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ジャンクフードのこと




 ジャンクフードを食べながら考えるのはちい先生のこと。

 今日は忙しくてちい先生とは会っていない。昼飯もろくに食べていなくてようやくありつけたジャンクフードの体に染みること染みること。体に悪いものほど美味いというけれど、これは単純に体がカロリー不足なんだと思う。けれど、ちい先生はいい顔をしないんじゃないかな。

「米くん、あまりジャンクフードばかり食べてはいけないよ」と念を押すちい先生の声が聞こえるようで、俺は胸の中で「ごめんなさい」と呟く。しかし、もしゃもしゃとバーガーやポテトを食べる手は止まらない。

 ちい先生はジャンクフードを食べたことがあるのかな。あるのかもしれないけど、なんだか似合わない。かといって、ファミレスのお子様ランチが似合うかといえばそれもまた似合わない。

 じゃあ何が似合うかといえば、まったりと日本茶に煎餅や饅頭なんかが似合う。決してじじ臭いと言っているわけじゃない。俺にコーラとポテチが似合うのと同じようなものだ。

 コーラといえば、ちい先生が言っていた松葉サイダーなるものを飲んでみたい。サイダーというのは自分でも作れるらしい。それも松葉からなんて不思議。考え付いたひとはすごいなあ。

 教えてくれたちい先生も相変わらず物知りだ。

 俺とちい先生が出会ってかれこれどこのくらい経つだろう。小学生とヤクザの下っ端がよくもまあここまで仲良しになれたもんだ。自分で言うとちょっと恥ずかしい。

 ちい先生は俺のことどう思っているんだろう。

 少なくとも嫌われてはいないと思う。だって、縁を切りたければ公園に来なければいいんだ。携帯電話だって着信拒否してしまえばいい。

 それだけで俺たちの関係は簡単に終わる。それでもそれをしないのは、なんて俺は自惚れてみたり。あ、頭のなかでちい先生がやれやれと肩をすくめている。

「米くんは後ろに前向きだね」なんてため息を吐いて、俺のことを仕方ないなあ、と見てくる。

 多分、本物のちい先生に「俺のこと好き?」なんて訊いたら同じ反応をするんじゃないかしら。

 そんな想像をしながら食べ終えたジャンクフード。トレイを片付けにいったら店員さんが「そのままで大丈夫ですよ」とトレイを受け取ってくれたので軽く会釈をして店を出る。店の外は冷たい小夜風が吹いていて肌寒かった。

 俺はぶるり、と肩を震わせながら歩き出し、交差点で信号に捕まる。しばらくすれば赤信号が点滅し始め青信号へと変わる。変わったら俺はまた歩き出して家路につく。

 ちい先生に出会う前までは当たり前のサイクルだった。昼はビニ弁、夜はジャンクフード。鍛えているから大げさな脂肪はつかなかったけど、体には悪い生活をしていたもんだ。

 ちい先生と出会ってからはちい先生にも喜んでもらいたくて、美味しいものをあちこち探すようになった。俺の舌は確実に肥え始めている。だけどたまに食べるジャンクフードが美味しいのもほんとうのこと。たまにだからいいのかもしれない。


「そう、たまのことだから許してよ、ちい先生」


 俺は嘯きながら足元の小石を軽く蹴る。

 明日からはまたまともなご飯を食べるようにするから、今日の夕食はジャンクフードでした、なんて報告をしないことを許して欲しい。

「まったく仕方のない米くんだ」と頭の中でちい先生が苦笑いするけれど、現実のちい先生にされるよりマシだ。だって、ちい先生にそういわれると罪悪感が湧いて仕方ないんだ。

 明日ちい先生に会って「昨日はなにを食べたんだい?」なんて訊かれたら、俺はどう答えるだろう。誰か模範解答を教えて欲しい。

 なるべく嘘は吐きたくないから、その辺も考慮してよろしくどうぞ。

 俺は誰にともなく呟いて、途中にあった自販機でお茶を買う。飲めば独特の苦味が口のなかに広がったけど、そのおかげでジャンクフードの油っ気もなくなったような気がする。

 うん、やっぱりジャンクフードはたまにでいいや。

 たまに、たまに。こっそり行うたまにの悪さ。

 ちい先生には内緒だよ。

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