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忍ちゃん、怒る

「お待たせしました」

 スーパーから出てきた忍が買い物袋を片手に小走りする。服装は例のピンク色の忍者服ではないしどちらかと言えば、少なくとも同年代の女子と比べると地味な格好だった。しかしスーパーに出入りする主婦やそれに付き添う子供の、こう書いては失礼だが、可もなく不可もない顔に囲まれた忍の周りは何となく華やいで見える。アイドルのようなオーラはさすが美少女くノ一を自称するだけの事はある。

 顔は良いんだよなぁ。

 なんて生意気なことを思う賢太郎。ガードレールに腰掛けていたのをやめて足元に置いていた学生鞄を拾う。

「じゃあ帰ろうか」

 少し優しい声を意識して言う。というのも、どうも忍は昨日の事を気にしているようなのだ。賢太郎がスーパーの外で待っていたのも実は忍が言い出した事だった。

「はい! 帰りましょう!」

 優しい声が上手くいったのかどうかはともかく、とりあえず忍の機嫌は良いようだった。

 昨日とは違い並んで歩く二人。 住宅街の道は入り組んでいて少し歩いただけでごっそり人がいなくなる。そのうえ賢太郎たちが歩いている道は人通りが少なく車はそもそも入れない道だった。マンションに行くくらいにしか使わない道というのもあるが、そのマンションの住民がこの道を使っているところすら賢太郎は見たことがなかったのだ。

 そんな物語的に都合のいい場所を特に会話もなく歩く二人。賢太郎は忍が昨日の事を気にしているのかどうかを聞こうか聞くまいか考えているせいで黙りこんでいる。悩むと黙りこむのが賢太郎の悪い癖である。

 忍の方はというと妙に上機嫌で足取りが軽い。時々「んふふ」なんて笑みまで浮かべている。

 スーパーの中で何かあったのだろうかと賢太郎が怪訝な顔をすると忍がふいと顔をこちらに向けて、

「んふふ」

 とまた笑うのだった。

「どうしたの」

 さすがに気になって賢太郎が聞くと、忍はまた笑みを浮かべはしゃぐ子供のようにくるりと回った。ポニーテールがひらりと揺れる。スカートならば花弁のように広がって映えたかも知れないが、あいにく忍はズボン派である。どうも忍はボーイッシュな格好が好きらしい。

「んふふふふ、実は賢太郎様、さきほど買い物中の奥様方の一人に『外で待ってるのは彼氏?』なんて言われまして、んふ」

 あ、と賢太郎は思わず足をとめた。

「そっか、そう見られること考えてなかった」

 今更になってようやく気付いた賢太郎。クラスメイトにでも見られたらちょっと困りものである。

 ところが足をとめた忍は賢太郎の方を向き得意気に胸を張った。

「ご安心ください賢太郎様。賢い忍はそれが賢太郎様の意に沿わぬ誤解であると理解しておりますのでキッチリバッチリ否定しておきました」

 なるほど忍なりに気を遣ってくれたらしい。

 賢太郎はちょっぴりホッとして息を吐く。

「ああ、ありがとう忍取さん。それでなんて答えたの?」

 もちろん、と腰に手をあて答える忍。

「それは誤解を生まぬよう真実正しく『いえいえただの主従関係です』と答えておきました」

 賢太郎は先程ホッと吐いた息をヒュっと吸い戻した。

「それはそれで違う誤解を生みそうなんだけど……」

 それまで得意気だった忍が一瞬石のようにカチンと固まる。それからみるみるうちに顔を曇らせて

「も、もしや忍はまた賢太郎様の意に沿わぬ行動を……」

 と言いながらよろよろ後退りペタリとブロック塀に背を預けた。

「いや別に俺の意に沿うようにとか気にしなくて良いんだけど、『主従関係』ってのもなんか……」

 そこはかとなくアブノーマルな匂いがしないでもない。

 まぁそれで誤解を生んだとも限らないので、賢太郎はそこまで気にしていなかった。

 しかし忍はやはり昨日の事があったからか、いや昨日の事がなくてもそうしていたような気はするが、なんとガバッと地面に膝をつき手をついた。持っている買い物袋の中には卵もあるので取り扱いには注意して欲しいのだが。

