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一人よがり

第一章   やかましい!!



空護くうごさん!空護さん!起きてください!」


体が揺さぶられる、叩かれる、さまざまな衝撃を受けて

俺は起きた。


「どこ起こしてるんですか!!」


顔面をグーで殴られる、新たなる世界への扉が、今なら開けられる気がした。


「おーきーてーくーだーさい!!」


「ヘブシッ!!!」


思いっきり腹に乗ってきやがった。痛くてたまらんわ!!

ちゃんと起きてみると、目の前にはひいらぎがいた。

くりくりした両目でこちらを見据えてくる。


「空護さん、変態さんだったんですか」


「男はみんな、変態なんだよ。そこんとこの理解ができたら、立派な大人だぜ」


自分でも意味の分からない事を言いながら体を起こす。

そこは教室ではなく、うっそうと木々が生い茂る森だった。

これは夢か?現実か?幻か?


「柊、俺のこと殴ったよな?」


「はい、4発殴りました」


律儀に回数まで答えてくれた。


「じゃあ、目の前に映っている風景は何だろうな?」


「もう一発、いきますか?」


満面の笑みで聞いてくる。こいつ、ドSかな?


「ぜひ遠慮しておく」


これ以上殴られれば、別の一線を越えてしまう。


「皆は?俺らだけなのか?」



「教室に居た人達は皆ここに居るようですよ?」


周りを見渡すと、教室に来ていた生徒が皆、草の上で倒れていた。

その中に、友人である育嶋秋いくしまあき花林公斗はなばやしきみとが転がっていた。

駆け寄ってみると、2人は気絶していた。起こしてみると、周りの風景に驚愕していた。


「ね・・ねぇ・・ここは一体どこなのかな?」


あきが震え声で聞いてくる。


「うむ、こんな場所しらねえな、ここどこだよ?!」


公斗きみとが聞いてくる。


「待ってくれ、まだ俺も状況が把握できていない」


俺が混乱しているときだった。




「うるさいですよ、そこの人達。黙ってくれませんか?」


とげとげしい言い方で俺たちに話しかけてきたのは、木田満きだみつるだった。

頭は普通なのに何故か、皆に対して態度が横柄であるのだ。

俺は正直、この手の相手と話したくないし、関わり合いたくない。


「悪い、うるさくしちまったな」


「分かればいいんですよ、分かれば」


そういって、皆を蹴って起こしていく。

殴ろうと思ったが、我慢した。


大体皆が起きた。全部で17~18人くらいかな?

皆が一箇所に集まり、状況の確認をしていた。

そこで木田が声を上げる。


「みなさーん、起きましたかー?取りあえず僕の話を聞いてくださーい」


皆が木田に視線を注ぐ。

さっきの事など無かったかのような振る舞いをしている。

取りあえず話だけは聞こうと思った。


「皆さん!!どうやら僕たちは、大きな事件に巻き込まれたようです」


皆がざわめき、五月蝿くなるが、木田が手を叩き沈める。


「まず、身の安全を考えましょう。私が指揮を執るので皆さん僕に付いてきて下さい!!

そうしてまず、この山から脱出しましょう!!」


皆から野次が飛ぶ。

道なんて分かるのか!!、何であんたに従わなきゃいけないの?!

俺も言おうとしたら、遮られた。


「静かにしてください!!確かに、僕は信用されるに足らぬ人間でしょう!!

ですが、そんな僕にもこのようなやる気に満ち溢れているとご理解していただきたい!!」


皆が静かになって聞いている。


「どこかのやる気の無い、ただの無能な副委員長と僕、どちらがよろしいでしょうか!!」


・・・俺のことだよな?喧嘩売ってんのか?

あいつとは、副委員長を決める時、ひと悶着あったので、それをまだ根に持っているのだろう。


「あいつ・・・」


拳を硬く握り締め我慢する。血がにじんだ。


「空護さん?」


ひいらぎが心配そうに俺の顔を覗き込む。

我慢しようと思ったが、次で限界だった。


「暴力しか頭にない人間以下のごみを、リーダーにしてもいいのですか?!」


「聞いていりゃあ、好き勝手いってくれるじゃねえか!!」


一気に走りこみ木田の胸ぐらを掴む。

木田の表情に恐怖が浮かぶ


「どうしたんですか?殴るんですか?野蛮人は何時もそういう事しか脳がありませんからねえ」


「・・・てめえ!!」


拳を振り上げると思いっきり木田の顔面に叩き込んだ。

鈍い音と共に、鼻血が噴出する。


「痛いよ・・・鼻がいたいよおぉぉおぉぉ!!!」


地面をのた打ち回る木田、弱すぎる。

大口は叩けて、いざとなればこんなにも弱い。

さすがに強くしすぎたかな?

