暑いな・・・
こんちわ
みていってね
プロローグ
補習・・・
英語で書くとSupplemental study、という。
無駄な知識はさておき、俺―天原空護は、
その補習を受けるため、夏の昼間から学校に向って灼熱の大地を踏みしめていた。
「暑いの一言に尽きる・・・」
現在の気温は39.3℃、制服は汗で湿って気持ち悪い。
一歩一歩、焼けた道路を歩くと、髪の毛から汗の雫が落ちていく。
道路には人の影はなく、歩いているのは俺だけだ。
周りには田畑ばかりの田舎なので、コンビニという極楽浄土はここには存在しない。
・・・南無阿弥陀仏を唱えれば、極楽浄土に行けるって言ったのって誰だっけ?
唱えれば、コンビニが目の前に現われるかな・・・
いやそれもう幻覚だろ。シャレにならんわ。
何故このような事になってしまったかと言うと
夏休み前に、テストでコケて、
季節に合わない紅葉が、通知表の中で見頃だったからだ。『いわゆる赤点だな』
先生に自慢して見せたら、見事に補習クラスに入れられてしまったのだ。
俺が通う、公立零陵高校は100人以下という小規模な高校だ。
なのに、勉学、スポーツはしっかりやれといわれている。
赤点者には、それ相応の補習があるのだ。
まあ、それが当たり前なんだよな。
重い足を引きずって、何とか目的地に到着。
校門をくぐって、校庭にいる部活の生徒を横目に移しながら歩く。
「いい具合に女子の下着が透けてんな~」
いやらしい目つきで、校庭を見ていたら、声を掛けられた。
「お~い、空護~お前も補習か~?」
友人である乱城総治が歩いてくる。
いつもの様に、俺の頭を気安く叩く。
「挨拶代わりに一発、いっとくかコラ?」
「積極的だな、こんな真昼間から誘ってくるなんて・・・」
うん、ホモるな危険、こいつはやはり変態だ。
これが高校に入学してから毎日続いている。
俺の青春って・・・
「ん?お前、彼女できたのか?」
総治の後ろに、中学の制服を着た女の子が立っていた。
目が大きくて、愛嬌のある顔立ちだ。
総治は残念そうにため息をついて、苦笑する。
「そう言いたいところだが、この子は残念ながら俺には興味が無くてね、お前に用があるらしいぞ」
「俺に?」
その子は律儀に頭を下げてきた。やたらと身長が小さい感じがする。
黒いつやつやした髪は後ろにまとめており、清楚な感じがする。
目は深い、黒曜石みたいな色をしている。
胸は・・・Cかな?
総治にアイコンタクトを取ると、小さな声でCと答えてきた。
やはり同じ見解か・・・
俺と総治は、毎回女の子の胸のでかさを正確に測ることができる。
どうやってるかって?俺もわからん。
「あ・・あの、空護さんですか?」
おずおずと、少女が話しかけてくる。
どうやら緊張しているようだ。
なるべく、優しい声で話しかける。
「ああ、俺が空護だけど・・・なにか用かな?」
「何時も、姉がお世話になってます。
私、柊黒って言います。
柊嵩音の妹です。」
「ああ、あの真面目な委員長の妹さんか、
それで何か用かな?」
大きな目をくりくりさせて、俺を見てくる。
「あの、今日一緒に・・・補習に参加してもよろしいですか?」
意外だったので驚いた。何で俺と一緒に?
「そ・・・それは・・・」
彼女の頬が赤らんだ。
赤らんだ?!何この反応!?
何このエロゲ!?
これはあれか?!あれなのか?あれって何だ?
これはまさか!?
告白イベント来たーー!!
心臓が高鳴る、顔が真っ赤になる。
人生初めての下級生からの告白!!
「実は・・・」
柊は体をくねくねさせながら、恥かしそうにしている。
不安そうなな瞳が、こちらを見つめている。
カモーン!!俺の青春!!
「実は、姉が夏風邪をこじらせてしまいまして・・・
それで代わりに行ってくれと言われました。」
「oh・・・」
思わず口から魂が出た。
予想外だった。
告白だと勘違いし、興奮して頭の中ピンク色に染めていたのだ。
これはひどい。
「副委員長の空護さんと、担任の許可をもらってと
言われたので伺ってみました。」
「oh・・・」
「空護さん?」
未だに体に魂が戻らない、総治が俺の頭を引っぱたいて
目を覚まさせてくれた。ありがたい。
「オッケー、分かった。担任にも伝えておくよ。」
「ありがとうございます!!助かります!!」
握手されてブンブン振り回される。元気がいいなぁ。
折角なので、一緒に教室に向かった。
総治が歩きながら柊にナンパをしていたので、とりあえず殴った。
教室を開けると、数人が既に席に座って
各々自分のやることをしていた。
俺たちは窓際の隅っこに固まって座った。
後からやってきた、保健委員の育島秋、
サッカー部の花林公斗にも
柊を紹介する。二人とも優しいのですっかり馴染めたようだ。
みんなが談笑しているのを見つつ、思いっきり伸びをした。
「ん?」
なんとなく天井を見たら、見かけない札が1枚貼ってあった。
よく見ると、教室の隅に1枚ずつ丁寧に貼られている。
「おい、あれ何――」
聞こうとしたら、いきなり教室が閃光に包まれた。
そのまま激しい衝撃がきて、意識を失った