 それはともかく道の真ん中で正座する忍。

「申し訳ありません賢太郎様! 昨日に引き続きまたしても忍は……」

 と言っている途中で忍は急に目付き鋭くすっと立ち上がった。先程自分達が歩いてきた丁字路を睨んでいる。

「え?」

 忍をなだめようと近付いていた賢太郎は、突然の起立におっかなびっくり仰け反って忍の視線を追う。しかし視線の先には突き当たりのブロック塀しかない。

「何者か」

 忍が静かに、そこに誰かがいることを確信している口調で言った。やはり賢太郎には何も見えていない。

 男の声がした。若いが明らかに賢太郎よりも年上であろう声だ。

「この距離で気付かれるなんてなぁ」

 その声は後ろからだった。

 忍は振り返り、不敵な笑みを浮かべて言う。

「ふっ、やはりそこに居ましたか」

 まるで男の居場所を知っていたかのような口調だが騙されないで欲しい。忍はさっきまで全く逆の方向を見ていたのである。

 忍につられて逆の方向を見ていた賢太郎も、心の中で「後ろかい」と突っ込みながら振り返る。

 ちょうど家一軒分離れたくらいの位置に、マンションを背景に男がたっていた。オッサンというほど年を食ってもいなさそうだし、青年というほど若そうでもない。どことなく微妙な男であった。

 ウサギの顔がプリントされたシャツに虎柄の上着という野性溢れるファッションの男は賢太郎を指差して言う。

「おいおい賢太郎くん、こんな道端で女の子に土下座させるなんて見損なったぜ」

 見損なうも何も初対面のはずなのだが。まぁこの男も十中八九巻物が狙いなのだろう。

 ということで賢太郎は一昨日のように痛い目に合う前に誤解を解いてしまう事にした。

「忍取さん、えーと……悪いけど巻物のこと説明して」

 人任せである。

 しかし忍は嫌な顔1つせず「承知!」と答え男の前に歩み出る。

「何者か存じませんが十中八九巻物が狙いでございましょう? しかし残念ながら巻物は……」

 と忍が言っているのを男がバッと手を出して止める。いや、それだけでなくもう片方の手で顔を覆うようにして何だかナルシスト臭いポーズをとった。

 そしてそのポーズで発した台詞が

「ノンノンノン、違うぜお嬢さん」

 だったので賢太郎は声に出さす「うわぁ……」と口を動かした。

 もしかして変人だろうか、と賢太郎が思っているそばから忍が負けず劣らずの変人ぶりを発揮する。

 忍はなぜか男と同じポーズをとって

「ノンノンノン? 何が違うのですかお兄さん」

 と聞き返した。

 男がナルシストポーズのままリズムを刻むようにして上下に揺れだす。

「アイアムヘルプマン、俺はお嬢さんを助けにきたのさ」

 忍も同じく上下に揺れだした。男のリズムにピッタリ合わせている。ちなみにビニールの買い物袋も突きだした手にぶら下げたままで一緒に揺れているのだが、どういう訳かあのガサガサという煩わしい音はしない。音を出さない辺りは忍者らしいというか何というか。

