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銀竜の鱗  作者: みきまろ
第一部
2/14

2 出発は夜明けとともに

 ユーニスに言われた通り、ラヴィニアは夜明け前に東門にいた。


「よし、時間は守ったな」


「あなた、最っ低」


 ラヴィニアが怒っているのには理由わけがあった。ユーニスが夕刻に侍女伝手に届けてきた服は、下町の小僧が着るような貧相でごわごわとしたものだったからだ。


「なによこれ! 全然かわいくない! 硬い! 臭い! 動きにくい!」


「動きにくいはずはない。ヒラヒラしたドレスなんかより、格段に機能性は上だ」


「こんな硬い服を着てたら、肘がすりきれちゃうわ!」


「肘ぐらいすれても死なん。いいから黙ってこれをしろ」


 ユーニスがわめくラヴィニアに渡してきたのは、昨日言っていたアイマスクだ。鞣した革で作られたそれは、両目のところが開いていて、頭の後ろで縛るようになっていた。


「縛って」


「自分でやれ」


「できないもん」


「なんだと?」


 ラヴィニアの言い様に、ユーニスが目を釣り上げる。けれどラヴィニアは、どんなに怒られてもできないものはできないと、ユーニスにマスクを押し付けた。


「くそっ」


 こんなやりとりに時間をかけていては夜が明けてしまう。暗いうちに城を出たかったユーニスは、「今回だけだ」と言って、ラヴィニアにマスクをつけてやった。


「痛い! そんなにきつくしないで」


「取れて縛りなおすはめになるのはごめんだ」


 ぎりりと締まるマスクに、ラヴィニアは悲鳴を上げる。この男、私を誰だと思ってるの!? と睨みつけたが、ユーニスには全く効果がなかった。

 そもそも、昨日の無礼なふるまいを父に話したら、「それがなんじゃ」と一蹴されたラヴィニアである。父に怒ってもらおうと思っていたラヴィニアは、当てがはずれてがっかりした。そればかりか、ユーニスの言うことをよく聞いて、困ったことがあっても旅を終えるまでは、一切、国や父を頼るなと言われた。

 万が一、ラヴィニアが鱗を探していることがバレて、芋づる式に王冠の鱗が失われたことがバレたら困るからだ。


「これでいい。ひと目ではラヴィニア王女とはわからないだろう」


「……ありがと」


「呼び名はどうする。俺のことはユーニスでいい。あんたは……ラヴィってとこか」


 否やはなかったラヴィニアがうなずく。

王族の嗜みとして、かろうじて馬には乗れたラヴィニアが騎乗してユーニスに並ぶと、ユーニスは馬につけた荷物の説明をした。


「あんたのほうには、着替えと水と炊飯道具が入っている。馬の負担を考えて、悪いが重い方だ。俺の方には、食料と地図だ」


「なんであなたが地図持ってんのよ」


「あんたに地図が読めるのか?」


「う……」


「あと、この短剣を持っていろ。使い方はおいおい教える」


「わかったわ」


 ユーニスは、ラヴィニアが腰につけた革帯に短剣を差し込む。そして、「話し方も直せ」と言った。


「話し方?」


「女言葉はだめだ」


「~~~~! あれもだめ、これもだめって、あなたにそこまで言う権利があるの!?」


「権利はない。が、義務はある。俺はあんたを無事に連れ帰らなくてはならない。

道中は安全な場所ばかりとは限らない。女だとわかっただけで酷い目に遭う場所もある。自分の命が惜しければ、言うことを聞け」


「……はい」


 冷静に言うユーニスに、ラヴィニアは言い返せない。

 ユーニスは、大人しくなったラヴィニアにうなずくと、馬首をめぐらせて門を出た。


「これから先、泣いても笑っても俺とあんたの二人だけだ。王に誓ったように、この命と剣にかけてあんたのことはきっちり守るが、仲良しごっこをするつもりもない。甘えは一切許さないからそのつもりでいろ」


「わかったわ……じゃない、わかった」


 言い直したラヴィニアに、ユーニスは鷹揚にうなずく。ラヴィニアは聞き分けのよいふりをしながら、先を行く広い背中にこっそりと舌を出した。


 地平線が、明るくなってくる。

 朝日に照らされる城下町に、馬に揺られる二人の姿が消えていった。



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