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蒼い戦槍

怪物を追って山の奥まで来た。

怪物は人間を捕食しながら進んでいると思われ、

奴が通った道には、夥しい赤い液体が草や木に飛び散っていた。

ゴゴゴ・・・

急に、地震でも起きたかの様に大地が揺れる。

突然起きた地震は、体の平衡感覚を奪う程の規模のものだ。


「くそっ・・・、どうなってるんだよ!!」


必死にバランスを保つ。だんだんと地響きが近づいてくる。

まるで、地中から何かが突進してくるような感じだ。


「・・・!!まさか!!」


俺はありったけの力を振り絞り、前方にダイブした。

すると、先程まで立っていた場所から轟音と共に地震の原因である

怪物が、地面を突き破って姿を現す。


ヴォオオオオオォォォォォォォ!!


大音量のスピーカーの如く、大きな咆哮を上げる。

間近で見ると、やはりこの世の生き物ではない。

どこかの文献で出てくる悪魔みたいな姿をしていた。

下半身は獣、上半身は人間、頭は不気味な仮面を付けており、表情は伺えない。

体長は、10メートル前後で、右腕に大きな剣、左腕には誰かの千切られた足が握られていた。



「化け物が・・!!」


体勢を立て直し、身構える。

恐怖で震えている両足を、何とか黙らせる。

仮面で顔は見えないのに、眼だけは赤くなっていて、

見られるだけで、体がすくんでしまう。

体中から気持ち悪い汗が噴きだし、服を湿らせる。

距離は十分保っているのに、喉元に刃を突きつけられている様な気分だ。


ヴォオオオオオオオオオオ!!!


怪物がしびれを切らしたのか、

剣を乱舞させながらこちらに突進してきた。


直撃ギリギリの所で何とか回避する。

だが相手は怪物、俺は所詮人間。

たった2~3撃攻撃を避けた後、巨大な剣が俺のがら空きになったわき腹を捉えた。

死ぬ―――!!そう感じた俺は、本能的に眼を瞑った。

脇腹にとてつもない衝撃が走る。まるで車が突っ込んできたかのような威力だ。

俺はそのまま木々をなぎ倒しながら、岩場に突っ込んだ。

怪物が突進してきて、俺の腹に刃を突き立てる。

口から鮮血が吹き出し、肺から空気を抜かれる。


「 ハア、ハア、くそがぁ・・・・!!」


何故か絶命しない。痛くて今にでも意識が飛びそうなのに、体がそれを許さない。

内臓の一個か二個は必ず潰れている筈だ。いや、たぶんそれ以上だろう。

激しく咳き込みながら、また体から血を吐き出す。


「・・・・っ!!!」


刃の突き立てられた部分に、何とか目をやる。

突き立てられた所を見ると、破れた制服の間から、黒い模様が皮膚に浮かんでいるのが見える。


「な・・・ん・・・だよ、これ・・・!」


怪物もそれに気づいたのか、距離をとって様子を見ている。

逃げ出したくても体がボロボロで、言うことを利いてくれない。

このままだと、怪物になぶり殺され、餌になってしまう。


「約束・・・まもれねえな・・」


公斗きみととした約束、生きてまた会おうという約束。

それを果たせないのが、唯一の心残りだ。

怪物が、止めを刺すべく一歩一歩近づいてくる。

逃げなきゃ・・・、這って逃げようとするが

願いもかなわず、怪物に体を押さえつけられる。

万力のように、俺を絞め殺そうとする。

声を出す余裕もなく、徐々に意識が遠のいていく。


「・・・・・?」


薄れ行く朦朧とした意識の中、視界の端に蒼が映った。

次の瞬間、強烈な爆音と共に怪物が5、6メートル飛ばされる。

俺もそのまま、宙を舞い地面に叩きつけられる。

咳き込みながら、空中を見る。

夜の空に、蒼く輝く人影があった。


蒼い―――。


その人物を一言で表すなら、この言葉以外考えられなかった。

シルエットからして、たぶん女性であろうメリハリのある体つきが伺えた。

右手に大きな槍を持っているのが見える。


ゴォォアアアアアアアアア!!!!