「ワッツイズヘルプマン? いったいどういう事でしょう」

 それはさておき何故か台詞まで男の真似をする忍。

 同じポーズで揺れながら会話するというおかしな空間で1人棒立ちの賢太郎。

「……そのポーズ必要なの?」

 こうなると自分だけ空気が読めてないような気もしてくる。

「賢太郎様」

 忍が背を向けたまま揺れながら若干笑い気味に答える。

「ちょっと楽しゅうございます」

「……よかったね」

 聞くだけ無駄であった。

 下手に口を開いたせいか、無意味に揺れる男の矛先が賢太郎に向いた。

「ヘイヘイヘイ、賢太郎、ノリが悪いとモテないぜ?」

 学生はともかく大人でそのノリは引かれるんじゃなかろうかと思う賢太郎。

「別にモテたいとか思ってませんよ」

 もちろん嘘である。内心では図星を突かれてドキッとしている。

「フッフッフ、嘘はダメだぜ賢太郎。どんな男も心は獣。メスを求めて生きるのさ」

 図星を突かれたのもあって男の揺れが段々小馬鹿にしているように見えてきた賢太郎。そもそも何故揺れているのか。

 ここで相変わらず揺れている忍が男に返す。

「ンッフッフ、心配無用余計なお世話。忍の他に女子おなごは不要。モテない方が好都合」

 モテないことに関してフォローする気はないらしい。にしても男といい忍といいそのリズムをとったような口調はなんなのか。

「モテるとかモテないとかはどうでも良いんだけど」

 モテるとは誰も言ってないけどな、と男が口を挟む。余計なお世話である。

「……それは別に良いんですけど、普通に話せないですか?」

「賢太郎様、その事について1つ問題が」

 忍が揺れながら答える。声はもう笑っていない。

「どうしたの?」

 もしやこの変な動きは男の忍法とか忍術とかそんな感じのもので、忍はその術にかかってしまったという事だろうか。例えば男の真似をするとずっとその動きをしてしまうとか。

 なんて事を一瞬考えた賢太郎だったが、

「忍は今、止め時を見失っております」

「……今すぐ止めていいと思うよ」

 考えるだけ無駄であった。

「しかし今と言われてもその今とはいったい何時の今なのか忍には判断しかねます」

 ならどうしろというのか。

 揺れ続ける忍に賢太郎は呆れて呟いた。

「じゃあいつ止まるのさ」

「今でしょ!」

 ピタリと止まる忍。イラッとする賢太郎。

 なぜかドヤ顔で振り返った忍だったが、賢太郎の眉間に皺を寄せた顔を見て一瞬で青ざめた。お茶目が過ぎた事にようやく気付いたらしい。

 賢太郎はそんな怖い顔をしていたつもりは無かったのだが、また忍が落ち込むとなんなので苛立ちをため息1つに抑えて忍ではなく男に向かって言う。

「すいません何か用なんですか?」

 巻物を狙っているわけではないらしいが、だとしたらいったい何の用なのか。

「用があるのは君じゃなくてお嬢さんの方さ」

 普通に喋りはしたが相変わらず揺れ続けている男。もしかしてコイツも止め時を見失っているのだろうか。

「用があるというならば、そのふざけた態度を改めてはいかがでしょうか!」

 何故か忍が怒った。

「貴方に合わせたお陰で賢太郎様の機嫌を損ねてしまったではありませんか!」

 八つ当たりじゃないか、と賢太郎は思ったが男は忍に用があるらしいのであとは忍に任せることにした。

 忍の言うことを聞いたという雰囲気ではなかったが、男はナルシストポーズを止めてなにか納得したような顔で答えた。

「なるほど、本当っぽいな」

 意味深な口調に忍は首をかしげる。

「どういう事でしょうか?」

 男はチラッと賢太郎を見る。賢太郎はそれに気付かない。男が忍に用があると言っているので忍者同士のなんやかんやだろうと完全に無関係気分で上の空なのである。

 男は忍に視線を戻して言った。

「お嬢さん、その主様のことは好きかい?」

 ぬ? と賢太郎はどうやら自分の話が出たらしい事に気付いて耳を傾ける。

 そして男の質問に対し忍はあっさりキッパリ

「ぞっこんLOVEでございますが?」

 と答えたのだった。

 これには聞いている賢太郎の方が動揺したが、忍が振り向きもしないので何かリアクションした方がいいのか悪いのかいまいち分からない。

「よくまぁ恥ずかしげもなく……」

 男が呆れたように言った。賢太郎も同感である。

 しかし忍は胸を張る。

「人を好きになって何を恥じることがありましょうか」

 忍の言う通りではあるが好きと公言された賢太郎は照れるやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤である。いや、よく見ると忍の耳も赤いではないか。

