、これはもうゲゲゲのぞぞぞである。まるでストーカーではないか。いくら可愛らしくても、これはちょっと気味が悪い。

「うう……」

 賢太郎はもう言葉もない。いったい何処から何処まで見られたのか詳しく知りたいところだが、知ってしまえば下手をすると心に深い傷を受けそうな気がして聞くに聞けない。

 しかしそれを知ってか知らずか、まぁ多分知らずになんだろうけど、目を逸らしたままの忍が本当に余計な世話を焼いてくる。

「その、賢太郎様。差し出がましい事を言うようですが、夜はもう少し早くお休みになられたら如何かと……」

 と、ここで止めてくれれば良かったのに余計な事に忍は「お盛んなのは結構ですが」と付け足した。

 なんだなんだ「お盛ん」って何の事だいったい忍は何の事を言っているんだ。

 賢太郎はカッと顔が熱くなってドッと冷たい汗をかいた。

 照れたような仕草で忍がチラッと賢太郎を見る。

「あまり回数なさいますとお体に良くないとも聞きますし……」

 回数ってなんだ回数って。いったい賢太郎が何をしたっていうんだ。いやまぁ何と言えばナニなんだがあまり書くとこの作品の品性――この作品に品性なんてものが有るのかどうかは置いといて――が損なわれてしまうので明言はしない事にする。

 賢太郎はもう恥ずかしいやら悔しいやら、穴があったら入りたいし入った後に上から土を被せて埋葬して欲しいような気持ちである。しかしそれは出来ないのは分かっているし実際に埋められるのも困るので、今はとにかく忍が目の前からいなくなってくれるのを願うばかりである。

 なのに忍はいなくなるどころか余計なお世話を続けようとしていた。

 紅顔うつむきポニーテールの毛先を両の指先でいじくりながら、

「いや、私ごときが賢太郎様の楽しみを奪うわけにも参りませんし、その……必要とあらば私がお手伝いを……」

 これは不味い、と思ったのは忍でも賢太郎でもなく作者である。これはもう大人向けの作品によくある展開ではないか。このままだとこの作品に年齢制限を掛けなければならなくなる。ただでさえ読者の少ない作品に年齢制限など読者数を0にするに等しいではないか。さすがにそれはちょっと困る。

 しかしそこは甲斐性無しの賢太郎。突然18禁の展開になろうとも「はい、じゃあお願いします」と言えるはずがなかった。

 賢太郎は顔が熱くて体まで熱くなってきたから制服の上着をそろそろ脱ぎたいのだが、このタイミングで脱ぐと何だか誤解を招きそうなので右手をボタンの上でオロオロさせる事しか出来ない。

 だらだらと嫌な汗をかきながら、

「い、いや、それよりも忍取さん時間大丈夫なの? そろそろ帰らないとお母さん心配するんじゃないの?」

 明確に拒否しないあたりちょっと期待しているようだが、とにかく今は羞恥心から逃れたくてやんわりと忍に退場をお願いする。それに実際時間も18時半を回って窓の外は日が暮れて暗くなっていた。

 忍はハッとしたように顔をあげる。

「い、いえ、私は賢太郎様をお守りする使命がございますので帰るわけには……」

「だからそれは俺知らないからさ。後でじいちゃんと電話で話すから今日のところは帰ってよ。ね?」

 しかし……、と忍は困った顔をする。

「先程の事もありますし、あの女が諦めたとも限りません。やはり私がお側に……」

「ちゃんと鍵掛けて寝るし、家がバレてると決まってる訳じゃないしさ。大丈夫だって。ね?」

 来るかどうか分からない女よりも、今目の前にいる忍をどうにかしたい賢太郎。目先の物事で判断するあたり賢太郎もやはり若いというか考えが足りないというか。

「賢太郎様、お言葉ですがそれは少し楽観的過ぎるかと。相手も忍者なれば鍵など飾り同然でございますし、標的の、ましてや一般人として育てられた賢太郎様の家を知るなど造作もない事でございます」

 ずずい、と身を乗り出してきた忍を避けるようにして賢太郎は少しのけ反る。確かに忍がやったように鍵なんて簡単に外せるかも知れないし、家だってバレてるかも知れない。しかし、もしかすると忍が賢太郎の家に居座るため大げさに言っているのかも知れない。