謝ろうとすると・・


「てめえ!!木田になにしやがる!」

「そうよ!!木田君は私たちをまとめようとしてたのよ!!それをこんな形で・・・」

「卑怯者!自分が木田より劣っていることを、素直に認めろ!!」

「お前なんてどこかに行ってしまえ!!」

「出てけーー!!出てけー!!」

皆から出てけコールが始まる。

どんどん皆が俺に罵声を浴びせていく。

俺は耐えられなくなり、走り出した。





体力が尽きて、地面に倒れこんだ。

肺が苦しい、呼吸をすると息が詰まる。


「くそ・・・・!!」


どうしても殴りたかった。いい気になって、人を見下すのを見ると、

胸糞悪くなる。何より自分の事を言われたのが、何よりも悔しかった。

確かに俺は、どんくさいし、頭も悪い。けど、それをみなの前で言われれば、誰だって腹が立つ。

あんな男に馬鹿にされれば、余計に腹がたった。


「空護さん・・・」


いつの間に追いついたのか、

見てみると息を切らしたひいらぎ公斗きみとあきが揃ってこちらを見ていた。


「なんだよ、お前らまで俺に説教か?」


ふてくされて、そっぽを向く。


「お前らもどうせ、俺が喧嘩しか能が無い、馬鹿だと思っているんだろう?」


「違います!!そんなことは、空護さんには言いません!!」


柊が叫んだ。続いて花林がいった。


「俺らもあそこ、抜けて来たんだ。」


「え!?」


「だってさ、あんな奴といるより、馬鹿でも真っ直ぐな奴といてえじゃん。」


「そうだよ!公斗きみとの言う通りだよ。だから、落ち込まないでよ!!」


優しく笑って、秋と公斗が慰めてくれた。

こんなにも感動したのは、中学1年の頃の告白に成功した時以来のうれしさだ。

まぁ、その後三日で振られましたけど

俺にとっては、2人は最高の友人だ。


「優しくするなよ・・・泣いてしまうじゃねーか」


「アハハハ!!泣いちゃえよ!!」


「そうだよ、泣いちゃいなさいよー」


「空護さん、ここは空気を読みましょう!!」


一人だけおかしな奴がいたが、俺はうれしかった。

こんな奴らと一緒に居られるなんて、最高だ。持つべきは友人だな


「あれ、総治は?さっきから見当たらないけど・・・」


ここに来てから総治を一回も見ていない。

迷子かな?この年で?


「分かりません・・・ただ向こうには居ない、という事は分かっています」


「・・・迷子か?」


そんな話をしていたら、耳障りな獣の声が聞こえた。


ヴぉオオオオオオオオォォオォァァァァッァァアァアアアアアアアアアア


思わず耳を塞いでしまう、聞いてるだけで不愉快な咆哮だ。


「何だよ?!この山、何か別の生き物が居ないか?!」


「取りあえず、皆さん逃げましょう!!」


俺、秋、公斗、柊で一斉に走り出す。

山を下るべく、なるべく開けた場所を目指していると


「たすけてくれえええええええ!!!!」

「こないでよ!!こっちにこないでえええええええ!!!」

「ぎゃああああああああああああ足がああああああ!!」



先程のクラスメートの声が、こだまして来た。

俺は3人を置いて、全力で走った。

木々をかき分け、段差を飛び、声のした方向に風のように走る。

急に視界が開けた。しかし、そこは地獄絵図だった。

人間だった肉塊、腕、胴体、頭が木々いっぱい、あちこちに撒き散らされていた。

吐き気を催すような臭いが、鼻腔を突く。


「柊!!秋!!見るんじゃねえ!!」


後ろから追いついてきた、女子二人の目を隠し

そのまま少し離れた場所に二人を待たせる。

戻ってみると公斗が屈んで、様子を伺っていた。


「どういうことだよ・・・何だよ一体・・!!」


公斗が鼻を覆いながらが絶句している。

つい先程まで生きていた者達が、今は目の前に腐臭を放つ肉塊になっているのだ。

絶句して当然だろう・・・

女子に見せたら発狂してしまうだろう。柊や秋には絶対に見せられない。

遠くを見ると、巨大な黒い塊が蠢いている。一目見て、この世の生き物じゃないと悟った。

あれが皆を食べたのだろう。

できるだけ、身をかがめて公斗と話をする。


「公斗、お前二人を連れて逃げるんだ。いいな?俺は生存者が居るかどうか

確かめてくる」



「馬鹿な事言うな・・そうしたら、お前も食われちまうぞ!」


「俺を舐めんなよ?何のために副委員長になったと思っている・・・

皆を支えるために、副委員長なったんだ。」


「・・・・」


「俺は逃げた分は、きっちり返さねえと気が済まないんだよ・・・頼む!!」


自分でも何を言ってるか分からない。だけど、ここであいつらを見捨てたら

木田よりもっと卑怯者になってしまう。

助けたい、ただその一心だった。


「ハ~、死んだら遺書になんて書いとく?」


さすが公斗、話が分かる。


「俺の机の下の奥の箱に、大事なモンが入ってる。それを全部、お前にやる」


いわゆる、男が誰もが一度は見るであろう、エッチな本だ。


「ハハハ!!こいつはいいや、でも生憎、エロ本には困ってないんでね

貰っても読まないか、しまっておくかのどちらかだな」


相変わらず、俺の周りには変態ばかりだ。


「おい、一応言っとく。死ぬなよ?」


「ああ、お前は命に代えても、二人を護れよ・・・」


「分かってる・・」


お互いの拳と拳をあわせる。それが合図だった。

俺は森の奥へ、公斗は山を降りるため下へ。

また生きて会うための約束をして、地面を蹴った。

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