「顔が真っ赤だぜお嬢さん」

 と男に指摘される忍。

「それとこれとは別!」

 別らしい。

 ふーん、と男は賢太郎に視線を移す。

「それで、主様はそれを認めてるのか?」

 主様、の部分がバカにしたような口調だったが賢太郎はそれどころではない。動揺しているところに話を振られてしどろもどろである。

「え? え? えぇ……ええ? え? えぇ~……」

 ゲシュタルト崩壊を起こさんばかりの台詞を忍が遮る。

「賢太郎様、答えずともよろしゅうございます」

 忍がそう言うなら答えないでおこう。忍は美少女だがだからと言って好きかどうかと聞かれるとどうにも分からない。確かに賢太郎は忍の笑顔にドキッとしたり密着されてドキッとしたり今だって好きと明言されてドキッとしてはいる。しかしそれは好きだからなのか単にモテない賢太郎が女慣れしていないからなのか、それは本当に分からない。そもそも告白した事もされた事もない賢太郎は好きという台詞を口に出すのがどうにも抵抗がある。

 まぁなんにせよ答えないで済むならそれが一番楽なのだ。賢太郎は素直に忍の言う通り口を閉じて考えるのをやめた。

「……それで、私が賢太郎様にぞっこんLOVEな事が貴方になにか関係ありましょうか?」

 後ろからなので賢太郎には忍の顔は見えないが、なんだか声が怒っているような感じである。

 まぁまぁ、と男はなだめるような仕草をしながら答える。

「落ち着きなよお嬢さん。俺が言いたいのはつまり、そんな冴えない男に掟破りの恋愛感情向けてないで、ここは身分相応同じ忍者の俺と」

「お断りします」

 男の台詞を最後まで聞かずに断る忍。

「用件はそれで終いでしょうか? ならば私たちは帰らせていただきます」

 冷たく言った忍は賢太郎を振り返ってニコリと笑う。

「さ、帰りましょう」

 待ちなお嬢さん、と男。

 忍の顔が笑ったまま片頬をひくりとさせた。賢太郎としても男がしつこいのでそろそろ無視して帰りたい気分ではある。

 振り向かない忍に男が続ける。

「実は最近ある忍者が主に告白して廃業してるんだ。俺とどうこうってのは冗談として、お嬢さんがその忍者の二の舞にならないか心配してるんだぜ」

 どうやらこれは真面目に言っているようだ。

 忍は聞いているうちに段々俯いていた。それに付け加え「んんんんん……」と呻きのような声をあげる。明らかに何かの前兆である。

 それに気付いているのかいないのか男は続ける。

「だいたい主従関係が出来上がった時点で恋愛なんて無理なのさ。従者は従者、愛はあっても恋はなし。良くて家族愛、もしくは飼い主がペットに向ける愛情と同じ。いくらアピールしたってフラれるか都合の良い女扱いされるのがオチだぜお嬢さん。そこの主様だってお嬢さんを女としちゃ見てないだろ?」

 男の台詞にはさすがに賢太郎もカチンとくるものがあった。いったい何が気に入らないのか賢太郎自身はよく分からないが、とにかく何だか忍に対して失礼な事を言っているような気がしたのだ。

 あのですね、と口を開きかけた賢太郎だったが、それよりも先に忍がした。

「ムキャーーー!!」

 俯いていた顔をバッと上げて忍は男を振り返る。そして肩をいからせズンズンと足取り強く、ガッサガッサと買い物袋を鳴らしながら向かっていく。

「さっきから聞いていれば要らぬ世話ばかり!」

 体当たりせんばかりの勢いで胸が当たるギリギリまで接近し、下から睨みあげ人差し指で男の胸をドンと突く。

「よろしいでしょうか! 忍は確かに賢太郎様を慕っております! ええもうそれはそれはぞっこんLOVEでございます!」

 しかし! と忍の指がまた男の胸をドンと突く。

「だからと言って忍は賢太郎様と結ばれようとは! 思って! おりません!」

 言いながら何度も指でどつく忍。男も勢いに圧されて段々のけぞり気味になっている。

「忍の想いは見返りを求めておりません! 今の関係で充分満足しております! 片想いで完結! そもそも賢太郎様とは一昨日ようやく! ようやく顔合わせを果たし今こうして並んで歩けるようなったばかりと言うのに! それを貴方は関係を壊すような事を無神経にズケズケと!」