怪物が激昂し、巨体に似つかぬ速さで立ち上がる。

地上と空からの睨み合いが続く。

すると、彼女が槍を空に掲げる。

後から美しい声がこちらに響いてくる。


「流された血よ、我にあらわにせよ。

    死した者よ、我に双眼そうがんの涙を見せよ。

          罪深き者よ、我にこうべを差し出せ。

      蒼炎に焼かれ 罪を償え 葬蒼罪槍ヴォルカニルス!!」


彼女の持っている槍が、美しい蒼い炎に包まれる。

彼女の右腕も、同じように燃えている。

体の痛みを忘れて、見入ってしまう幻想的な姿だ。

怪物まで動かずに見入ってるほどだから、よほど美しいのだろう。


罪火ざんかに身を焦がせ、殲熱地獄オルガニス


彼女が呪文を唱えて、蒼を纏った槍を怪物めがけて放つ。

怪物は動かないまま腹部に槍をまともに受け、断末魔のの声を上げないまま光に包まれた。

花火が爆発するかのような爆音が、周囲一帯に響く。


怪物が死んだのを見て、安心したのか意識が遠くなる。

痛みが激しくなってきた。

彼女が降りてきて何か話しかけている。


「・・・・!!!・・・!!」


何を言ってるのかさっぱり理解できずに、思考が停止。

世界が暗転した。




●●●●●●



目を覚ますと、目の前に犬がいた。

可愛い犬だ、チワワに似ている。違和感があるとすれば、

何故か右目に眼帯を付けていること位だな。何故か、ダンディー見えるのは目の錯覚か?

首を動かして、状況を確認する。腹の上にはダンディーな犬。俺はベッドに寝かせられている。

ベッドから女の子特有の甘い香りがするのは気のせいだろう。

どうやらここは、一軒家らしい。取り敢えず体を起こす。

木造建築の家のいいにおいがする。どうしてか、女の子の匂いもする。

どうやらここは、この家の家主の部屋だろう。

壁には絵が1枚飾ってあり、部屋には最低限の家財道具いか置かれていない。


すると、いきなり扉が開いて、1人の女の子が入ってきた。

彼女は、森で俺を助けてくれた女に子だった。

今は武装はせず、露出度の低い服を着ているが、何故か右手には槍が握られているミスマッチな格好だ。


「よかった~、起きたんだね。私の事分かる?」


「・・・ああ、俺を助けてくれたんだろ?」


彼女は長く伸ばした黒い髪を無造作に後ろで束ねている。

前見たときは、青かったのに何故か今は黒になっているので不思議だ。


「あの時はびっくりしたよ。人間が何であんなに危険なところに居るのかが、どこから来たの?」


「・・・それが―――」


今までの経緯を彼女に話した。


「・・・・そうっだったの、友達と一緒に来たんだ・・・」


「ああ、あんたがあそこで俺を助けてくれなきゃ、今頃土に還ってたところだぜ」


「あなたは異世界人?」


「簡単に言えばそうだな、えーっと」


「・・・ユーリア」


「へ?」


「私の名前、ユーリア・アルカイルって言うの。ユーリアって呼んで」


優しい笑みを浮かべて自己紹介。笑った顔が眩しすぎるぜ!!


「俺は空護、天原空護あまはらくうご。よろしくな、ユーリア。」


名前を呼ばれて恥ずかしいのだろうか、顔が真っ赤になっている。

何だこの感覚、今すぐ抱き締めたい衝動に駆られる。

落ち着け、落ち着くんだ、俺!!


「ユーリアは、ここに住んでいるのか?」


「そうだよ、ここが私の家なんだ」


元気よく説明してくれる。


「取り敢えず・・・状況確認は大体終了だな」


「空護の友達は昨晩、数人保護したよ」


「本当か?!ありがとうな!!その保護した奴って・・・」


「大丈夫だ、村長の家でぐっすり寝ているよ」


たぶん、公斗きみと達だろう。

嬉しさを噛み締め、体に力を入れて起きた。


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