 そうだそうだそうに違いない、と賢太郎は忍を追い出したいがために都合の良いように考えた。

 弁解するような仕草で賢太郎。

「ほ、ほら、相手が忍者とも」

 限らないし、と言いかけたところを忍が遮る。

「忍者でございます」

 キッパリと断言した。

「ど、どうして?」

 それは、と忍は前のめりだった態勢から座り直し、両腕を広げ大きく拍手するような仕草を見せた。

「あ」

 賢太郎は思い出して声をあげた。これは忍が『猫騙気発掌びょうへんきはつしょう』とか何とか言って瞬く間に賢太郎の視覚と聴覚を奪った技ではないか。

「そういえばアレなんだったの。何か光と音が凄かったけど」

 忍が腕を下げて頷く。

「アレは猫騙気発掌びょうへんきはつしょうというてのひらに込めた気を爆散させ、その光と音によって相手の動きを封じる技にございます」

 忍の言っている『気』というのはつまり漫画に出てくる『念』だとか『オーラ』だとか『チャクラ』だとかそんな感じのものである。賢太郎もそれなりに漫画を読むので何となく想像はできるが、それだけにどうにも現実味がないように思える。

 掌に気を溜める、か。

 賢太郎は自分の掌を見詰める。手に何かを集めるイメージをしてみたが当然何かが起きるわけもない。

「これでございます」

 と忍が差し出した掌はなんとボンヤリ白い光を放っているではないか。これが気を込めている状態らしい。

「え、なにこれ凄い」

 賢太郎は純粋に驚いた。よく考えると忍が猫騙気発掌をやった時も掌が光っていたように思うが何しろ一瞬の事だったのでそこら辺はハッキリ覚えていない。

 にしてもこれは何なんだろう。物凄く薄い白煙がふよふよと掌にまとわりついているような感じだ。触ってみると感触らしい感触はなく、ただヒンヤリとした柔らかくスベスベとした心地よい肌の感触があるだけである。

 と、誰の肌の感想かと言えば勿論忍の肌である。

「んふ」

 忍がくすぐったそうに声をあげて賢太郎はハッとした。気が付くと差し出された忍の手をふにふにと触っていた。

 慌てて手を離す。

「ああ、ごめん。え、えっと、それでなんだっけ?」

 忍は触られた手を照れたように擦りながら話を再開する。

「はい、賢太郎様も体験した通り、猫騙気発掌を受ければ誰であろうと一瞬体が硬直し、目と耳も暫くは使えなくなります」

 自衛隊や軍が使う閃光弾やらスタングレネードやら呼ばれる物は強烈な音と光によって相手の動きを奪うが、この反射的に硬直してしまう反応を生理学だか何だかで『驚愕きょうがく反応』と言うらしい。下手をするとこの驚愕反応で死ぬ場合もあるらしいが、忍の猫騙気発掌は少なくとも閃光弾ほどでは無いので所謂いわゆるショック死するという心配はない。たぶん。

 まぁ賢太郎が驚愕反応だの閃光弾だの知っている様子ではないので、忍は分かりやすく例えた。

「つまり『猫だまし』の凄いバージョンでございます」

 だから気発掌。

「ああ、なるほど」

 賢太郎も納得。

 それで、と忍。

「猫騙気発掌によって私はあの女の動きを奪い、その間に拘束しようとしました」

 しかし。

「私の蹴りは避けられてしまいました」

「それってつまり、猫だましが効いてなかったってこと?」

 いいえ、と忍は首を横に振る。

「目も見えず耳も聞こえていなかったのは間違いありません。しかしあの女は私の足がその首に触れた瞬間に感知し身を捻りかわしたのでございます」

 常人の成せる業ではありません、と言う忍の目は真剣そのものである。

只者ただものではないと判断し、まずは賢太郎様の救出を優先いたしました」

 いやいやいや、と賢太郎。

「ちょっと待ってよ。何で俺はそんな只者ではない人に狙われてるのさ」

 そういえばその辺の説明がまだである。けっこう序盤の方で「一大事ゆえ至急お伝えしなければならないことが!」と言っておいて忍はその『一大事』を伝えていなかったのだ。少々品の無い流れになってしまったために作者もついうっかり忘れていた次第である。

 まぁこれはもう『次回への引き』という事にして説明は止めておこう。

「賢太郎様、あの女は巻物を狙っているのでございます。その巻物というのは――」

 おっとそこまで。そこから先は次回へ持ち越しである。

 という事で忍の台詞はいじらせて頂く。

「その巻物というのは斯斯かくかく然然しかじかで……」

「な、なんだってー!?」

 ……便利である。


 という事で結局まだ『起承転結』の『起』から抜け出せない本作。無駄ばかり多くて作者の技量の無さがうかがえるところである。

 次回はそろそろ新しい展開を、と思う作者だが果たしてそう上手くいくのだろうか。

 次回『部屋と巻物と賢太郎と私』

 乞うご期待!

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