 ドン、とまた男の胸を突く。

「無神経に!」

 もう1つドン。

「ズケズケと!」

 さらにドン。

「無神経に!」

 だめ押しでドン。

「ズケズケと!」

 フルコンボだドン。

「お、忍取さーん……」

 そろそろ男の胸に穴が空きそうなので賢太郎は忍を呼びとめる。

 肩で息する忍は1つ深くため息をついてクルリと振り返った。その顔にはもう怒りはなく、どちらかと言えばしょんぼりした表情である。

「申し訳ありません賢太郎様。みっともない所をお見せしてしまいました」

 確かにムキャーーー!! の辺りから呆気にとられはしたが、忍の気持ちも分からないではない。

「ん、まぁ……いいよいいよ。仕方ないよ、うん」

「だけど忍ちゃん」

 のけぞったまま男がなにか言い出した。まだ懲りないのかこの男。

「片想いのままでいるってのは」

 忍がキッと振り返り睨むのも構わず男は言った。何だか哀れむような静かな声だった。

「それは、フラれるより辛いんじゃないか?」

 その時忍がどんな顔をしたのかは賢太郎には見えなかったし、見えたとしても恐らくそれは賢太郎にはどうしようもできない類いの表情だったに違いない。だから見えていようがいまいが結局賢太郎は忍が振り向かずに言った「賢太郎様、帰りましょう」の言葉に大人しく従うことしかできなかった。

 忍が男の脇をすり抜け歩いていく。その背を追うように振り返った男は声をかける。

「最後だ忍ちゃん。俺の名前を覚えていきな」

 虎柄の上着をババッと素早く羽織直しクルっとターンする。軽く足を広げまたナルシストポーズ、今度は片手を横に突きだした格好をビシッと決める。

「俺の名は風賀ふうが探丸さぐまる! 又の名をおごぉっ!?」

 男の股の間から忍の靴の裏が見えた。

 忍は蹴りあげたのである。

 男の、アレを。

 崩れ落ちる男に忍が冷たく吐き捨てる。

「貴方の名前など1寸ほども興味ありません」

 ついでに、と忍は続ける。

「そのファッションセンスは無いと思います」

 踏んだり蹴ったりである。ファッションセンスに関しては忍の忍者服も負けず劣らずだったような気がするが今は置いておこう。

「さぁ賢太郎様、今度こそ帰りましょう」

 クルリと踵を返してくてく歩いていく忍。

 忍を追って歩きだす賢太郎。股間を押さえたままうずくまる男の横を通る。

「あの、すいません、帰りますね……」

 よほどの衝撃だっただろうと賢太郎は同じ男として同情する。だからといって助けたりはしないが。

 小走りで忍の背に追い付く。忍がちょっとペースを落としたので隣に並んで歩いた。

「……忍取さん、あんまり男の人のあそこ蹴っちゃダメだよ?」

「いいえあれは蹴らねば分からぬ輩にございます。それよりも夕御飯が遅くなってしまいましたね。帰ったらすぐに作りますので」

「いや別にご飯はもうちょっと遅いくらいで良いんだけど……そういや今日はなに作るの?」

「オムライスでございます」

「今日も?」

「はい! 昨日はオムが完熟になってしまいましたので、今日こそは半熟の美味なるオムライスを!」

「あの包んでる卵ってオムって言うんだ……」

「オムとライスでオムライスでございましょう? 今日こそは半熟にしてみせますので期待していてくださいませ!」

「まぁ期待はするけど、成功してもしなくても明日はオムライス以外にしてね」

「では明日はオムレツとチキンライスにいたしましょう」

「分けただけじゃん……」

「んふふ」

 男がまだ立ち上がれないでいるのを見向きもせず何だか仲良さげな雰囲気で家路に着く二人。顔を上げてそれを見ていた男が「リア充かよ」と呟くのも無理はない。

 さてその呟きの後で男が「リア充なら爆発させなきゃな」と意味深な笑みを浮かべたのを二人は知る由もない。



 終盤の賢太郎がリア充すぎてムカつく作者。その作者の気持ちを代弁したかのように嫉妬を顕わに何か企む男。名前は言えたが二つ名までは言えなかった哀れな男である。

 次回『弐ちゃんねる・その2~賢ちゃん爆破計画~』

 乞うご期待!

 

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